第13話

中間テストまであと10日。部活も休みとなり、校内はテスト一色だ。まだ高2だから受験という雰囲気は一切無いし、テストという雰囲気すら無い。俺は中間テストで試験する5教科のうち、数学系の科目が一番不得意であると感じているのでその勉強をしに図書室に向かっていた。


図書室はテスト前ということもあり人が多く、1人1人で区切られている自習机は空いておらずグループで使うような机もほとんど空いていない状態だった。唯一空いていた席の隣にクラスの三輪さんが座っていた。名前も知らない女の子の隣に座るのは少し躊躇するが、顔見知りなら問題ないだろうと思い席に着く。


「ごめん、隣失礼するね」


小声で三輪さんに言い、テキストを広げる。苦手とは言っても一度はやったことあることだから、授業を受けなおせば”あーこんなこと昔にやったなぁ”と思うことがほとんどだった。授業を振り返って一応ヤマを張るが、あんまりヤマ勘があたった試しがないのでこの勘に関しては信用していない。俺は書いて覚えるタイプだったので、ひたすらにノートに大事そうな公式とその解き方を書いていく。


そんなことを繰り返して早1時間。少し休憩、と思ったところで隣の席で首を傾げながら唸っていてる三輪さんが目に入った。のびをして背中を伸ばしていると、どうやら同じく数学を勉強しているらしい。俺は数Bの勉強をしていたからベクトルの範囲を勉強していたが、三輪さんは数2の勉強をしていた。


「ここがわからないの?」


つい幼稚園児に話しかけるみたいに話しかけてしまったが、俺が数学を勉強していたことを見るや否や目を輝かせてこっちを見た。


「高井くん、わかるの…!?」


「わかるけど、教えるのは上手じゃないと思うからあんまり期待しないでね」


ちなみに範囲は相加相乗平均だ。懐かしい。わかることを人に教えるのは自分の勉強にもなるし、俺は進んで三輪さんに教えた。アウトプットで思い出したが、歳を取ったせいでアウトプットがどんどんできなくなる、と思った。全然思い出したいことも思い出せないことがよくあったけど、高校生の脳は若いのかそんなこと全然なかった。


「…どう?こんな感じで納得いった?」


「すごーい!!すごいわかりやすかった!これでテストもいけると思う!ありがとう!!」


「よかったよ」


なんか喜び方が頭撫でてもらえたチワワみたいでなんか小動物みたいでかわいいな、と思ってしまった。高校生に対してかわいいなんて思うなんて、年齢的にアウトだろって思うけど思ってしまったものはしょうがない。少し落ち込むが、この世界というか時代に戻ってきて周りも高校生しかいないこの環境に引っ張られて、思考まで高校生に近くなっているのかもしれない。


「た、高井くんありがとう!」


「うん。わからないところあったらまた言ってね」


まただ。そう言ったら三輪さんがすこし言葉に詰まっていた。


「ううん、わからないところとか、その先の勉強不足だったところまで教えてもらえちゃったから大丈夫!もう5時だしお母さん迎えにくるから私もう帰るね」


「気をつけて帰ってね、じゃあ…また明日」


「…うん!また明日!」


そっか。三輪さんは母親が迎えにきてくれてるのか。前に痴漢されてたから通勤、いや通学か。通学が不安だったんだけど、それなら安心だ。それよりも三輪さんに教え始めてから、あっという間に2時間が経っていたことに時間の流れがとても早かったなと感じる。


俺の勉強は1時間で疲れたのに、人に教えるのは2時間も平気だったなんて人間の脳は都合よくできてるな、と思う。


「はぁ…俺も帰るか」


今日は懸念点の数学も同時にできたし、家帰ってから他の教科も勉強するかと思い帰路につくのだった。

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