第11話 不安と希望の狭間で

 異世界に来てから数日が経ったが、彼女たちがどうしてここに来たのか、どうやって元の世界に帰るのかは全く分からなかった。最初のうちは、お互いにおろおろしながら、どうにか生活の基盤を作らなければと思っていた。食料も底をつき、とうとう焦りを感じ始めていた。


「まずは、どこか安全な場所を見つけて、一息つこう」と、竜が提案した。

 

「そうだね。でも、どうやってお金を稼いだり、食べ物を手に入れたりすればいいんだろう?」と、沙羅は頷きながら言った。


 彼女たちは途方に暮れていた。周りの人々は、異世界の住人であり、どんな文化や生活様式があるのかもわからない。異世界から来た、という説明をしても、きっと信じてもらえないだろうと感じていた。


 そんな時、偶然出会ったのが、温かい雰囲気を持つ老夫婦だった。街外れの小さな家に住んでいて、彼女たちを見かけたおばあさんが声をかけてきたのだ。


「おや、君たち、どこから来たんだい? こんな場所で見かけるのは珍しいね」


 そう尋ねられ、一瞬戸惑った。どこから来たかを聞かれても、なかなか答えにくい。


「実は……僕たちは、ちょっとした事情でここに来てしまったんです」と、竜が少し困ったように言った。


 おばあさんは首をかしげながらも、優しく微笑んだ。

「事情かぁ。でも、とにかくお腹が空いているだろうし、うちにおいで。温かいお茶でも飲んで、ゆっくりしていきなさい」


 一行はその招待に甘えることにした。家に入ると、どこか懐かしい香りが漂っていた。おばあさんがテーブルにお茶を用意してくれ、少しの間、お互いに自己紹介をしながら緊張をほぐした。


「実は、私たちは、元の世界に戻りたいんです。でも、どうすれば戻れるのか全く分からなくて……」と、綾が言うと、竜も続けた。

「この世界のことも、全然分からなくて」


 おじいさんが静かに語りかけてきた。

「君たちが言っていることが本当かどうかは分からない。でも、まずはここで暮らすために必要なことを考えようじゃないか。ここには、食べ物も、水も、住む場所もあるんだから一旦落ち着きなさい」


 その後、おじいさんとおばあさんは、この世界での生活について教えてくれた。食べ物が豊かで、とても美味しいこと。また、街には魔法を使う人々がいること、そしてその魔法が日常的に使われているということも教えてくれた。


「魔法が使える人は多いけれど、使える魔法の種類は様々だ」と、おじいさんが言った。

「ただ、あまり強力な魔法を使うと注意されることもあるから、気をつけなさい」


 それは驚くべき情報だった。異世界に来たばかりで、魔法が使えるなんて考えたこともなかったからだ。


 そして、その晩、おばあさんが作ってくれた料理に、みんなで思わず舌鼓を打った。料理はどれも予想以上に美味しく、一口食べるごとにその新鮮な素材の味が口の中に広がり、感動が止まらなかった。


 焼きたてのふわふわな鯖の塩焼きから、ほんのり甘みが引き立つしっとりと煮込まれた大根、そして一口食べると濃厚で香ばしい香りが広がるおばあさんの特製味噌汁。どれも素朴でありながら、味の深さに驚かされた。


「こんなに美味しい料理、食べたことがないよ……!」と、沙羅は目を輝かせ、頬を思わず緩ませた。


「本当に……この鮮度と味わい、どれも絶品だ」と、竜も満面の笑顔を見せながら、口に運ぶ手が止まらなかった。新鮮な魚と野菜、優しいだしの味が舌の上で溶け合い、まるで心まで温かく包み込まれるようだった。


 綾はその時、少し安心した気持ちになった。この世界には、少なくとも生きるために必要なものが揃っているし、きっとこの場所での生活も悪くはないのかもしれない。



 翌日、おじいさんとおばあさんから、町の中心にある市場のことを教えてもらった。市場では、新鮮な食材や便利な道具が手に入るとのことだった。


「まずは、物を買うことから始めるといいよ。基本的な生活用品も手に入れなければならないしね」と、おじいさんがアドバイスをくれた。


 彼女たちは、その日、町の中心に向かって歩き出した。市場には色とりどりの果物や野菜が並び、どれも美味しそうだった。食材だけでなく、手作りの道具や魔法具も売られていて、楽しみながら見て回っていた。


「こっちの世界って、なんだかワクワクするね」と、絵里香が声に出した。


「うん、魔法もあるし、食べ物もおいしいし、何でもできそうな気がする!」と、沙羅は目を輝かせながら言った。


 全員、少しずつこの世界に慣れ始めていた。戻る方法がわからない不安もあったけれど、ここでの生活が楽しみでもあった。


 しかし、心の奥底では、誰もがそれぞれ元の世界に戻る方法を探し続けているようだった。夏休みが終わる前には元の世界に帰りたいと強く願っていたからだ。戻る方法がどんなものなのか、いつ実現するのかは分からなかったが、それでも彼女たちはここでの生活を大切にしつつ、少しずつ前に進んでいくことを決めていた。

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