第12話 お腹の音と特製チャーハン

 エリザさんに可愛いと言われて、私はあたふてしてしまう。こういう時、どういう反応をすれば良いのか分からない。でも、でもでも!? どうすれば良いのお!?


 私は困りながらも、何かを言おうとした。でも、口がパクパク動くばかりで言葉は何も出てこない。そんな時、代わりに、とでもいうかのように私のお腹がグウ~と鳴った。さっき沢山クッキーを食べたのに!?


 いや、荷解きで動いたから……その分お腹が減ったのか? 本当は恥ずかしいはずなのに、私は逆に落ち着いてきているのを感じた。ありがとう……私のお腹。


「その……夕飯にしよっか。エリザさんもお腹空いたでしょ? 私、あるもので何か作るよ」

「それは嬉しいデスネ。けど、うちは食べ物はレトルト食品しかないんデスヨネ」

「ありゃ、そうなの?」

「ハイ……日本のレトルト食品って美味しくテェ……レトルトカレーはどう食っても美味いノダ」


 分かるよ。美味しいもんね。レトルトカレー。


「ふむ、なら私の部屋で夕飯にする?」

「良いんデスカ? ありがたいデスケド、益々借りが増えちゃいマスネ」

「気にしないでよ。私が料理を作りたいだけだから」


 本当は、そんなことない。エリザさんに、私の料理を食べてもらいたいから、私と一緒にいて欲しいから、だから誘っているのだ。だけど、その本音をストレートにぶつけるのが照れ臭かった。


「分かりマシタ。今夜はご馳走にナリマス」

「うん、ご馳走になって」

「ナルンデスケド、このままだとワタシの借りが無くなりマセン。明日、お店でご馳走させてください! 今日、買い物をした時に良さそうなお店を見つけたんデス!」


 エリザさん。すっごく真剣! でも、学生さんからご馳走になるのは流石になあ。それは、社会人としてダメな気がした。


「気持ちは嬉しいけれど、そうだなぁ……それじゃあ、こうしない?」

「コウ……トハ?」

「エリザさんは、その良さそうなお店を紹介してよ。私の分までは、ご馳走しなくて良いからさ。それで貸し借り無し」

「ウ、ウム? それってお返しにナリマスカ?」

「細かいことは気にしない!」

「ウムウ……?」


 エリザさんは納得してないみたいだけど、とりあえずここは、こう言って押し通す。押し通させてえ! というか、学生さんがお姉さんに借りとか気にしすぎなのよ。なので、強引にでもその考えは忘れてもらう!


「ささっ! エリザさん! 今夜は何を食べようか! なるべくリクエストに応えるからさ! 何が食べたい?」

「そ、ソウデスネ? ウーン。じゃあ、アレはドウデショウ?」

「ほうほう、アレとはドレでしょう?」

「チャーハン! 食べてみたいデス」


 なるほど。チャーハンか。それなら今うちにあるもので作れるよ。それにしても、エリザさん、チャーハンは食べたこと無かったのか。イギリスなら、そんなに食べる機会は無いのかも? って思うのは偏見かしら?


「了解! チャーハン作るよ!」

「ヨロシクお願いシマス!」


 そういうわけで、私たちは隣の部屋へ移動する。つまり、私の部屋だ。キッチンで手を洗って、料理に必用なものを準備する。


「ワタシ、音鳴サンの料理を見てたいです」

「良いよ。火元からは離れててね」

「ハイ!」


 エリザさんは今夜も料理を見学するようだ。彼女が退屈しないような工夫とか考えた方が良いのかな? いや、いつも通り普通に作れば良いだろう。エリザさんも、それを望んでいるはずだ。落ち着いて、やっていこう。


 まずは、まな板を出してネギと生姜を切っていく。ネギも生姜も微塵切りだ。トントントンッと、こぎみ良い音が鳴る。音を楽しみながら手早く次の食材に取りかかる。


 野菜の次は、肉を切る。豚肉に包丁を入れると、柔らかい感触が伝わってくる。その感触を気持ち良く感じるのは、ちょっと猟奇的かもしない。なんて思ったり。豚肉はできるだけ細かく切っていく。


 包丁の出番はここまで、卵を軽く叩いて割る。殻を割るって、楽しいよね。あんまり硬いと、面倒に思う気持ちの方が強くなるんだろうけどね。


 割った卵は器の中でかき混ぜる。卵を充分にかき混ぜたら、下ごしらえは終わりかな。ここまで五分もかかってない。同時並行で冷凍ご飯の解凍もやっておいた。


「オオー! 流れるような動きトハ、こういう動きを言うのデスネ」


 エリザさんは感心したように言うのだけれど、私もさっき君に同じことを思ったよ。お茶会の時の君は、流れるような動きをしていた。あれは美しかった。


「さて、ここから火を使っていくからね」

「ハイ!」


 フライパンに油をしく。この時、多めに油を使う。美味いチャーハンを作るには、油はちょっと多すぎるかな? と思うくらいに使った方が良い。と、私は思う。これは、料理を作る人間によって意見が変わってくるところだろうね。私は、これが良いと思うんだ。


 油を温める。手の平を高めにかざすとフライパンから熱が伝わってくる。多めに油を使ってるから、ちょっと怖い。ワタシに当たるのが怖いというよりは、万が一にもエリザさんに向かって跳ねたらどうしようという気持ちだ。


「エリザさん。火元からは充分に離れててね~」

「モチロンデス」


 油が充分に温まったら、細かく刻んだ豚肉を投入する。油に絡まれながら、豚肉はジュウーッ! と美味しそうな音を鳴らす。良いねえ。元気な豚肉の音だ!


 豚肉を炒めたことで、油に旨味が含まれる。豚肉をフライパンの隅に寄せて、ここから先はスピード勝負だ。生姜を投入。生姜の刺激的な香りが鼻腔をくすぐる。次は卵。卵が固まりきらぬうちに、お米を投入する。お米の塊を崩すことを意識しながら、他の食材を絡めていく。急げ急げ! 音鳴花子!


 塩と味の素で味を整え炒める。続いてネギを投入する。そうしてコショウの出番だ。コショウは気持ち多すぎるくらいで良いと思う。そうすることで、おお! 香辛料の良い香りだ! 鋭い香りが鼻に嬉しい!


 そして最後に、料理酒を加える。こうすることで、パラパラしつつも、しっとりとした味わいの、美味いチャーハンになるのだ。多めに入れた油の、ぽさも薄めてくれるので、ぜひ料理酒は使うべき!

 良いねえ! こいつは美味いチャーハンだぜぇ。


 チャーハン完成! 火を止める! 達成感!


「完成!」

「オオー! 速いデスネ! 十分もかかってないんじゃナイデスカ!?」

「きっとね。それくらいの時間で、できてるはずだよ」


 エリザさんが感心した表情で拍手をしてくれて、嬉しい。思えば、エリザさんと一緒に料理を食べるようになるまで、こういうものは一人で作って食べていた。だから、褒められるのは嬉しいし、新鮮な気分だ。


「さあて、最後の最後に盛り付けをやらなくちゃね」

「盛り付けデスカ?」


 エリザさんは興味津々な様子。好きなものに興味をもってもらえるのって、やっぱり嬉しいよね。私のことも興味をもってもらえてるような……それは思い上がりだろうか? でも、エリザさんから好意を寄せられているのは感じる。気のせいじゃないと良いな。


「エリザさん」

「ハイ。ナンでしょう?」

「盛り付け。やってみる?」


 私の提案にエリザさんは「良いんデスカ!?」とびっくりしたように答える。そ、そんなに驚くことかな……?


「うん、エリザさんさえ良ければ。難しくはないよ。むしろ簡単」

「ホホー?」

「お椀を使うとね、綺麗な半球みたいな形になるんだよ。お椀にチャーハンを入れてから、平皿の上でひっくり返すだけ。ね、簡単でしょう?」

「でも、面白そうデスネ。ワタシ、それをやりたいデス! 良いデスカ?」

「もちろん。私から提案したんだから」


 エリザさんが楽しそうにしてくれると、ワタシも楽しい気分になった。

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