五つ目の国『弓術の集落、ノーレーン』
メイベックを出立し、早数日。
フェブルアは遭難しました。
「どうして…?地図通りに来たのに……。」
本来の目的地、『自然の集落ガイア』と言われる場所まで来ていた筈なのに、何故か一向に見えてこず、むしろ地図通り進んだら更に暗い森まで来てしまいました。どうしましょう…。
食料や水袋にはまだ余裕がありますけど、せっかくの新しい装備が、すぐに汚れちゃいます…。
もういっそ、地形変えてしまいましょうか。
出来ない事は無いだろうし…。
そう思っていた時、
ヒュッ
私の隣を矢が掠めました。すぐに臨戦態勢を取り、周囲の警戒を開始しました。
メイベックで仕入れた赤く輝く魔石の杖、『フェネクス』と名付けたそれを手に取り、魔術の構えをしました。が、
どうやら既に囲まれていたようです。
「すいません。貴方達は誰ですか?私ちょっと道に迷ってここまで来てしまったんですけど。道を聞いても良いですか?」
ダメ元で聞いてみます。
「貴様…、何処の国の物かと思えば遭難者だと…?…大陸中の国の使者では無いのか?」
何処からか声が聞こえた。どうやら困惑しているようです。
「違います!ガイアに行こうとして遭難しただけです!私はオリーブの人間です!!」
そう発した直後、ヒソヒソと声がしました。
「…!オリーブの人間か。それは無礼な事をした!非礼を詫びよう。ここからガイアまでは遠い。取り敢えず、一度我らの集落に立ち寄っていって欲しい。そこで改めて謝罪をさせて欲くれ。『弓術の集落、ノーレーン』でな。」
* * * * *
どうやら私が入っていった森は『神秘の樹海』
と呼ばれる一帯だそうです。
そこはルビコンさんの討伐対象でもある危険生物が沢山いるそうですが、何より厄介なのが数刻ごとに微妙に変わる地形、だそうです。常に植物が急速な成長と死を繰り返すことで、地図など当てにならないそうです。
先に知っておけば良かった…。というか魔物と遭遇しなくて良かった…。
「ここが、ノーレーン…。」
大樹で囲まれた少し大きめの集落、という印象でした。木と木の間を吊り橋で移動する人々。鳥のさえずり。そして…、矢を射る音。
「いてっ」
いたた…木の根っこに引っかかってしまいました…。恥ずかし…。
…ここも、なんというか…オリーブみたいな場所ですね…。そこまで発展していないというか…。そのまま四つん這いになっている所に、
「…大丈夫か…?」声がかけられました。
あれ、私四つん這い?恥ずかしっ!!
「だ、大丈夫です!!心配無用ですっ!!」
顔が熱くなっているのを無視して応答する。
「そ、そうか…。…改めて、先程は本当に済まなかった。私の名前はウェイド・ノーレーンだ。何か、詫びをさせて欲しい。」
さっき私を射ったのもウェイドさんらしいです。わざと私の真横を通るように射ったんだとか。
すごいです…。ここらへんの事やガイアまでの行き方が分からない私は、この集落周辺の地理や歴史についてを訊ねてみました。
どうやらここ、ノーレーン、ガイア、そしてオリーブは、何百年も前の大戦で、大陸中のほとんどの国との間に亀裂が出来ていたらしく、各国から協力を要請されても帰していたようです。
私は、オリーブがずっと閉じされていた理由を初めて知りました。
ガイアとオリーブの人達と協力しあい、何度も危機を乗り越えてきたため、この3ヶ国の結束は尋常じゃないそうです。
どうりでオリーブは色々つまらなかった訳だと思いました。
そして、ウェイドさんから羅針盤?というものを渡されました。神秘の樹海を抜けるのに必須だそうです。
「なるほど…?つまりこの赤い針の方向に進んで行けば、ガイアにたどり着ける…ってことですか?」
「あぁ、そうだ。くれぐれも北の門から出るんだぞ?それ以外の門から出てその羅針盤頼りに歩いたら、別の場所へ行ってしまうからな。」
「それにしても、神秘の樹海に対する情報共有があまりにも出来ていなさすぎると思うんですけど…。何ででしょう…?」
「多分あれだな、うちの国やガイア、オリーブの周辺は情報を隔絶しているから、状況が伝わりにくいんだろう。そもそもこんな所に旅する目的など無いから、旅人も全く来ないし。」
そんな物なんですかね。と思っていた時、鳩がやって来ました。きっとルビコンさんの物でしょう。手紙くわえてますし。
手紙の内容は、
『初めての手紙でこんな内容なのは申し訳無いと思っているが、ガイアの付近で凶悪な魔物の目撃情報が出ているらしい。手短に知らせるが、本当に気を付けてくれ。ルビコンより。』
……危なかった。
神秘の樹海で遭難している時、何度か遠吠えのようなものが聞こえていました。
もし遭遇していたら…。
そんな事を考え、身震いするのが感じられました。
「ウェイドさん、気を付けて下さい。この近くに、魔物が出たらしいです。それもかなり凶悪な。周辺の警戒は怠らない様にしておいて下さい。」
「分かったが、君はどうするんだ?ガイアが目的地だろう。」
「この樹海を抜け出してから、ゆっくり迂回して目的地まで行こうと思っています。最悪行けなくても大丈夫ですし。」
「そうか、まぁ気を付けて行けよ。森を出るなら西の門から行ったほうが良い。」
感謝の一瞥をしながら、私はすこし怖気ずきながら、ノーレーンを出ようとしました。
…目の前に、ナニかが居る。
それに気付いた途端に、後ろに下がりました。
ソレは私を少し見つめただけで、すぐに闇に消え、そこにいた事がすぐに忘れられそうだったのに、私の心に深く棲みついていました。
あの、おぞましい身体。焦点の合っていない目、そして、あの長い爪と牙。
私は、しばらく動く事が出来ませんでした。
星渡るカーネーション〜星落としの魔女が行く〜 花風英孤。 @8d919334306ab596
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