第9話 1944年生まれの強欲な老女 – 自称「女の子」 81歳の現役枕営業士

登場人物


堀部映理(ほりべ えり)

社獣ハンターのメンバーで格闘技の天才。『必殺飛燕真空回し蹴り』で数多くの悪人を沈めてきた。オフィスでは筋トレを欠かさず、常に身体を鍛えている。


五十嵐いづみ(いがらし いづみ)

社獣ハンターのスタッフ。女優・山岸あや花似の美女。身長175cm、痩身でメガネをかけた知的な雰囲気を持つ。セクハラを行う社獣を罠にはめるのが得意。


藤堂葵奈(とうどう あいな)

社獣ハンターのアシスタント。一見クールだが、小心者。強くありたいと努力するものの、恐怖や極度の緊張に襲われると嘔吐してしまう体質。


AI先生

社獣ハンターに確実な情報を伝えるモニター上のクリーンなインターフェース。


チャプンド

情報工学の専門家。盗聴や盗撮を駆使して堀部映理たちを援護。デスクはモニターと機材で埋め尽くされ、最新の情報を解析する。


猿子

社獣。経理担当だが、プライドが高く意地を張るだけで仕事はできない。


優子

経理社員。猿子に辟易しながら仕事をしている。


猿子は、その存在自体が奇妙極まりない。彼女は経理社員として会社に籍を置いているものの、実際に経理のスキルが優れているわけではない。彼女がこの地位を維持し続けられる理由は、歴代のトップ – 会長、先代社長、そして現社長に至るまで、枕営業を駆使してきたからだ。その狡猾な媚びと計算高さで築かれた「表の顔」は、一見すると単なる平社員のように見せかけている。しかし、それはあくまで彼女の本性を覆い隠すための仮面に過ぎない。


猿子の容姿は、決して美しいとは言えない。むしろ、不気味な印象すら与える。最大の特徴は、異様に垂れ下がった下唇で、まるで顔全体が歪んでいるかのようだ。この特異な外見と、「自分は女の子」と言い張る奇妙な言動が、社内でも異端な存在としての彼女を際立たせている。しかし、この異様さこそが、彼女の裏の仕事をも暗示しているのかもしれない。


【猿子の正体 – 「破産屋本舗」】


猿子は、経理社員の肩書を持ちながらも、その業務能力は皆無に等しい。なぜ彼女が今もこの地位に居座れるのか——その答えは、彼女が歴代のトップたちに枕営業を仕掛けてきたからである。


彼女は『破産屋本舗』と自称する謎のビジネスを展開し、多額の金を借りた後、意図的に破産を繰り返すことで資産を隠し、裏金をプールし続けていた。さらに、中国共産党の幹部と密接な関係を築き、その影響力を利用して法の抜け穴を潜り抜けていた。


しかし、その奇怪な振る舞いと、「自分は女の子」と言い張る異様な言動が、彼女の本性を覆い隠す仮面として機能していた。


「日本では自己破産は2度までしかできない」と考える者もいるかもしれない。しかし、猿子には恐るべき後ろ盾がある。彼女は中国共産党の幹部と密接な関係を築き、その影響力を利用して日本政府に圧力をかけ、法の抜け穴を巧みに潜り抜けている。普通の人間ならば破産後の生活に追い詰められるはずだが、彼女が常に平然としていられるのは、こうした黒幕の存在があるからなのだ。


【社内の奇妙な日常】


優子はため息をつきながら、机の上の書類を眺める。


「また猿子さんは遅刻ね。好きな時間に出社して、お茶を飲んで居眠りして、電気マッサージ椅子の展示場で1時間マッサージ。昼ご飯を食べて昼寝して、午後は夜のおかずを買いに行く……。」


そこへ猿子が現れる。


「おはよう、優子。お茶淹れて。」


優子は無言で立ち上がり、給湯室へ向かう。こっそり自分の唾液を混ぜたお茶を差し出すと、猿子は満足そうにすすった。


「優子が淹れたお茶は美味しいわ。」


この異常な日常が、社内に静かに不気味な影を落としていた。


猿子は満足そうに茶をすすった。優子は意地悪そうに問いかける。


「そういえば昨日、猿子さんが帰った後に株式会社小島商会の方が来て、先日の牛乳サンプルの感想を聞きたがってましたよ」


「小島商会ね。オフィス用品の会社だけど、最近は牛乳も売ってるのよ。サンプル6本もらったけど、娘や孫の分って言ってさらに6本おねだりしちゃった。結局12本、全部家族で飲み干したわ!」


猿子は得意げに語ると、時計を確認して立ち上がった。


「さて、女の子の休憩タイムだわ。マッサージ椅子展示場に行ってくる!」


優子は呆れたようにため息をつきながら、その背中を見送った。


「本当に、あの人は何者なのかしら……」


彼女の存在が社内に不気味な影を落としていることに、気づいている者は意外と少ないのかもしれない。


【電気マッサージ椅子展示場】


猿子の勤務する会社は東京の豊島区巣鴨にある。閑静な住宅地にひっそりと佇み、周囲に会社らしい建物はほとんど見当たらない。そんな環境に突如現れたのが「電気マッサージ椅子展示場」だった。最新式のマッサージ機器がずらりと並び、来場者は自由に体験できる。いつしか、この場所は近隣の年寄りたちの憩いの場となっていた。


展示場の一角には、落ち着いた雰囲気のリラクゼーションスペースが広がる。薄暗い照明の下、ほのかに香るアロマの匂い。壁には「健康第一」「リラックスのすすめ」といった標語が掲げられている。マッサージ椅子は最新型で、全身を包み込むように振動しながら、肩や腰をじっくりと揉みほぐす。利用者たちは、思い思いの姿勢で深いため息をつきながら、極上の癒しを堪能している。


猿子は、そんな展示場の奥にある一番大きなマッサージ椅子に横たわっていた。背中にぴったりとフィットするクッションの感触を楽しみながら、隣に座る中年女性に目を向けた。そして、にやりと笑いながら話しかける。


「面白い話があるんだけど、聞いてみる?」


女性は少し警戒しつつも、「何の話?」と興味を示した。


猿子は、声のトーンを少し下げて囁くように言った。


「実は私、『共同大家さん』ってビジネスをやってるの。簡単に言えば、100万円預けると年利20%。1年で20万円も利息が入るのよ」


女性の表情が一瞬強張る。


「確かに20万円は魅力的だけど、税務署から雑所得としてみなされると55%が税金。手元に残るのは9万円くらいね。それに元本保証もないんでしょう?そんなリスクを取る価値は感じないわね」


猿子は心の中で舌打ちした。


「こいつ、知識がありすぎるわ……。別のカモを探すか」


マッサージが終わると、猿子は気を取り直して展示場を後にした。その足で近所のスーパーへ向かい、晩御飯のおかずを物色。新鮮な鯖とアジフライをカゴに入れ、レジへ向かう。夕暮れの街を歩きながら、何事もなかったかのように会社へ戻っていった。


猿子の一日は、今日もまたいつも通りに過ぎていく。


【ビルのエレベーター】


猿子の勤務する会社が入るビルは、古びた外観ながらも内部は手入れが行き届いており、エレベーターホールも落ち着いた雰囲気を漂わせている。壁にはクリーム色のタイルが張られ、天井からは温かみのある蛍光灯が柔らかい光を放っている。エレベーターのドアは少しくすんだ銀色で、開閉の際にかすかな軋み音を立てる。


エレベーター前には、猿子が立っていた。彼女の前には社長が立っており、穏やかな笑みを浮かべていた。


「猿子くん、おはよう。」


「ああ、社長おはようございます。」


「買い物かい?」


「いいえ、銀行に行ってきました。当座預金から普通預金への振替業務です。」


「そんなの、わざわざ銀行に行かなくても、ネットで処理すればいいじゃないか。」


「いいえ、そんなわけにはいきません。大切な社長のお金を預かっているんです。あたし自ら出向くのは当然です…あたしは社長に拾ってもらった身ですから、今日があるんです…もし、社長に万一の場合があったら、あたしもお供してよろしいですか?」


猿子は目に涙を浮かべながら語った。


「きみは律儀だね。」


その時、エレベーターが到着し、ドアが開いた。社長が足を踏み入れる。しかし、猿子は微動だにしなかった。


「どうしたんだい?乗らないのかい?」


「はい、社長と一緒のエレベーターになんて、とてもとても、恐れ多いです。」


エレベーターのドアが静かに閉まり、社長を乗せたまま上へと上昇していった。


猿子は、その光景を見届けると、表情を一変させ、冷たくつぶやいた。


「ワキガまみれの加齢臭野郎と同じ箱に詰まるなんて、冗談じゃないわよ。ツルツル頭にへばりついた黒染めの白髪、まるで腐った昆布じゃないの!」


誰もいないエレベーターホールに、その声だけが虚しく響いた。


【枕営業に余念がない猿子】


15:00を過ぎると、猿子はそそくさと帰る支度を始めた。仕事の片付けは周囲に押し付けるように、何食わぬ顔で会社を後にする。その足は、迷うことなくホテル街へと向かっていた。


今日の相手は、会社の取締役・片倉一人(かたくら かずんど)。彼女が日々行っている枕営業のターゲットの一人である。70歳になる片倉は、社内でも独特な存在だったが、猿子にとっては関係の持続こそが重要だった。


ホテルの一室では、すでに片倉が待っていた。年季の入った部屋には、くすんだカーテンがかかり、わずかに湿気のこもった空気が漂っている。壁には安っぽい装飾画がかかり、古びたシャンデリアの明かりが薄暗く部屋を照らしていた。


部屋に入るなり、猿子は急いでシャワーを浴び、バスタオルを巻いたままベッドの前に正座した。そして、ゆっくりと三つ指をつき、恭しく言葉を発した。


「お情けを頂戴しとうございます。」


彼女の年齢を考えれば、それは滑稽とも言える場面だった。81歳の彼女に対し、相手の片倉は70歳。普通なら拒絶するような状況だが、片倉は違った。まるで楽しみに待っていたかのように手招きをし、早く早くと促した。


このあと、世にも醜悪な情交が繰り広げられた。


余談だが、この片倉という男、朝早く出社し、近所の公園に寝泊まりしているホームレスの女性たちとも関係を持っているらしい。彼にとって相手は誰でもよいのだと、本人は事もなげに言う。


「人肌に違いはないからな。」


そんな男にすがる猿子の姿が、夜の巣鴨の闇に溶け込んでいった。


【猿子のITリテラシー】


猿子はITリテラシーが低く、常にパソコンのトラブルを引き起こしている。


ショッピングを楽しんでいる最中にインターネットで「突然ウイルス警告が表示された」となると、大騒ぎ。偽の警告やサポート詐欺の可能性を指摘しても聞く耳を持たず、「壊れた」と決めつけて社長に新しいパソコンを買ってもらう始末。


警告画面の指示に従わないよう注意しても、安易に電話をかけたり、不審なソフトをダウンロードしたりするのを止める気配はない。


【同僚いじめ】


職場は、本来ならば協力し合いながら業務を進めるべき場所である。しかし、ここには一人の"絶対的存在"がいた。猿子――彼女の気まぐれな支配により、営業社員たちは日々理不尽な仕打ちを受け、疲弊しきっていた。


営業社員は、毎月一度、交通費や出張費などの精算を行う。しかし、猿子は気に入らない相手に対しては、何かと理由をつけてその精算を翌月に回してしまうのだった。


「書類の字が汚いわね。やり直してきて。」

「この紙、端っこに小さな虫がついてたわよ? 不衛生だから受け付けられないわ。」


そんな言いがかりにも等しい指摘をしては、営業社員たちの精算申請を次々と突き返した。当然、彼らは旅費交通費を自腹で立て替え続けるしかなく、負担は増す一方だった。


しかし、それだけでは済まされなかった。営業上の都合で着払いの宅急便が届くことがあったが、本来会社が負担するべきその費用を、猿子は決して認めようとしなかった。


「そんなの、個人で払うのが当然でしょ? 会社に請求するなんて甘えよ。」


当然、各営業社員は毎回数千円、時にはそれ以上の金額を自己負担しなければならず、経済的なダメージは深刻だった。苦情を申し立てる者もいたが、猿子の前では何を言っても無駄だった。彼女は経理を独占し、あたかも会社の資金を私物のように扱っていたのだ。


【極まる理不尽な支配】


だが、彼女の支配は金銭的なものだけにとどまらなかった。社員たちは、精神的にも肉体的にも追い詰められていった。


ある日、ひとりの営業社員が猿子への挨拶を怠った。それがどれほど重大な"失態"だったのか、その社員は身をもって知ることになる。


「なに、その態度? 私にお辞儀するときは角度は45度よ! もう一度やりなさい!」


社員が戸惑っていると、猿子は唾を吐き捨てるように言い放ち、いきなりその顔に痰をかけた。汚れたシャツを必死で拭いながら、社員は耐えるしかなかった。


しかし、これで終わりではなかった。猿子の怒りが収まらないときは、さらに恐ろしい"罰"が待っていた。あるときは、根も葉もない言いがかりをつけられ、トイレにあったビニールホースをムチのように振り回し、営業社員の背中を何度も打ち据えたことすらあった。


「いい? 会社では上下関係が絶対なのよ。気に食わない態度をとると、こうなるんだからね。」


赤く腫れ上がった背中を押さえながら、社員は歯を食いしばった。訴え出ることすら許されない。上層部は猿子に目をつぶり、誰も助けてはくれなかった。


こうして、猿子の支配は強まり、社員たちの心は次第に壊されていくのだった。


【優子の苦悩と決意】


優子は、職場の同僚である猿子のことが心底嫌いだった。いや、単に嫌いというだけでは済まされないほどの問題を、彼女は日々巻き起こしていた。


猿子は経理の仕事を任されているにもかかわらず、基本的な知識すら持ち合わせていない。借方と貸方の区別すらつかず、帳簿のミスを連発。その度に周囲の同僚が後始末に追われ、業務は停滞し、社内の雰囲気は最悪だった。優子だけでなく、多くの社員が彼女に不満を抱えていたが、猿子本人はどこ吹く風。むしろ、自分が原因で混乱が生じていることを楽しんでいるかのような節さえあった。


さらに、彼女の振る舞いは常軌を逸していた。廊下や会議室を歩きながら、遠慮もなく屁をこき、周囲の迷惑など一切気にしない。そのたびに鼻をつまむ社員が続出し、社内は異様な空気に包まれる。しかし、誰も彼女に直接注意することができなかった。理由は明白だ。猿子には強力な後ろ盾があったのだ。会長、先代社長、そして現社長にまで気に入られており、彼女の行動は事実上、会社内で黙認されていた。


「ふふふ、あたしゃこき屋の女」


彼女は得意げに言い放ち、職場に不気味な笑い声を響かせる。その態度に、優子は怒りを通り越して呆れ果てていた。経理業務の崩壊、社内の混乱、そして異臭被害――すべての原因は猿子なのに、誰も彼女を止めることができない。この異常な状況を放置すれば、会社全体が崩壊するのは時間の問題だった。


しかし、それだけでは終わらなかった。猿子は、中国人に似た行動を取り、場所を選ばず糞をするという信じがたい問題まで引き起こしていた。階段、エレベーター内、時には会議室の隅までもが、その被害に遭っていた。そして、彼女は一切後始末をしない。その異常な行動に、社員たちは言葉を失い、もはや恐怖すら感じ始めていた。それでも誰も彼女を咎めることはできない。それほどまでに彼女は「特別な存在」として扱われていたのだ。


優子はついに意を決し、上司に相談することにした。しかし、その期待はすぐに打ち砕かれる。上司は困惑した表情を浮かべ、ため息交じりに首を横に振った。


「猿子さんのことは……触れない方がいい。彼女は社長たちの庇護を受けているだけじゃない。どうやら、中国共産党の幹部とも深い関係があるらしいんだ。下手に動くと、会社そのものに問題が起こるかもしれない」


その言葉を聞いた瞬間、優子の胸に絶望が広がった。社内の権力構造だけでなく、外部の影響力まで絡んでいるとなれば、もうどうしようもないのではないか。


しかし、それでもこのままでは仕事どころではない。この会社で生き残るには、何かしらの手を打たねばならない。もはや社内の力ではどうにもならないと悟った優子は、最後の手段に出る決意を固めた。彼女は職場の外部に助けを求めることを決意したのだった。


【社獣ハンターへの依頼】


「もう限界よ! このままじゃ、会社が崩壊してしまう……!」


優子はデスクを拳で叩きながら、心の底からの叫びを上げた。社内はすでに修羅場と化していた。猿子の横暴は日を追うごとに激しさを増し、経理のミスはもはや修正不能なレベルに達し、職場の環境は悪化の一途をたどっていた。屁の臭いは空調を通じて社内に拡散し、社員たちはマスクを手放せなくなっていた。それだけではない。階段やエレベーター、時には会議室の隅にまで猿子の糞が放置されるという異常事態が続き、誰もが目を背けながら黙って後始末をするしかなかった。


だが、社長をはじめとする上層部はこの惨状を完全に無視していた。いや、むしろ、猿子の存在を容認し、彼女を庇護することで権力を誇示しているようにさえ見えた。誰が訴えても取り合ってもらえない。上司に相談しても、冷や汗をかきながら首を横に振るばかり。もはや内部からの改善は不可能だと悟った優子は、最後の望みに賭けることを決意した。


「こうなったら……都市伝説の彼らに頼るしかない……!」


そう、"社獣ハンター"。社会を食い荒らす害獣――通称"社獣"を密かに狩ることで知られる謎の組織。ネット上ではまるで都市伝説のように囁かれている存在だが、確かな実績を持ち、彼らに依頼すればどんな厄介な社獣でも確実に排除してくれるという噂だった。


半信半疑ながらも、優子はついにその門を叩いた。


【社獣ハンター オフィス】


薄暗いオフィスの奥には、鋭い目をした一人の女性が座っていた。黒いジャケットを羽織り、デスクには大量の書類とデータが並んでいる。社獣ハンターのリーダー、堀部映理。


「……で、依頼内容は?」


低く落ち着いた声が響く。


「助けてください! 猿子を退治してほしいんです!」


優子は思わず身を乗り出し、切実な訴えをした。涙さえ浮かべている。


堀部はしばらく沈黙したあと、優子の話をじっくりと聞いた。猿子の経理業務の崩壊、社内での悪臭テロ、そして糞害。想像を絶する状況に、さすがの社獣ハンターも少し表情を曇らせた。


「……相当手強い相手のようだな」


堀部はゆっくりと立ち上がり、デスクの引き出しを開ける。そして、一冊の分厚いファイルを取り出すと、それをパラパラとめくった。そこには、過去に討伐してきた社獣たちのデータが詰まっていた。パワハラ上司、横領専務、モンスター新人、果ては経営陣まるごと狩られたケースもある。


だが、猿子のようなケースは前例がない。社内の権力者に庇護され、なおかつ糞害という物理的な被害をもたらす社獣。


「これは……ただの社獣じゃないかもしれないな」


堀部は眉をひそめ、静かに呟いた。


「……で、今回はどうやって退治すればいい?」


彼女は優子を見つめながら、社獣ハンターとしての腕が試される戦いになることを確信した。


【猿子を追い詰めろ】


五十嵐いづみは、会計事務所から派遣されたばかりの新人だった。しかし、その仕事ぶりは決して侮れない。彼女は冷静かつ着実に会社の帳簿を精査し、不正の痕跡を見逃さなかった。そして――彼女の目に飛び込んできたのは、驚くべき事実だった。


「これは……完全な横領ね。」


いづみは、猿子が会社の資金を私的に流用している決定的な証拠を掴んだのだ。


元々、猿子はITリテラシーの低い"情弱"であり、数字の扱いもお粗末そのもの。ずさんな経理処理のせいで、社獣ハンターにとっては彼女の不正を暴くことなど、赤子の手をひねるようなものだった。


それでも、猿子自身は自分の"無敵"を信じて疑っていなかった。


「私には中国共産党がついてるの! 社長だって逆らえないのよ!」


彼女は社内でそう豪語し、好き放題に振る舞っていた。しかし、その幻想はまもなく打ち砕かれることになる――。


【決定的な証拠の数々】


猿子の悪行を暴くのは、これまでの社獣ハンターの任務の中でも異例の容易さだった。なぜなら、彼女の犯罪行為の証拠があまりにも簡単に手に入ったからだ。


① 使い込みの証拠となる帳簿

会社の経費を利用し、高級ブランド品を購入した形跡が明らかになった。接待費として計上されていたのは、高額な化粧品や宝石、果てはプライベート旅行の宿泊費にまで及んでいた。


② 枕営業の一部始終を記録した動画

経営陣への"枕営業"によって、猿子は特権を獲得していた。その様子を録画した映像が極秘ルートから入手され、猿子が上層部とどのような関係を築いていたのかが明白になった。


③ 社員いじめの決定的証拠動画

営業社員への嫌がらせ、罵倒、暴力――そのすべてが隠しカメラによって記録されていた。社員の背中をビニールホースで打ち据える姿や、唾を吐きかける映像は、もはや言い逃れの余地がなかった。


④ ところかまわず脱糞する証拠映像

社内の廊下、階段、エレベーター、さらには会議室の片隅にまで"落とし物"をしている姿が映し出されていた。もはや人間の行動とは思えない、異常なまでの社獣ぶりが明らかになった。


【幻想は崩れ去る】


このように、猿子に関する証拠は山のように積み上がり、社獣ハンターの手によって完全に押さえられた。彼女の横暴は、権力に守られているという"幻想"のもとに成立していた。しかし、現実は違った。


いづみが手にした証拠を突きつけられたとき、猿子は最初こそ強気な態度を崩さなかった。


「ふん、こんなの偽造よ! そんな映像、誰が信じるっていうの!?」


だが、彼女の声は次第に震え始めた。


「……社長……私を……助けて……。」


しかし、その時、猿子が誇る"後ろ盾"である社長も、すでに逃げの準備を進めていた。彼女を庇うことで自分たちの立場が危うくなると判断し、見捨てる決断を下していたのだ。


こうして、猿子は完全に孤立し、追い詰められた。社獣ハンターの手により、彼女の社会的な立場は一瞬にして崩壊することになる――。


【SNSで暴かれた猿子の悪行――致命的な失態】


突如としてSNS上に衝撃的な投稿が流れ始めた。それは、ある企業の内部告発を含む一連のスクープだった。


「この会社、ヤバすぎる……」


そう書かれた投稿には、複数の画像と動画が添付されていた。


最初のうちは社内のパワハラや経理の不正といった内容が拡散されていたが、それらを遥かに凌ぐ衝撃的な事実が明るみに出た。それは、"猿子による脱糞行為"の決定的な証拠だった。


「信じられない……」

「こんなヤツが会社にいるのか!?」

「いや、さすがにネタだろ?」


そう思われたのも束の間、次々と上がる画像や動画によって、その事実は疑いようのないものとなった。


所構わず糞をする女――決定的な証拠の流出


問題の動画が流れた瞬間、SNSの空気は一変した。


そこには、猿子がオフィスの一角で周囲を気にすることなく"用を足している"姿が映っていた。しかも、それは一度きりの出来事ではなかった。


・会社の廊下で堂々としゃがみこむ姿

・エレベーターの片隅に放置された"異物"

・階段の踊り場に残された痕跡

・会議室の片隅に広がる悲劇


どの映像も、見る者に強烈な衝撃を与えた。


それだけではない。猿子の悪行は、社内だけに留まらなかった。彼女は通勤途中の公園や駅の構内、さらには取引先のビルの駐車場にまで"痕跡"を残していたことが明るみに出た。


この衝撃的な事実は、瞬く間に拡散していった。


「パワハラもヤバいけど、これはもう人間じゃない……」

「ここまでいくとホラーだろ……」

「社畜ならぬ社獣ってマジだったのかよ……」


ネットユーザーたちは騒然とし、"猿子"というワードは一躍トレンド入りを果たした。

会社の対応――遅すぎた危機管理


SNSで拡散された情報は瞬く間に世間の注目を集め、ついに会社の経営陣にもその影響が及び始めた。


記者が押し寄せ、問い合わせの電話が鳴りやまない。企業イメージは急激に悪化し、取引先からの契約解除の申し出が相次いだ。


焦った経営陣は、ようやく事態の深刻さを理解し、緊急の社内会議を開いた。


「……このままでは、我が社の信用が崩壊する……」


「いや、それ以前に社員たちの士気も完全に失われています。これ以上、彼女を庇うのは不可能かと……」


猿子の存在はもはや会社にとって"爆弾"でしかなかった。これまで彼女を庇ってきた社長や幹部たちも、自分たちの身を守るために一斉に手のひらを返した。


そして、ついに"決定"が下された。


「猿子の解雇……いや、懲戒免職とする。」

崩れ落ちる女――猿子の最期


「嘘よ! 私をクビにするなんてありえない! 社長! 助けてよ!あたしには中国共産党が背後にいるのよ」


猿子は、経営陣の決定を聞かされた瞬間に取り乱した。これまで権力を盾にして好き放題してきた彼女にとって、この結末は到底受け入れられるものではなかった。


しかし、社長をはじめ、彼女の後ろ盾となっていた者たちは一様に沈黙したまま、誰一人として彼女を庇おうとはしなかった。


「ふざけないで! 私は特別なのよ! 私は会社にとって必要な存在なの!」


必死に叫ぶ猿子。しかし、誰も彼女を助けることはなかった。


やがて、警備員によって会社から引きずり出されるその姿が、またもやSNSに投稿されることとなった。


「あの女、ついに終わったな……」

「ざまぁwww」

「いや、マジでこいつのせいで何人の社員が苦しんだと思ってんだ」


ネット上では猿子の"処分"を称賛する声が溢れ、彼女の名前は"伝説"として刻まれることになった。


こうして、猿子の長きにわたる"暴政"は、SNSの力によって幕を閉じた。


【エピローグ――堀部映理と五十嵐とチャプンドの微笑み】


静まり返ったオフィスの片隅で、堀部映理はスマートフォンの画面を見つめながら、静かに息を吐いた。画面には、猿子の懲戒免職が公式に発表されたニュースが映し出されている。それに加えて、SNSには彼女が会社から引きずり出される映像が数百万回以上再生され、多くの人々の間で語り継がれる「伝説」となっていた。


「終わったな……」


映理が呟くと、隣に座っていた五十嵐いづみが小さく頷いた。彼女の手元には、一連の調査で押さえた証拠書類のファイルが置かれている。猿子の不正の数々――帳簿の改ざん、社員いじめ、枕営業、そして極めつけの"脱糞問題"。これほどまでに明確な証拠が揃った社獣は、前代未聞だった。


「正直、ここまでスムーズにいくとは思いませんでした。」


いづみは苦笑しながら言った。社獣ハンターの仕事は、往々にしてターゲットの裏に潜む権力との戦いになる。しかし、今回ばかりは違った。猿子自身の愚行と、その決定的な証拠の数々が、社長をはじめとする経営陣をも呑み込むほどの炎となり、彼らに猿子を切り捨てさせたのだ。


「猿子は、自分が絶対に切られないと信じていた。でも、どんな社獣も、結局は"食い尽くしすぎる"ことで自滅するものなのよ。」


映理の言葉に、いづみは小さく笑った。


「それにしても……」


二人が視線を向けた先には、一人の大柄な男がいた。彼の名はチャプンド。社獣ハンターの一員であり、今回の作戦の影の立役者だった。


「ハハッ、まさかあんなに簡単に崩れるとは思わなかったな。」


チャプンドは腕を組みながら豪快に笑った。彼は、猿子の悪事を拡散するための情報操作を担当し、SNS上での"炎上"を完璧に演出したのだ。彼の手にかかれば、一夜にして誰もが猿子の悪行を知ることになる。


「まあ、"あの映像"が出た時点で、勝負は決まっていたけどな。」


チャプンドはニヤリと笑いながら、スマートフォンを軽く振った。"あの映像"――猿子が社内のあちこちで脱糞する姿が克明に映し出された動画。彼女が築いた"権力の幻想"を完全に破壊した決定的な証拠だった。


「でも……終わってみれば、意外とあっけなかったですね。」


いづみが肩をすくめると、映理も微笑んだ。


映理はスマホを閉じ、ゆっくりと言った。

「社獣はどれだけ強がっても、最後は自分の悪事に食い潰される。私たちの仕事は、それを加速させるだけ。」


いづみが微笑む。「今回のは簡単でしたね。」


チャプンドが笑いながら肩をすくめる。「楽勝だな。でも次のターゲットはどうかな?」


映理は椅子に身を預け、天井を見上げた。

「さて、次の"害獣"はどこにいるかしらね。」


静寂の中、社獣ハンターたちは次の戦いに備え、ほのかに笑みを浮かべていた。


映理の言葉に、チャプンドが大きく頷いた。


「さて、次の獲物はどんな奴だろうな?」


彼の問いに、映理といづみは互いに顔を見合わせ、静かに微笑んだ。猿子がいなくなったことで、ひとつの戦いは終わった。しかし、社会にはまだまだ多くの"社獣"が潜んでいる。彼らの仕事は、これからも終わることはないのだ。


夜の静寂に包まれたオフィスの中で、三人の笑みが闇に溶けていった。

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