第17話 ─忍び寄る悪意─

 カツカツと岩肌と金属がぶつかる音が響く。

 少し湿った洞窟内には吹き抜ける風が呻き声のような音をあげる。

 「急に雨なんて聞いてないよぉ……。」

 漣花が濡れたローブを絞りながらそう言う。

 ダンジョンフィールドはジャングルだろうか、少し湿った空気に生い茂る草木をかき分けて探索をしていたところで突然雨が降ってきたのだ。

 近くにあった洞窟に逃げ込んだは良いが、洞窟内は冷えているのか少し肌寒い。

 「そのカツカツって音うるさいからやめてくれない?」

 少し怒ったように横にいた義弥にそう言う。

 彼は全身をフルプレートで包んでいるため、控えめに言っても足音がうるさい。

 そんな彼は自分でもそんなことは分かっているようで、少し申し訳なさそうな顔をする。

 「うっせえな、しょうがないだろ。アタッカーなんだから多少防御あげとかないとだろ?」

 そんなことを言うと、ちらりとこちらを向いてくる。

 まあ、その気持ちも分からなくは無いが、俺の場合はいいものがあるからな。

 「というか、ここのボスはどこにいるんだ?」

 俺から視線を外すと、義弥がそんなことを言う。

 元々予定していたのはBランクの下級ダンジョンだったのだが、彼らが同行するということで上級のダンジョンに潜る事になり、早々に当たったフィールドがこんな自殺でもしたくなるような森の奥地だったのだから、そんなことを思うのも当然だろう。

 「そうね、Bランクはもう5回は潜ったけど、まだ上級のフィールドには慣れないし、どうすればいいんだろ。」

 そこら辺に転がっている木の枝に火を灯しながらそんなことを言うのは漣花だ。

 香椎はちょこんと隅の方に座って二人の姿をチラチラと交互に確認して会話を聞いている。

 「とりあえずは雨が止むまでここにいるか?」

 「そんなことしてたら日が暮れちゃうよ。」

 ポンポンと進んでいく会話に俺も香椎も入る隙を見つけられず話の方針が固まるのをただただ待つことしか出来ない。

 「まあ、ならこの洞窟を下ってくしかないよな。」

 そう言って眺めた先には俺たちが入ってきた階段があり、その階段は真っ直ぐと下に進んでいる。

 「まあ、それが無難だよね。」

 義弥の言葉に同意するようにそう言うと、スイとコチラを見てくる。

 「それじゃあこれから下に潜るけど、もしかしたらとんでもなく強いモンスターがいるかもしれないから、気をつけてね。」

 義弥も香椎もこくりと頷いて、出立の準備を始める。

 俺はただ胡座をかいて座っていただけなので、何も用意するものはなく、ただ立ち上がる。

 Bランクの上級ダンジョンには平均して170を超えるレベルのモンスターがわんさか出てくる。

 先程現れた猿型のモンスターも152レベとかそれくらいだったはずだ。

 義弥が全部倒してくれたがな。


 《ステータス》

 職業: 冒険者(アタッカー)

 真名: 岩城 義弥

 年齢: 19

 Lv: 192

 HP: 68001/68001 攻撃力:78062

 MP: 20400/20400 敏捷:60500

 SP: 80060/80060 防御力:41086


 スキル: 《格闘術》《燃え滾る闘気》《爆雷》

     《雷の轟》


 その他: [<称号>・野心家]


 《ステータス》

 職業: 冒険者(魔法使い)

 真名: 守艸 漣花

 年齢: 18

 Lv: 156

 HP: 45006/45006 攻撃力:50020

 MP: 50200/50200 敏捷:10600

 SP: 12090/12090 防御力:20089


 スキル: 《魔力探知》《魔法攻撃耐性》《総合魔法術》


 その他: なし


 2人のステータスを再確認して少し悩む。

 あまりこの2人の前では出しゃばらない方がいいか、それとも言うべきか。

 この先からあまり良くない気配が漂ってくる。

 まるでヘドロの中に片腕を突っ込んでいるような感覚だ。

 「……なあ、香椎。」

 小さい声で香椎を呼ぶ。

 俺の声に気がつくと、そっと耳を寄せて「なんですか」と俺の言葉を聞きに来る。

 「この先からあまり良くない気配がするんだ。一応二人に伝えてくれないか?」

 俺の言葉にうむと頷くと心もとない声で2人に呼びかけてくれる。

 「あ、あの!この先からあまり良くない気配がするんですけど……もう少し慎重に行きませんか?」

 少し説得力にかける言葉に、前の2人が顔を見合わせると優しく微笑んで香椎を見る。

 「私の《探知魔法》は何も反応してないから大丈夫だよ。」

 漣花はそう言って香椎の頭を撫でるとまた前を向いて歩き始める。

 それを見て俺も少し声を出してみる。

 「……俺結構感知系のスキルがあるんだがこっから先は危険な気がするからやめておいた方がいい。外に出てボスを探さないか?」

 歩き出そうとしていた足を止めて俺の声に振り向く。

 少し面倒くさそうな顔をした漣花は小さなため息をして悩むような仕草をとる。

 「……香椎、こいつは信用できるのか?」

 そんな漣花の横で義弥が言う。

 香椎がこれでもかという程に首を縦に振ると、それを見た義弥が漣花の方を向き直って少し小さな声で話を始める。

 「香椎もそう言ってるし、一応引き換えしておいた方がいいんじゃないのか?」

 「……でもどうせ1人じゃBランクにすら潜れない低ランクの野良ノラでしょ?さすがに信用なんてできないよ。」

 なんてコソコソ言っているが、俺には全て聞こえているので握った手が震えて止まらない。

 深呼吸を繰り返して何とか耐えるが、やはり少しイラつくところが捨てきれない。

 もういっその事見離して適当に俺だけ経験値を貰ってしまおうか。

 ただ実際、ここまで言われて助ける義理もなく、俺は先程の言葉を訂正する。

 「あー、やっぱり気のせいだったみたいだ。」

 俺の言葉にこちらを向くとはあと分かりやすくため息をついて漣花が歩き出す。

 それについて行くように俺も香椎も歩き出すが、義弥はどうも納得いかない様子で俺を見ている。

 俺がそれに気がついて目を合わせれば、すっとそらされてしまう。

 しばらく歩き続けたが、何層かのダンジョン構造になっており、既に12階層は下ったところだ。

 「結局何も起きなかったな。」

 「だから言ったでしょ。」

 当たり前とでも言うように漣花がそう言い捨てると、ようやくたどり着いたボス部屋の扉の前で立ち止まる。

 魔力量により敵の強さを図っているようだ。

 「うん、難なく勝てそう。」

 「なら、まあ全員で入っても良さそうだな。」

 そう言うと揃って魔力回復のポーションと体力回復のポーションを飲み始める。

 俺は結局ここまで動いていないので飲む必要はなく、3人の準備が終わるのを待つ。

 「それじゃあ、開けるぞ。」

 智也が言う。

 その背中に漣花と香椎が頷くのを見て義弥がゆっくりと体に力を入れていく。

 と、サァと何か嫌な風が吹くのを感じる。

 「ま──」

 俺の声は一足遅く、一言言う前には義弥が扉を全開にして開き、中の冷えた空気が一気に飛び出てくる。

 途端、義弥が血を吐いて膝を着いた。

 「ガハッ!」

 ゼーハーと、苦しそうに胸を抑える義弥に、2人は慌てて回復魔法を宛てがうと、扉の奥を覗き込む。

 そこには何かがいた痕跡はなく。

 扉の奥は全て壁でおおわれており、開いたはずの扉がその壁に飲み込まれていた。

 突然セメントを流し込んで固めたような、歪な現象に俺を含めた全員が息を飲む。

 「くっ……くそがぁ……なんだよこれ……。」

 合間合間に苦しそうな息遣いを混ぜこみながら義弥がそんなことを言う。

 どうやら回復魔法の効果は無いようで、義弥の状態は段々と悪くなっていく。

 段々と焦った表情になって行く二人を見て、俺は義弥に近づくと手を当てて《解毒》と《拒絶》の複合効果を発動する。

 発動された効果は、義弥の中にある邪悪な何かを押し出すと、義弥の中を探るようにして魔力を放って消えていく。

 その後に香椎が回復魔法をかければ、義弥の状態はみるみる良くなっていき、気がつけばHPはほぼ完治していた。

 「何をしたの…?!」

 漣花は俺に驚愕と言っても差し支えない表情でそんなことを言ってくる。

 「呪いみたいなのが義弥にかかってたからそれを解いただけだ。」

 俺の言葉に、分からないと言った様子で義弥と俺を交互に見始めて、最終的には悔しそうに顔を背ける。

 香椎は状況が掴めないと言った表情で回復魔法をかけ続けているが、彼は既に完治している。

 俺は義弥が完治したのを確認して、すぐにここから出ようと香椎に提案して立ち上がる。

 が、今回はそれも少し遅かったようで、俺たちが来たはずの階段までもが壁で埋められて出られないようになっていた。

 「どういうこと……。」

 壁を見て漣花がそう言う。

 俺も状況の理解が追いつかず、辺りをきょろきょろと見渡してみるが、変な反応は一切存在しない。

 何かが変だ。

 それは分かっているが、何が変なのか、上手く掴めない。

 そわな、上手く掴めない状況で突然声が聞こえた。

 「ニンゲン……。」

 そんな声はどこから聞こえるのか、まるで部屋中で響き渡るように反響する。

 「クフフ。」

 反響した声は、段々と一点に収束していき、最後には壁の一点が水面のように揺れる。

 ズズズ。

 揺れた壁が山のように突起し、中央からなにか人型のモンスターが現れる。

 「……ニンゲン……。この世界の暫定権力者。まさか我の居住区まで見つけて攻め込んでくるとは……。」

 そんなことを言ったのは、壁からでてきたモンスターだ。

 どこか、人に近い姿をしているが、口の中には鋭い牙がびっしりと並び、黒目がない。

 その上に、純白の鎧に身を包み、その上からローブを羽織ったような姿をしてその場に浮いていた。


 《スキル、《知りたがりの瞳》を発動します。》


 《ステータス》

 種族名: ズィアブィラガダ・ジァ・ア

 真名: 光る世界の伯爵・《リボル》

 Lv: 242

 HP: ??? 攻撃力:???

 MP: ??? 敏捷:???

 SP: ??? 防御力:???


 スキル: ???


 その他: ???


 《その世界軸に存在しないモンスターです。》

 《他軸世界のシステムと接続コネクトします。》

 《かなりの時間がかかります。》

 《0%》

 《……》

 《……》


 通知が途絶え、パーセントの表示だけが残る。

 目の前のモンスターは、優雅に腰にある剣に手を乗せ、俺たちを見下してくる。

 着地したモンスターは、俺が見あげるほどの体調をもち、ゆっくりとこちらを見下ろしている。

 「……」

 とてつもない威圧に、漣花が吐き出す。

 びちゃびちゃと後ろで吐瀉の広がる音が聞こえる。

 それを見て、不快に感じたのか目の前のモンスターが件を抜いた。

 スラリと伸びた剣は全体がギザギザと尖っており、まるでノコギリのようだ。

 「ニンゲンは、殺す。殺す、楽しい。」

 そんなことを言うと、モンスターはズンと踏み込み、たったの一歩で数メートルとあった距離を縮める。

 大きく振りかぶった剣は、

 ズガン!

 と、地面をたたきつけて大きな揺れと埃をばら撒く。

 「ニンゲン、避ける。早い奴いる。」

 俺は“ても触れず持ち上げていた”香椎たちを地面に下ろすと、砂のまう煙のを払ってモンスターに近づく。

 モンスターは地面に突き刺さった剣を引き抜くと、先程のように振りかぶって来るが、今度は、何かが砕けるような音はせず、金属がぶつかる音が響いた。

 やっと来た出番に気合を入れ、短剣を持つ手に力を込める。

 ガキッ!

 腕力でモンスターの剣を弾くと、モンスターが盛大によろめいて立ち止まる。

 「……強いニンゲン、面白い。オレが殺す。」

 ニタリと、薄気味の悪い笑みを浮かべ、モンスターが剣を構える。

 それを見て、俺はやっとだと深呼吸をする。

 そして、昨日手に入れた新しい『玩具武器』を呼び出したのだった。

 

 「──来い。」

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