5話 ご主人様とメイド
カプセルの中から目を覚まして起き出てきた眠り姫ならぬ眠りメイド。
そのメイドに俺は情熱的なキスをお見舞いされた。しかも彼女は自らを人間ではなくメイドロイドだと抜かしたのだった。
「ご主人様――」
それに俺がご主人様……。頭がどうにかなりそうだ。
「――――ご主人様? どこかご気分でも優れませんか?」
「……あぁ、いや。メイドロボにご主人様呼ばわりされて混乱中なだけだ」
少し呆けていたか。
そんな俺に対してセラスと名乗ったメイドロボは表情を変えることなく、翠色の瞳でこちらを見据えながら両手を広げ――。
「メイドロボではなく『メイドロイド』でございます、ご主人様。なるほど、ご主人様は混乱されている。ならば……さぁどうぞ。殿方は女性の胸の谷間に顔を埋めれば大抵は落ち着くものでございます」
(いきなりそんな事を言われて――はい、では遠慮なく! とはいかんだろ。頭涌いてんのかこのメイドロボ――いや、メイドロイドは!)
「せっかくで悪いけどたった今落ち着いたよ! それよりも、お前――――」
「セラス」
「いや……」
「セラスとお呼び下さい」
「あの…………」
「セ、ラ、ス、でございます」
名前で呼ばないとこのやりとりが無限に続きそうだな……。呼べばいいんだろう、呼べば。
そういえば、こちらはまだ名乗っていなかったな。こいつ――『セラス』とか言ったか?
先程のやり取りから鑑みて、俺の名前を教えないと絶対しつこく聞いてきそうだ。
「わかったよ、セラス。真宏――俺の名前は赤木真宏だ。ご主人様呼びは……なるべくならやめて欲しい。メイド喫茶じゃあるまいし」
「メイド喫茶?……左様で。前向きに検討いたします。では改めて真宏様……あぁ、契約早々に名前呼びをお許しに……セラスは大変嬉しゅうございます」
「名前で呼んでくれ、なんて言ってな……あー、良いよ良いよ名前呼びで。それよりもだ、セラスはこの状況について何か知っているのか? 知っている事があれば教えて貰えると嬉しいんだが」
下手に訂正したらまた無限ループに入りそうな気がする。話を聞く為だ、名前呼びでもいいだろう。
……別にこちらが折れたわけではない。
「そうでございますね……。単刀直入に申しますと、文明は崩壊した――そう言えばお信じになられますか?」
「…………はぁ⁉ 冗談だろ? そんな……現実的じゃないだろ。ほら、あれだ! 大地震が発生したとか――――」
「いいえ。私はその瞬間を目撃した訳ではございませんが、まず間違いないかと」
「なんだよ、直接見たわけじゃないんだろ? 間違いないなんてよく言えるな。それに、文明崩壊なんて突拍子もない事言うなよな」
文明崩壊などという状況を信じたくない、そんな俺に対しセラスは諭すように言葉を続ける。
「戦争でございます。いわゆる第三次世界大戦が勃発したのです」
「…………戦争……世界大戦……。そんなばかな……」
「なにが切っ掛けだったのかはわかりません。領土・資源争奪かイデオロギーなのか、全ての大陸で同時多発的に戦闘が発生。当初、核兵器は使われず通常兵器による局地戦でしたが、それが大規模なものになるのに然程時間は掛かりませんでした」
世界大戦。でも核兵器は使われてないんだ、それで文明崩壊なんて。
「開戦から数年。戦禍の影響は徐々に世界に広がり、膠着状態を打破しようと各国で兵器開発競争が加速。あらゆる分野で技術的なブレイクスルーが起きました。戦場では無人兵器や生物兵器、装甲スーツが砲火を交え、後方では死なない限りサイバネ技術で治療された兵士が前線に送り返され続ける」
「そんな――そんなの…………」
「そう――地獄でございます。私のようなアンドロイドなども元々は福祉目的で研究・開発が進められていたのですが、軍事転用され、その多くが戦場に送り込まれました」
「……どんだけ戦争してんだよ、アホ過ぎるだろう人類」
「ヒトの業、というものでしょうか?」
歯止めが効かなかったんだろうが……どこかで停戦とかにならなかったのか?
「で? 結局、文明崩壊したっていう根拠は? 推測で良いから聞かせろよ」
「お信じになられますか?」
「うーむ……」
文明崩壊なんてなぁ……。確かにそんな想像、したこと無いと言えば噓になる。だが、いざ現実となるとなぁ。
「ふむ……ちなみに私が開発・製造されたのは開戦からおよそ百年後」
「え、なに唐突に……って、ひゃくぅっ⁉」
「私は八又産業のアンドロイド技術の粋を集めて造られました。最終調整の折、暇つぶしがてらにネットワークにアクセスして色々と情報収集をして――勿論、社員には秘密ですよ? 無断でアクセスしていましたから」
不正アクセスじゃねえか! なにやってんだか、こいつは。
「その時に得たデータの中に世界各地で核ミサイル発射の兆候がありましたので恐らくはそういう事かと。私は出荷待ち状態でここに一時保管されていたので難を逃れることができました。ここが核シェルターなのが幸いしましたね」
うん、そうだね、良かったね――――って、結局核兵器使ってんじゃねえか! そりゃ核兵器撃ち合ってりゃ文明崩壊ぐらいするわ!
「そして六百年の時を超え、真宏様と私ことセラスは運命の出会いを果たしたのです」
………………はい?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます