第2話 コーチのお仕事
プロ野球というのは不思議な世界である。
監督が監督として、さほど有能でなくても、なんとか勝ってしまうことが出来る世界だ。
他のスポーツであれば絶対に、そんなことはないであろうに。
コーチ陣の判断なども、総合的に使えるだけに、そういうことがありうるのだ。
そして名選手が無能な指導者として、選手を潰してしまうこともある。
監督はチームの顔として、ある程度は知名度を必要としても、コーチぐらいは有能でないと困る。
だがここでも派閥が働いてくるのだ。
幸いと言うべきか、レックスはあまりそういった、派閥やコネによる無能の重用がない。
それはレックスの歴史の中で、無能が指導者などをしていれば、チームが負け続けるという現実が待っているからだ。
これが人気球団であったりすると、無能がコーチをして選手の可能性を潰す。
さすがに近年では少なくなってきたが、精神論だけで選手を鍛えるコーチも、平成の世になってもそれなりにいたのだ。
現代ではさすがに、学ぶ方も自分でちゃんと情報を得ている。
スマートフォン禁止という強豪もあったが、その流れも逆転している。
自分で調べることこそが、重要なことなのだ。
無駄な情報に触れて時間を潰すなら、それこそ精神的な問題である。
寮開きからキャンプまでに、一ヶ月弱の時間がある。
その間に新人や若手は、首脳陣にアピールしていかなければいけない。
とりあえずレックスにおいては、育成素材と即戦力を、しっかりと見極めなければいけない。
真田などは確かに即戦力レベルの力もあるが、しっかり育成してから使った方がいいのではないか。
もっとも一軍の空気を感じさせるために、キャンプの一軍帯同は決まっているのだが。
豊田はとりあえず、スプリットの投げ方については教えた。
フォークに比べればマシだが、スプリットも変な投げ方をすれば、肘に負荷がかかりすぎる。
それぞれのピッチャーは投げ方によって、適した変化球というものが存在するのだ。
なんでも投げられる直史は、明らかにおかしい。
そのなんでも投げられる直史でも、スプリットはあまり投げない。
スルーの方が上位互換、というイメージで投げているからだ。
速球の変化球が一種類あれば、開幕からローテに入ることが出来る。
真田はそう言われたものの、何を試すかは自分次第。
一通りは試してみて、しっくりときたものを練習する。
とりあえずツーシームは、少しだけ変化はした。
だが下手にスピードが落ちて、単純に打たれやすくなるかもしれない。
速いカーブと遅いカーブを使っていたのだから、あとはどれがいいのか。
スピードが出る変化球となると、やはりムービング系である。
あとはカットボールも、相性によるがかなりスピードが出たりする。
ただどれぐらい変化させるかによって、必要な球種も変わってくる。
「ナオさんにキャンプで見てもらった方がいいな」
若手の球を受けるために、しっかりとこちらに合流している迫水。
もっとも彼は社会人から入ったということもあり、既に寮は出ているのだが。
真田のピッチングのフォームは、かなりのオーバースローである。
もちろん今の時代、スリークォーターが基本であり、あとはどのぐらい腕を傾けるかが個人差となる。
高校時代には既に、しっかりとフォームを固めていた。
これを下手にいじってしまうと、故障の可能性も高くなる。
190cmある真田は、かなり筋肉もついている。
だが昇馬に比べると、まだ細いと豊田は感じるのだ。
もっとも細いと考えるなら、直史なども身長に比べて、体重が軽いといえるだろうが。
今年のレックスの目標は、もちろん日本一である。
だが直史だけに頼って日本シリーズに進むのは、もうチームとしてバランスが悪すぎるのだ。
西片としてはチーム力全体を高めたい。
そして直史と緒方の引退後、戦力を維持することを、考えているのだ。
若手のピッチャーの中には、ちゃんと育ってきている者もいる。
FAでポスティングで移籍していく、ピッチャーの数が多いレックス。
三島は去年そこそこの成績を向こうで残し、少なくとも不良債権にはなっていない。
百目鬼は一軍のローテに定着した年齢を考えても、まだあと二年はレックスで使える。
そこで大型契約を打診してみて、メジャー挑戦の意思があるなら、ポスティングにかけることになるだろう。
国内FAで出て行ってしまうのは、ちょっと勘弁して欲しいものである。
ポスティングで大型契約を結ぶのに、現在のMLBの条件であれば、27歳のシーズンを終えてからとなる。
平良などもその翌年あたりには、条件を満たすかもしれない。
同時に大平も条件を満たしそうなのは、レックスとしては困ったものだ。
それよりも前に国吉には、今年の編成が複数年契約をしかけた。
彼はそれに同意して、四年で12億という、中継ぎとしてはものすごい好条件を飲んだのだ。
その契約が終えた時には、31歳となっている。
中継ぎピッチャーとしては、パンクしていてもおかしくない。
ただレックスはここのところ、中継ぎを酷使して潰すことが、比較的少ないチームである。
ある程度の故障はあるが、去年も平良はちゃんと復帰してきた。
国吉もちょっとした離脱はあったが、パフォーマンスを大きく落とすことはなかったのだ。
中継ぎに限らずリリーフ投手は、何枚いてもいいものだ。
その中から先発に転向するピッチャーが出てくれば、ローテを厚くすることが出来る。
レックスはこの20年ほど、ピッチャー優位のチームになっている。
投手の育成に関して、ノウハウが出来ていると言えるだろうか。
もっともこういったノウハウは、他のチームにもかなり、共通しているはずなのだ。
リーグは違うが千葉なども、圧倒的にピッチャー優位のチームである。
おかしな話で、レックスのチーム打率などは、それほどタイタンズやライガースと差があるわけではない。
しかし得点力では、大きな差が出来ている。
長打力の差であるのだが、レックスも外国人選手や、長距離砲をドラフトで、指名していないわけではないのだ。
そして一番重要な、試合の勝敗においては、レックスが上回っている。
もっとも今のレックスの場合は、直史の成績が異常値になっているのだが。
やはり四番の存在であろうか。
実際のところは四番ではなく、主砲の存在と言っていいだろう。
ライガースは大介が、二番として異常な得点を叩き出している。
そしてタイタンズは、悟と司朗の二人がいる。
悟は成績が落ちてきたが、それでもまだ30本はホームランが打てる。
司朗はホームランも打てるが、自分でベースを踏む回数と、ランナーがいる時にケースバッティングをすることで、打点も増やしているのだ。
打てる選手というのは、レックスにもいるのだ。
コンスタントに20本以上のホームランを、小此木からカーライル、近本にクラウンは打っている。
去年は途中から五番に上がった迫水も、二桁ホームランは打っていた。
「大砲が出てこないとなあ」
それでも充分に望みすぎだ、というのは分かっている西片だ。
セットプレイや守備に、力を入れすぎているのだろうか。
リソースをもっとバッティングに注ぐべきかと思うのだが、バッティングは水物である。
そして実際に、この戦力構成でリーグ優勝はしている。
もちろん直史がいなければ、それは不可能であったと分かっているのだが。
全体的に見て、選手層が薄いのだ。
特にバッティングの選手層が、ライガースやタイタンズよりも薄い。
もっともそれを言うのなら、ライガースやタイタンズは、ピッチャーの選手層が薄いとなる。
ただ去年の二軍は、イースタンではタイタンズが優勝している。
一軍に上げるピッチャーが多そうで、今年はかなり投手陣が、強くなっていそうであるのだ。
かつてはライガースにいた西片であるので、ライガースの難しいところは分かっている。
試合に負けたとしても、しっかりとホームランなどの、打撃で見所があればファンは満足する。
その空気が分かっているため、首脳陣も攻撃には積極的になる。
だがたまにエースと言えるピッチャーが出てくると、そこで強くなるのだ。
今のライガースには、去年からローテ入りした御堂などが、その気配を持っているだろうか。
またスターズは上杉の息子が入ったことで、注目度が上がっている。
高卒からいきなりローテ入りが期待され、実際に甲子園のピッチングなどを見る限りでは、充分な能力はあると思う。
プロの世界で中六日で投げるのは、また勝手が違うかもしれないが。
(まあ新人で考えるなら、パの方が厄介になっているか)
福岡は一巡目こそ外したが、ハズレ一位では一本釣りに成功。
だが中浦は体格を見ても、二年ほどは体作りではないか、という素材枠だ。
埼玉に昇馬が入ったが、これに関しては個人の力が、どれだけチームを強くするのか。
左右の両方で投げられるといっても、一年目から無茶な使い方は、下手をすれば壊してしまう。
一年目はおそらく、使い方を探っていく年となるだろう。
そもそも埼玉はチームとして、粘りが弱いところがある。
最下位のチームであるから、今年いきなり強くなる、ということは考えなくてもいいだろう。
もちろん油断してはいけないが、違うリーグのチームなのだ。
交流戦で三試合戦ったとして、それがレギュラーシーズンを左右するのか。
それよりも埼玉は、去年の怪我人多数が、ちゃんと復帰できているか、そこを重視するべきであろう。
レックスは打力がほしい。
二位でパンチ力のある選手を取ったが、ポジションが外野でかぶっている。
風見や鷹山が、二位で残っていればとは思った。
だがウェーバーでレックスは、去年優勝しているため、指名順位が低かったのだ。
どちらにしろあのサードの二人は、ハズレの一位指名で取られてしまったが。
神宮を本拠地として、40本以上を打つような四番。
西片が欲しいのは、そういう存在である。
編成もかなりぎりぎりまで頑張って、外国人と交渉はしているらしい。
あとはそれが取れるか、取れたとしても本当に使えるか、それが問題となってくる。
(シーズンが始まってしまった方が、どちらかというと気は楽になるかなあ)
それで負けが込めば、それはそれで胃が痛くなるのだが。
とりあえず若手はピッチャーが育ってきている。
いっそのことトレードなどという手段も、あるのではなかろうか。
昨今はあまり、トレードは戦力補強の主流ではない。
だが育成で上がってくる長距離砲がないのならば、その選択も考えないといけないだろう。
編成に打線強化の声は出しているのだが、二軍での成績も含めて、今年もあまり大きな期待は出来ない。
(それよりも左右田がちゃんと、戻ってこれるかどうかだよな)
開幕までに間に合うのか、そしてバッティングの空白期間が埋められるのか。
意外と打てる選手が揃っている割に、大量点が取れないという、レックスの今年も悩ましいものである。
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