第8話 都会に女ゲロ鬼現る

【社獣ハンター オフィス】

チャップ:

正体不明の情報屋。政府の裏組織に所属しているらしい。黒いスーツに身を包み、冷静な態度で依頼を持ち込む。


堀部映理(ほりべ えり):

社獣ハンターのメンバーで、格闘技の天才。彼女の『必殺飛燕真空回し蹴り』は数多くの悪人を沈めてきた。日々鍛錬を欠かさず、オフィス内でも筋トレに励んでいる。


藤堂葵奈(とうどう あいな):

社獣ハンターのアシスタント。一見クールで落ち着いた雰囲気を持つが、内心は小心者。強くなろうと努力するが、極度の緊張や恐怖に襲われると嘔吐してしまう体質を持つ。


AI先生:

人ではなく、オフィス中央に設置されたモニターに映し出される情報提供システム。社獣ハンターに確実なデータを伝える役割を持つ。


チャプンド:

情報工学のスペシャリストで、盗聴や盗撮を駆使してハンターたちを援護する。彼のデスクは無数のモニターと機材に囲まれており、最新の情報を解析する姿はまるで要塞の司令官。


【調査の始まり】


-社獣ハンターのオフィス-


堀部映理:「最近、暇ね。チャップ、政府の仕事はないの?」


チャップはダーツを投げながら無表情で答える。「ないね。」


AI先生:「そんなことはないよ。最近、電車内や街中で通行人に嘔吐物をぶっかける女がいるらしい。やってみるかい?」


映理:「なにそれ?警察が対応すればいいんじゃない?」


AI先生:「この手の事件に警察がどこまで真剣に捜査するかね?」


映理:「嘔吐物?ゲロ?…ゲロで思い当たるのは…葵奈ねぇ。」


彼女はアシスタントの藤堂葵奈をちらりと見た。


映理:「葵奈は極度に緊張すると嘔吐する…まさか、犯人は葵奈じゃないでしょうね?」


藤堂葵奈:「えっ!?ち、違います!!私、そんなことしません!!」


映理:「冗談よ。でも、これは放っておけないわね。社獣ハンターの名誉にかけて、早速調査しましょう。」


AI先生:「目撃情報によると、池袋や練馬周辺で多発しているようだ。」


映理:「なら、現場に行くしかないわね。」


こうして、社獣ハンターたちの新たな調査が始まるのだった…。


【北池袋 街中】


北池袋は池袋とは思えないほどの簡素な住宅地である。


街の一角にあるコンビニの中、数人の学生が立ち読みをしていた。制服姿の少年が漫画のページをめくりながら時折小さく笑う。もう一人の学生は、スマホと雑誌を交互に見比べながら、試験勉強に役立ちそうな情報を探している。コンビニの奥では、ドリンクコーナーで悩む女子高生の姿もあった。


そんな中、一人の女性がゆっくりと近づいてきた。


短めの黒髪は整えられ、丸みを帯びたシルエットを作っている。知的な印象を与える細身のメタルフレームの眼鏡をかけ、優しげな眼差しが特徴的だった。肌は滑らかで、微笑みを浮かべた表情にはどこか穏やかな雰囲気が漂う。落ち着いた色合いのジャケットを羽織り、首元には上品なネックレスが光る。手元にはブレスレットが揺れ、控えめながらも洗練された印象を与える。

その女性は、突然低い声で話しかけた。

「兄さん、悪魔のゲロってお好き?」


声をかけられた学生が目を丸くする。

「えっ?何の話?」


次の瞬間、女性の肩に背負われていた液体噴射装置が大きな音を立て、嘔吐物のようなものを放射した。


「うわっ!!」


学生は悲鳴を上げる間もなく、全身がずぶ濡れになった。コンビニの雑誌ブースも飛び散った液体で汚れ、他の客たちは驚いて後ずさる。


「ぎゃああー!やめてくれ!」


女はコンビニのドアから一目散に逃げ去ろうとした。そこへ偶然、映理が通りかかった。


「…あれは……?」


映理はとっさに女を追いかけようとしたが、女はすぐに街の雑踏に紛れ、驚異的なスピードで走り去った。


「待て!」


映理は全速力で追いかけるも、あと一歩のところで追いつけず、やがて足を止めた。


息を切らし、その場に座り込む映理。


「……逃げられたか……」


拳を握りしめ、彼女は悔しそうに地面を見つめた。


【女ゲロ鬼の正体】


斉藤多夢恵(さいとう たむえ)は都会の小さな開発会社で経理を担当していた。社員は10人ほどのこじんまりとした会社で、直属の上司もいない。給与計算から総務の雑務まで、彼女が一手に引き受けていた。


いつものように単調な時間が流れる。淡々と書類を整理し、机の上を整えた後、多夢恵は書類の処理に取りかかった。彼女には奇妙なこだわりがあった。会社の書類を破棄する際、シュレッダーは一切使わない。代わりに、小さなハサミで丁寧に細かく裁断するのだった。その動作はまるで儀式のようであり、彼女の精神を保つための唯一の習慣だった。


【多夢恵の過去:辛い小中高時代】


幼少期から、多夢恵は耳の三半規管が極端に弱く、乗り物の揺れや急な動きに激しい吐き気を催す体質だった。そのせいで、彼女の学校生活は地獄のようなものだった。


遠足や修学旅行ではバスの揺れに耐えきれず嘔吐し、運動会ではマラソンの最中に倒れ込むように吐く。クラスメイトたちの目は冷たかった。


「またゲロ子が吐いた!近寄るなよ!」

「なんで学校に来るの?迷惑なんだけど!」


彼女についたあだ名は「ゲロ子」。


教師たちも多夢恵をかばうことはなかった。それどころか、迷惑そうな表情を隠そうともせず、保健室へ行くよう促すだけだった。多夢恵は次第に無表情になり、周囲の視線を避けるようになった。


【転機:社会人になっても消えない傷】


なんとか高校を卒業し、彼女は普通の会社員として社会に出た。これでやっと、「ゲロ子」と呼ばれることはなくなる。過去を知る者もいない。そう信じていた。


しかし、その幻想は通勤電車の中で打ち砕かれる。


満員電車の中、多夢恵はいつものように吊革を握って揺れに耐えていた。ふと目を向けると、そこにはかつての担任教師が立っていた。


「あれ? 斉藤じゃないか!」


その声に、彼女の心臓が凍りついた。


「元気にしてたか? そうだ、お前『ゲロ子』だったよな!」


電車の中が、一瞬静まり返った。


周囲の乗客たちが振り返り、多夢恵の顔を見る。かつての悪夢が現実となって彼女を襲う。笑い声、軽蔑の目、過去の惨めな記憶が押し寄せてくる。


体が震え、呼吸が苦しくなる。あの頃と何も変わっていない。自分は、今でも『ゲロ子』なのだ。


【復讐への決意】


その日の夜、多夢恵は自宅の鏡の前に立っていた。


「私は……一生ゲロ子のままなのね……」


唇を噛みしめ、拳を握りしめる。頬には涙が伝っていた。しかし、次の瞬間、その涙を拭い去るように彼女は微笑んだ。


「なら、もうどうでもいい……。この世の人間たちに、私の痛みを思い知らせてやる」


その時、多夢恵の中で何かが変わった。


彼女は静かに部屋のクローゼットを開け、かつてのトラウマを象徴するかのような機械を取り出した。特殊なポンプが内蔵された液体噴射装置。ボタンを押せば、嘔吐物のような液体を放射する仕組みだ。


※液体噴射装置

高圧ポンプと特殊なノズルを備えた装置を開発し、ゲロのような液体を強力に噴射します。液体には、粘着性のある物質や悪臭物質を混ぜることで、敵の動きを封じたり、混乱させることができる。


「ゲロ子……? いいえ、私は『女ゲロ鬼』よ」


彼女は微笑んだ。その笑顔は、かつての辛い記憶を塗り替えるかのように歪んでいた。


こうして、斉藤多夢恵は新たな存在として生まれ変わった。彼女の手には、これまでの人生で受けた痛みと屈辱が握られている。


そして、翌日。


新たな『女ゲロ鬼』としての一歩が踏み出されようとしていた――。


【社獣ハンター オフィス】


堀部映理がチャプンドに話しかける。


「どう、あの謎の女の居場所わかった?」


「ああ、わかったよ。」


実は映理は多夢恵を追いかけて見失いそうになったとき、液体噴射装置に向かって接着型GPSを投げつけていた。


チャプンド:

「彼女の家も会社のありかもわかったよ。」


映理:

「しかし、GPSに意外と気が付かないものね」


チャプンド:

「あれは小さいし、接着するとその周りの色に馴染んで見えなくなるからね。触ってみればわかるんだよ」


チャプンドはカフェラテを飲み干しながら、スマホの画面を操作し、にやりと笑った。


「さあ、SNSで拡散しますか。都会のテロリスト、女ゲロ鬼の正体、勤め先、自宅の情報を――」


映理:

「待って、その前に彼女と話がしてみたい! 今までにないケースだからね。今までは被害者から情報を得て、それから退治してきたけど、今回は彼女のことを何もわかっていないからね」


映理の目が鋭く光る。彼女は、ただ退治するのではなく、まずはこの謎の女の動機を探ろうとしていた。


【練馬区江古田】


多夢恵のアパートは江古田の駅から徒歩20分ほどの場所にあった。


江古田は学生が多く活気のある街だが、駅から少し離れると、閑静な住宅地が広がる。商店街のネオンが消え、街灯がまばらになると、人通りもまばらになり、夜の静寂に包まれる。古びた住宅やアパートが立ち並び、かつては活気があったであろう場所も、今ではどこか寂れた空気を漂わせている。


その一角に、多夢恵のアパートがあった。


築40年の古ぼけた建物。外壁は色褪せ、所々にひびが走っている。鉄製の階段は錆びつき、踏むたびにぎしぎしと不気味な音を立てる。共用廊下には乱雑に放置された郵便物や、雨に濡れた傘が無造作に立てかけられていた。


暗がりの駅からの道にはほとんど人影はなく、ひっそりとした雰囲気が漂う。ただ、一人、まっすぐ歩いてくる多夢恵の姿があった。


映理:

「多夢恵さん」


多夢恵:

「あっ、この間の女、おまけにあたしの名前まで知っている。ただモノじゃないわね。」


映理:

「あたし…あなたと話がしたくて…」


多夢恵:

「ここではなんだから、中に入りなさいよ。」


多夢恵はそう言いながら、ギシギシと鳴る階段を上り、古びたアパートのドアを開ける。中には、乱雑に積まれた書類や、本棚からあふれた雑誌が目に入る。どこか荒れた雰囲気の部屋だったが、妙に整理されている部分もあり、彼女の几帳面さが垣間見えた。


映理は少し緊張しながら、その部屋へと足を踏み入れた。


---多夢恵の部屋---


映理は多夢恵から今までの経緯を聞いた。


映理:

「あなたの悲しい生い立ちはわかったわ…でも、あなたのやっていることは犯罪よ。」


多夢恵:

「わかっている。」


そう言うと、多夢恵は押し入れを開け、例の液体噴射装置を取り出し、大量の嘔吐物を映理にぶちまけた。


映理がひるんだ隙に、多夢恵は花瓶で殴りつけた。


気を失った映理を縛り上げ、猿轡をかませ、足で踏みつける。


「この馬鹿女、あなたに何がわかるというのよ?」


次の瞬間、ドアが勢いよく開き、藤堂葵奈が飛び込んできた。


「誰!あんた!」


葵奈は映理の危機を目の当たりにして驚愕し、パニックに陥った。そして、極度の緊張により、思わず嘔吐してしまう。


嘔吐物は一直線に多夢恵の顔へと降りかかる。


多夢恵の噴霧器から放たれるものは人工的なものだったが、葵奈のそれは正真正銘の生の嘔吐物。


これまで他人に嘔吐物をかけたことはあっても、自分が浴びるのは初めての多夢恵。


「ひぇーっ!!」


その場で白目を剥き、気絶してしまった。


【SNSの反響】


SNSでは斉藤多夢恵の悪行が発信された。世間の反応は瞬く間に広がっていく。


@tokyo_news:「【速報】都内で“ゲロかけ女”騒動!被害者多数、衝撃の映像が拡散中!」


@justice_warrior:「こんな奴が普通に生活してたのかよ…恐ろしすぎる。即逮捕すべき!」


@horror_fan_666:「まるでホラー映画のワンシーン。怖すぎて鳥肌立った…」


@clean_society:「こんな衛生的に問題ある行為、絶対に許せない!」


@net_sleuth:「犯人は江古田在住の斉藤多夢恵…らしい。もう職場も特定されたみたい。」


拡散された情報は瞬く間に広がり、ネット民による追跡が始まる。多夢恵の会社、住居情報が次々と暴かれ、彼女の周囲の人々にも影響が出始めていた。


【エピローグ】


葵奈は映理を救出し、警察は多夢恵を逮捕した。


SNSで拡散された彼女の悪行は世間の注目を集め、会社からも解雇されることとなった。事件は一つの結末を迎えたが、それぞれの胸には複雑な想いが残った。


-ベトナム・コーヒー・ショップ-


落ち着いた雰囲気のカフェ。ベトナムコーヒーの甘く香ばしい香りが漂う。


映理:

「今回は葵奈に助けられたわね。このエスプレッソはあたしのおごりよ。」


葵奈は照れくさそうに頭をかきながら、コーヒーを啜る。


葵奈:

「うう…あの時は無我夢中で…まさかあんなことになるなんて…」


映理は笑いながらカップを傾ける。


映理:

「結果的には助かったわ。まさかの展開だったけどね。」


葵奈はため息をつきながら、ぼんやりとカフェの窓の外を眺めた。穏やかな日常が戻ってきたように見えるが、彼女の心にはまだ複雑な感情が渦巻いていた。


葵奈:

「それにしても…多夢恵さん、なんだか可哀想だった気もする…。」


映理は静かに頷きながら、カップの中のコーヒーを見つめた。


映理:

「人は過去に囚われてしまうものよ。でも、囚われたままじゃ前に進めない。辛い過去は忘れるのが一番よ!」


葵奈はしばらく黙った後、微笑みを浮かべた。


葵奈:

「…そうだね。これからは私も、もう少し強くならなきゃ。」


カフェの中に、ほのかに甘いコーヒーの香りが漂う。


物語は一つの終わりを迎えたが、それぞれの人生はまだ続いていく。

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