第14話

今日は中間テストだ。教室内はテスト前にバタバタと参考書やら事前にまとめたノートを開いて復習するクラスメイトで溢れかえっている。


(俺もそのうちの1人なんだけど…)


「なーアキぃ。この問題ってこのA項にこの数字を代入して適当にバーってやればいいんだよな」


「…合ってるけど説明雑すぎるだろ。なんだよ、”バー”って」


今日のテストは1限が数IIで、2限が現国、3限がコミュ英だ。数IIだけ暗記も必要だから、この数学が終わり次第今日の暗記系科目からは解放されることになる。チャイムがなり、先生が声をかけクラスメイトが席へと戻って行く。


先生が問題用紙と解答用紙を配る間に、シャーペン内のシャー芯を確認する。前シャーペンの中にシャー芯が2cmくらいしか入ってなくて、ギリギリ書けなくなる所だったことがあって以来気にするようになった。


「じゃー45分になったら開始するから、それまではテスト用紙には触らないようにー」


教室内がシーンとなり、テスト前の独特な緊張感に襲われる。そんな時、右斜め前に座っている佐々木さんが目に入った。


(なんか…とてもそわそわしてる。どうした?)


シャーペンをカチカチしてはわたわたしているようだった。もしかして芯が入ってなかったのか。俺はシャーペンの中にも一応予備の芯を入れるタイプなので、シャー芯を取り出して手を上げる。ここで佐々木さんに直に渡してもいいが、変な言いがかりをつけられてカンニング扱いされても困る。


「先生」


「おー。どした高井」


「シャー芯落としたので、拾っていいですか?」


そうして許可をもらった俺は立って床に落ちたシャー芯を拾うふりをして、佐々木さんの席にシャー芯を届けた。


「!!」


とりあえず、合図もかねて佐々木さんにはウインクした。ウインクとか体感的に15年ぶりくらいにしたから上手くできた気がしないが、涙目だった佐々木さんが心得た、といった表情をしていたので大丈夫だと思う。


これでナチュラルに佐々木さんにもシャー芯を届けることができたはずなので、個人的には良しとする。席に座り直し、一応シャーペンをいじる。シャー芯落としたって言ったのに何もしないのは何か変な気がするからな。


45分になり、テストも開始し80分。数学のテストはちょっと時間が長かったが無事にテストを終えることができた。


「じゃあ、数学のワーク集めまーす。持って来てくださーい」


日直がワークを集めようとしたときに、斜め前に座ってた佐々木さんがこっちに向かって勢いよく頭を下げてきた。


「神様、仏様、高井様!!!今回は超ありがとうございました!!」


「神様、仏様、高井様って。俺そんな偉くもなんともないよ」


「いや、私にとってあの状況から救ってくれたんだから神様だよ!私数学の成績良くないし、テスト白紙なんていったら単位落としてたし!!」


成績の良し悪しは関係なく、テストは白紙だったら落単する気がするのは俺だけか。いや、さすがに名前も書いてなかったら補修とか受けさせてくれるのか。前のときもそこまで成績が悪かったわけじゃないからわからない。


「いや、ほんとに助かったの!!チョコあげる!」


そう言ってクランチ系のチョコを俺に渡し、女子のグループに混ざりに行っていた。


「アーキーくぅーん?ふっふっふー…俺はみましたよ。佐々木さんを目立たせずにシャー芯をさりげなく渡すのを。またモテちゃいますねぇー」


「うざ。勉強しろ、翠」


「しかもチョコまでもらっちゃって。あ、これ新発売の味じゃん。朝コンビニで新発売って書いてあった。抹茶いちご味だって。絶対うまいじゃん。食ったら感想教えて。買うか決めるから」


抹茶いちご味ね、大分和風な味だな。一口食べてみると抹茶の風味が鼻から抜け後からいちごの濃厚な味が広がってくる。


「あー、うまい」


「マ?んじゃ買うわ。あんがとねー」


今日は前髪が邪魔だったのか前髪をピンで止めている翠だが、なんだかんだいって翠もモテていると思う。クラスの端でひそかにクラスメイトから”今日の翠くん前髪あげてるー!かわいいー!!”とか言われているし。そんな翠だが、今回も前回のように仲の良い夫婦になるとは限らない。今回も親友が幸せになるように見守らねば。


(…けど、とりあえず今はテストに集中だな)

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