9再生【……これは夢……だったのかなぁ……悪い夢……いや……いい夢……だったよぉ】

 ――夢。


 一言で言えば、それはすべてが“幸せ”へとつながるものだと思う。


 眠っている間に見る夢。ときには悪夢にうなされることもあるかもしれない。

 それでも、お布団にくるまる時間はとても幸せで、そのひとときに「生きてるっていいなぁ」と感じるでしょ?


 そして、願い、理想、目標――。

 それらを胸に抱いたとき、人は大きく成長し、圧倒的な多幸感に包まれるんだぁ。


 “成長なくして、人は人たり得ない”


 儚さの中で幸せを噛み締め、幻想の中でその確かさを味わう。

 だからこそ、わたしは今、この時を全力で生きるんだ。


 にゃっはっは!


 大げさなことを言っちゃったけど、今回もただの平凡な日常だよぉ。


 でもね、わたしたちはいつも夢に向かって頑張ってる。

 それだけは、知っていてほしいんだぁ。


 見返りなんて求めない。


 ただ、ほんの少しでもいい。


 わたしたちを知ってほしい。好きになってほしい。


 今回のお話は、そんなお願いの物語――。


「「「――夢って、なに?」」」


 アノメンのみんなとのコラボ配信のとき、ふと、わたしはんがちゃんとザコ先輩、それにママさんへ、なんとなく自分が抱いている夢のことを聞いてみることにした。


「んがちゃんは何かあるぅ?」

「ほうじゃのぉ。わしゃあ一遍、広島に行って本場の広島弁をようけ聞いてみたいんじゃけぇ」

「ハァ!? あんた、広島出身じゃなかったの!?」

「ちゃうんよ。生まれも育ちも東京の下町なんじゃ。まあ、いっときはよそにおったこともあるんじゃけどのぉ」

「じゃあ、あんたの使ってる広島弁って……?」

「『仁義なき戦い』で覚えて、勝手にテキトーに使っとるんじゃ」


 突如、衝撃の事実が明かされた。

 まるで鼻をつく匂いを嗅いだニャンコのように、わたしは思わず「あお~ん」と叫び声をあげてしまったよぉ。


「ちょっ、エセ広島弁じゃないのよ!?」

「ママ、すっかり騙されてたわ~♡ がーなちゃんって、何気に江戸っ子だったのね~♡」


 んがちゃんの広島弁はインチキだったよぉ。


「ほうじゃの。ところで、ママさんは夢ってなんかあるん?」


 そして、そのまま会話の流れはママさんへ移った。ママさんは少し照れた声で、「ママはね~、ステキなお嫁さんになること~♡ きゃ~、言っちゃった~♡」と照れ笑いを浮かべた。


「相変わらずあんたの脳みそお花畑ね」


 しれっと、遠慮なしにどぎつい発言をママさんに向けるザコ先輩。


「ま、まぁまぁ~! ザコ先輩って、いつもママさんにやたら当たりが強いですけど、付き合い長いんですかぁ?」


 アメプロに入ってから、ずっと気になっていた小さな疑問だったんだよねぇ。


「うふふ♡ チビ姫ちゃんとはね~、もう十年以上の付き合いになるかしら~♡」

「えぇっ!? そんなに!?」


 わたしは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。


「実はあーし、VTuberを始める前は子役やってたんだけど、その頃からマッちゃんとはずーっと腐れ縁なのよ」

「そ、そうだったんですかぁ」


 ザコ先輩とママさん、中の人って何歳なんだろう……。

 ちょっと気になるなぁ。

 まぁでも、二人のことだから、もしわたしが年齢を知ったら、絶対にさりげなく消しにくるだろうけど。


「――で」

「なんですかぁ?」

「あーしには聞かないの? その夢ってやつ?」

「あ、ザコ先輩のは別に聞かなくてもいいかなぁ」

「ハァ!? なんでよ!? あーしにも聞きなさいよ!! このザコ!!」


 ザコ先輩、ブッチギレちゃったよぉ。

 ほんと、もう仕方ないなぁ(嬉)。

 わたしは渋々ながらも、改めて話を振ることにしたよぉ。


(分かってると思うけど、内心は全然満更でもないんだからね。えへへへ)


「じゃ、じゃあ……、ザコセンパイノユメハナンデスカー?」

「なんでカタコトなのよ!?」

「だって、ザコ先輩ですし」

「理由になってないわよっ!」


 ザコ先輩、わたしとの会話中、今日もずーっとハイテンションだよぉ。

 そんなにテンション高くて疲れないのかな?って思うけど、まぁ、わたしにもそういう時があるからなぁ。


「もういいから、早く話しちゃってくださいよぉ」

「投げやりじゃ話さないわよっ!」

「めんどくさいザコですねぇ。さっさとやられちゃってくださいよぉ」

「そんなに早くやられちゃったら、みんなの経験値が全然たまらないでしょ!」


 弄りがいのあるザコ先輩、ほんっとに大好きだなぁ。


「にゅっふっふ。よーしっ! それじゃ、場も温まったし! ザコ先輩、ザコの威厳を見せてくださいねぇ~!」

「しょ、しょうがないわね。じゃあ、話してやろうかしら!」

「「「どうぞどうぞ」」」

「……なんかあんたたち、ムカつくわね。でもまぁ、いいわ。それで、あーしの夢は」


 突然、ザコ先輩の声がピタリと途切れた。


「ザコ先輩? どうしたんですかぁ?」

「急に声が聞こえんようになったんじゃが」

「機材トラブルかしら~?♡ チビ姫ちゃんのパソコン、そんなにスペック高くないからね~♡」


 ママさんはいつも通り、優しげにコロコロと笑う。


「そうなんですねぇ。ザコ先輩らしいと言えばらしいですねぇ。それにしても、やっぱりザコの末路は哀れなもんですねぇ」

「「うんうん」」

「……もうとっくに声も聞こえてるし、話もできるんだけど」

「あ、ザコ先輩! またエンカウントしましたねぇ! おかえりなさぁ~い!」


 わたしが和やかに話を振ると、ザコ先輩が「――そういえば」と小さくポツリと言った。


「ねえ、あーしたちの夢ばっかり聞いてるけど、肝心なあんたの夢って何なのよ、リカ?」

「わたしの夢は――」


 一瞬、すべてを吐き出しそうになったけど、ハッと我に返る。


「どうしたのよ?」


 ザコ先輩のお目目がパチクリしている。


「ふふっ。なんでもないですぅ」

「なんだか笑ろうて、幸せそうじゃの」

「そうかな?」

「いつも以上に声が弾んでるわよ~♡」


 それはきっと――


『大好きなあの人のことを思い浮かべたから』


(ユリンユリン・イチャラブスキーさま、見てくれていますか?)


 わたしは、心から信頼できる仲間に恵まれ、今日も元気にあなたへこの“あいのうた”を届けています。


 あなたが送ってくれた“まことのうた”を胸に抱きしめ、心の支えとして――。


「「「リカ」」」


 ユリンユリン・イチャラブスキーさま――。


 あなたは今、いったい誰に転生したのですか?

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