第4話 枕営業で成り上がる課長…社獣ハンターの鉄槌!

 第1章:パワハラ課長

 宮抱紀子(みやだき のりこ)は、一目見た者の記憶に残る女だった。

 東南アジア系を思わせる紅茶色の肌、切れ長の目元、艶やかな黒髪。まるで異国の血が混じっているかのようなエキゾチックな美貌を持つ。しかし、その華やかな外見とは裏腹に、彼女の内面は冷酷で計算高かった。

 彼女は父親のコネを巧みに利用し、大手取引先へと潜り込むと、持ち前の“営業スキル”で着々と出世を重ね、ついには上場企業の課長にまで昇り詰めた。しかし、彼女のキャリアの裏には、並外れたビジネスセンスや実績があったわけではない。

 唯一の武器は、“枕営業”だった。

 宮抱のやり口は容赦がない。上司には媚びへつらい、権力者には甘えた声で取り入り、意のままに操る。そして、自分より下の立場の人間には、躊躇なくパワハラとセクハラを浴びせる。特に部下に対しては、理不尽な要求や罵倒を繰り返し、精神的に追い詰めることを楽しんでいるかのようだった。

 業者、取引先の社員、宅配スタッフ——彼女が“自分より下”と判断した相手には、怒鳴り声と威圧を浴びせ、時には手を上げることすらあった。その振る舞いは、まさに“カモ”(カンパニー・モンスター)そのもの。

 そんな彼女の口癖は2つ。

 「だきちゃん、甘えん坊なんです♡」(枕営業相手への決め台詞)

 「全部お前が悪いんだからな!」(部下への罵声)


 第2章:宮抱紀子の過去

 宮抱紀子が枕営業をするのは、彼女の人生そのものが生存競争の連続だったからだ。

 彼女の両親は中小企業の社長であり、家は裕福だった。幼い頃から何不自由なく育てられ、特に母親からは溺愛されていた。しかし、成績は決して優秀ではなく、どこにも行くあてもなく、なんとなく農学部へ進学することになった。特に学問への関心があったわけではなく、大学生活では目立つこともなく、就職活動でも大手企業には相手にされなかった。

 そんなとき、父親のコネで現在の会社に入社することが決まる。新卒採用ではなく特別枠での入社だったため、最初から周囲の目は厳しかった。しかし、仕事は単調で、彼女は要領の悪さとミスの多さから、上司に叱責される日々を送ることになる。

 ある日、大きなミスをしてしまい、激しく叱責されるが、その時に彼女は1つの選択をした。

 「このままでは駄目だ。ならば……」

 彼女は本能的に、自分の美貌と愛嬌が武器になることを理解していた。仕事ができないなら、それを補う別の方法を取ればいい。そうして、最初のターゲットとなったのは直属の上司だった。

 上司との関係ができてからは、不思議なことにミスを咎められることも減り、彼女の評価も上昇した。それに味を占めた宮抱は、さらに枕営業を広げることを決意する。上司だけでなく、社内の権力者や取引先の社長クラスにも甘い声をかけ、徐々に影響力を強めていった。

 「女であることを利用して何が悪いの?」

 彼女はそう考えていた。才能がないなら、利用できるものを最大限に活かす。それが宮抱紀子の生存戦略だった。

 そうして、彼女はついに上場企業の課長にまで昇り詰めた。しかし、そこには彼女の誤算が潜んでいた——。

 そんな宮抱の部下である印度澤詩織(いんどざわ しおり)は、彼女の横暴な振る舞いに日々辟易していた——。

 電車の遅延で新人が遅刻すれば、遅延証明書があっても容赦しない。

 「下着を脱いで両手に水入りのバケツを持って立っていろ!」

 とエレベーター前で何時間も晒し者にするのが日常だった。

 会議中にミスをした社員には、ホッチキスの芯を机に叩きつけながら、「お前の給料分、今すぐ血で払え!」と怒鳴りつける。

 トイレに行きたいと申し出た女性社員には「仕事より膀胱が大事か?」と詰め寄り、無理に我慢させる。ついには漏らしてしまった社員に対して、「犬以下ね」と冷笑しながらモップを投げつけた。

 さらに、退職願を提出しようとした社員には「お前みたいな無能はどこへ行っても生きていけない」と脅し、辞めさせないために私生活にまで干渉することもあった。

 「このままじゃ、この会社は宮抱の王国になって、やがて崩壊する……」

 そんなある日、彼女が耳にした噂が、『社獣ハンター』であった。

 印度澤詩織(いんどざわ しおり)は、会社のトイレの個室に閉じこもり、スマートフォンの画面を凝視していた。

 「……何か、何か手がかりはないの?」

 彼女の指は震え、検索窓に次々とキーワードを打ち込む。

 「パワハラ 会社 復讐」

 「ブラック企業 仕返し」

 「上司 失脚」

 しかし、どれも決定的な解決策にはつながらない。掲示板には「証拠を集めろ」「労基に相談しろ」といった言葉が並ぶが、宮抱の支配下でそんなことができるはずもなかった。

 ふと目に留まったのは、ある匿名掲示板のスレッドだった。

 「社獣ハンターがついに動いたらしい」

 社獣ハンター?

 見覚えのない名前だったが、その言葉に妙に惹かれた。彼女はスレッドを開き、食い入るように読み進める。

 ——悪質なパワハラ上司を社会的に葬る匿名組織——

 「うそ……そんなのがあるの?」

 疑念を抱きながらも、詩織はさらに検索を続ける。すると、暗号化されたフォーラムのリンクを見つけた。

 アクセスすると、「社獣ハンターへの依頼フォーム」と題されたページが現れた。

 『証拠を集め、ターゲットの情報を詳細に記入せよ』

 詩織の指が震えた。

 「……ここに、宮抱のことを書けば……」

 彼女は深く息を吸い、決意した。

 「もう、耐えられない」

 そう呟くと、詩織は宮抱紀子の悪行をひとつずつ打ち込み始めた——。


 第3章:社獣ハンター オフィス

 数日後、詩織は社獣ハンターのオフィスを訪れた。住所は秘密にされており、指定された場所からさらに車で送迎される徹底ぶりだった。

 案内された建物は、外見こそ普通のオフィスビルの一角だったが、中に入ると独特の雰囲気が漂っていた。無機質なコンクリート壁に大型モニターがいくつも設置され、情報解析用の端末が並んでいる。壁際には、過去に処理された案件のファイルがずらりと整理されていた。

 「ようこそ、社獣ハンターへ」

 低く響く声が室内に広がる。社獣ハンター、堀部映理(ほりべ えり)が詩織を見つめていた。

 彼女は冷徹なカリスマ性を放つ女性だった。短めの黒髪は絶妙なカーブを描き、切れ長の瞳は鋭く光る。ビジネススーツを完璧に着こなし、左手には分厚いファイル、右手には小型の電子端末を持っていた。その背後には、監視カメラの映像が流れるモニターを複数配置し、街の動向をリアルタイムで分析しているようだった。

 詩織は震えながらも、これまでの宮抱紀子の仕打ちを1つ1つ語った。声を震わせながらも、耐えてきた屈辱と怒りを余すところなく伝えた。

 話を聞き終えた堀部は、軽く頷いた。

 「……よく、ここまで耐えましたね」

 その言葉に、詩織の目から涙がこぼれた。

 「わかりました。少し懲らしめてあげましょう」

 その一言に、詩織は初めて希望の光を見た。

 「ありがとうございます……!」

 堀部は微笑むことなく、手元の端末を操作した。すぐに、社獣ハンターのメンバーたちが動き始めた——。


 第4章:宮抱紀子、罠に掛かる

 社員一同:「課長、おはようございます!」

 宮抱紀子:「おはよう。竹川存美(たけかわ ぞんび)、あたしにお辞儀するときは45度の角度よ。やり直しなさい!」

 竹川は慌てて姿勢を正し、何度も深々と頭を下げた。

 社員A:「課長、PC500台の見積もり依頼が来ています。」

 宮抱紀子:「随分な大口ね。ちゃんと調べなさい。詐欺の可能性もあるわよ。」

 社員A:「発注元はコジテック産業、宮内省御用達の会社です。」

 宮抱紀子:「宮内省御用達!?……それ、私がやるわ。よこしなさい!」

 彼女は社員Aから書類を奪い取り、鋭い目で見下ろした。まるで獲物を見つけた猛禽のように、宮抱の目は鋭く輝いていた——。

 

 【コジテック産業・購買部】

 

 宮抱紀子は、最高の営業スマイルを浮かべながら商談室に足を踏み入れた。黒のパンツスーツに身を包み、手には完璧に整えた見積書のファイル。今日の相手は大手企業コジテック産業の購買部長——のはずだった。

 しかし、目の前に座っていたのは別人だった。

 「お待ちしておりました。本日はどうぞよろしくお願いいたします。」

 宮抱は滑らかな声で挨拶し、優雅に名刺を差し出す。

 「上場企業◯◯◯◯◯◯イメージング・システムズ課長、宮抱紀子です。本日は弊社のご用命、誠にありがとうございます。こちらがPC500台の見積もりでございます。」

 対する相手は、冷静な目で書類を受け取った。

 「なるほど、ありがとうございます。」

 一呼吸おいて、相手がゆっくりと顔を上げる。

 「ところで、この型番の最後についている『W』と『B』の違いは?」

 宮抱は即座に答える。

 「それは色の違いです。『W』はホワイト、『B』はブラックです。」

 相手は小さく頷いた。

 「なるほど。この会社のイメージカラーは白ですね。では『W』で発注します。」

 その瞬間、宮抱の心は高揚した。

 「しめしめ、大口ゲットよ……!」

 彼女の脳裏には、昇進の二文字がちらつく。

 「これで枕営業をさらに増やせば、最年少女性部長も夢じゃない!」

 しかし、彼女の成功を確信する笑みを見つめる視線があった。

 堀部映理——社獣ハンターのリーダー。彼女は静かに宮抱を観察しながら、わずかに口角を上げた。

 「この女……思った通りね。」

 この商談が、宮抱にとって決定的な罠となることを、彼女はまだ知らなかった——。

 納品日。

 社員A:「課長、大変です! PCが返品の山になっています!」

 宮抱紀子:「何ですって!?」

 社員A:「コジテック産業が発注したのは『白』ですが、納品されたのはアイボリーだと言われています。返品だそうです!」

 オフィスにはPCの山。課長室も、社員の机の上も、すべてが返品の山だった。

 宮抱は額に青筋を立てながら、納品書を確認した。

 「そんなバカな……発注の際に確認したはず……!」

 彼女は手元の記録を必死に漁るが、どこにも「アイボリー」の記載はなかった。しかし、納品されたPCのパッケージにはしっかりと「アイボリー」と印字されている。

 「まさか……」

 その瞬間、彼女の脳裏に浮かんだのは、あの商談の光景。堀部映理の冷静な声、計算された微笑み。

 「……騙された!?」

 彼女は震える手でスマートフォンを握りしめ、急いでコジテック産業へ連絡を取ろうとした。しかし、応答はなく、ただ事務的な自動音声が流れるばかりだった。

 焦燥と怒りが胸の中で渦巻く。

 「くそっ……!」

 デスクの上に投げつけたスマートフォンが鈍い音を立てた。周囲の社員たちは息を潜め、誰もが宮抱の怒りに触れまいとしていた。

 しかし、この騒動はまだ終わりでない。彼女が気づかぬうちに、別の問題が静かに動き始めていた——。

 人事部。

 人事部の応接室に、重苦しい空気が漂っていた。

 人事部長と宮抱紀子——二人きり。

 デスクの上には分厚いファイルが広げられ、その横に一枚のDVDが置かれている。宮抱は、指先を震わせながらそれを見つめていた。

 「返品の山、どうするつもりだ?」

 人事部長の低い声が、部屋の静寂を切り裂くように響いた。

 「うぅ……(涙)」

 宮抱は唇を噛みしめ、何か言おうとしたが、声にならなかった。

 人事部長はため息をつき、ゆっくりとDVDを指で押した。

 「それだけじゃない。私の元に、一枚のDVDが届いてね……」

 モニターに映し出されたのは、宮抱が取引先のまんひる社長とホテルに入るシーンだった。

 静寂の中、映像が再生される。

 「枕営業の噂は聞いていたが……この会社の取締役ならともかく、取引先の社長相手とはな。君はやりすぎたよ。」

 人事部長の声には、呆れと冷徹な決断がにじんでいた。

 宮抱の目から涙がこぼれた。彼女は震える手で涙を拭いながら、突如として服のボタンに手をかけた。

 「お慈悲をください……!」

 彼女は震える声で訴える。

 しかし、人事部長は顔をしかめ、机を拳で叩いた。

 「馬鹿な真似はよせ! ここは会社だぞ!」

 宮抱の肩がびくりと震える。

 「……追って処分を下すまで、謹慎しろ。」

 人事部長の冷ややかな声が、宮抱の未来を決定づけた瞬間だった。

 震えながら立ち上がる宮抱を見送ることなく、人事部長はファイルを閉じ、無言でドアを指さした。

 彼女の足音が、長い廊下に虚しく響いた——。


 第5章:宮抱紀子の最期

 社内の空気が重く淀んでいた。人事部の応接室に呼び出された宮抱紀子は、机の向こう側に座る人事部長の冷たい視線を受けていた。

 「宮抱課長、正式に解雇が決定した。」

 その言葉が突き刺さる。宮抱は笑って誤魔化そうとしたが、口元が引きつる。

 「ま、待ってください……私は会社に貢献してきました。取引先の関係構築だって……」

 「関係構築? 君のしてきたことは、枕営業に他ならない。」

 人事部長が無言で手元の封筒を差し出す。中には証拠の写真、取引先とのメールのやり取りのコピー、さらには密かに録音された音声データの詳細が記されていた。

 「……君がこれまで築いたものは、全て虚構だった。社内外の信用を失い、これ以上君を雇う理由はない。」

 宮抱の指先が震えた。これまでの自信に満ちた表情は、見る影もなかった。

 「……そんな。私は、ただ……」

 言葉にならない。彼女の頭の中で、過去の自分が囁く——。

 『女であることを利用して何が悪いの?』

 しかし、その戦略は通じなくなった。すべてが露見し、もはや手を差し伸べてくれる相手はいなかった。

 「本日付で解雇となる。荷物は総務が整理する。警備員がエスコートするので、すぐに退社してくれ。」

 宮抱は無言で立ち上がった。足が重い。

 廊下を歩く間、すれ違う社員たちの視線が刺さる。皆、知っているのだ。彼女の栄光と、そして破滅を。

 オフィスを出ると、灰色の空が広がっていた。冷たい風が彼女の髪を乱す。

 どこへ行けばいいのか——。

 スマートフォンを取り出し、いつも頼っていた相手に連絡を試みる。しかし、既読がつくことはなかった。

 宮抱紀子の天下は、終わったのだ——。


 第6章:新たな時代の幕開け

 宮抱紀子の退職後、会社の雰囲気は一変した。

 かつては重苦しい空気が漂い、社員たちは常に宮抱の機嫌を伺いながら働いていた。しかし今、その影はもうない。

 新たに課長職を引き継いだのは、宮抱の元部下であり、長年彼女のパワハラに耐えてきた印度澤詩織だった。

 課長就任の日、詩織は社員全員を集め、穏やかながらも力強い声で語った。

 「これからは、誰もが安心して働ける職場を作ります。理不尽な叱責も、過度なプレッシャーも、もうありません。」

 社員たちは半信半疑だったが、すぐに変化が訪れた。

 まず、これまで押し付けられていた無意味なルールや、理不尽な業務が見直された。残業は減り、意見を自由に言える雰囲気が生まれた。詩織は部下たちと積極的にコミュニケーションを取り、一人ひとりの意見に耳を傾けた。

 「働くって、こんなに気持ちが楽だったんだな……」

 ある社員がふと呟いた。その言葉に、多くの同僚が頷く。

 やがて、社員たちは仕事に前向きに取り組むようになり、業績も少しずつ改善していった。職場には笑顔が増え、チームワークも強まっていった。

 宮抱紀子の時代は終わった。

 新しい時代の風が、この会社に吹き始めていた。


 第7章:エピローグ

 ジンジャーブレッドラテを片手に、あかりはゆったりと足を組んだ。

 店内は落ち着いた照明に包まれ、コーヒーの香りが漂う。窓際の席で、彼女は満足げに微笑んだ。

 「今回は天才ハッカーのサポートで助かったわ。宮抱紀子もおしまいね。」

 スプーンで軽くラテをかき混ぜながら、彼女の唇はゆるく笑みを描いた。

 「しかし、社会を蝕む害獣は減らないわね。社獣ハンターの仕事は増えるばかりね」

 彼女はスマートフォンを開き、何かを入力する。

 “悪徳上司は、次の獲物だ”

 画面には、次なるターゲットのリストが映し出されていた。

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