第27話 高校最後の文化祭_2 side香奈
『元』生徒会長だとしても頼られることは多い。もちろん現生徒会長の柏木ゆらさんの方が仕事量は多いけど、同学年やよく話していた部長とかは私に相談した方が早いと思っているみたいで、生徒会長でなくなった今でもいろいろな相談を受けていた。
「ねぇ会長。学校祭に有名人とか呼べないの?」
「私もう生徒会長じゃないんだけど……」
それはそんな相談……というか雑談の中の1つだった。クラスの女の子と話していてたまたまそういう話になる。ちなみに私のニックネームは完全に『会長』になってしまっていた。
確かに学校によっては有名なOB、OGを学校祭に招待することがあるのは知っているし、私の学校にももちろん有名な人はいるけれど。
「研究者とか?」
「うーん、まぁそうなっちゃうよねぇ」
進学校なこともあってOB、OGは政治家や研究者の人が多い。少しはスポーツ選手とかもいるけど、メジャーな人はあんまり思い浮かばなかった。
「研究者じゃあねぇー。学校祭中にトークショーとかお願いしても、あんまり人集まらなさそう。エンタメ性が低いよね」
「少し検討してみる。予算があるからあまり有名な人は呼べないけど」
「さすが会長ー、よろしくねー」
私が会長をしている任期の間、無駄なコストだと思ったものは結構カットしたから、実は予算に少し余裕があることを知っている。だけどそれを、政治家や研究者を一人呼ぶために使うのは少しもったいない気がした。
「かいちょー」
「茉莉さん? なんでしょう」
次に話しかけてくれたのは、同じクラスで服飾部の元部長、茉莉みなもさんだ。生徒会は各部長と話し合うことが多くて、そのおかげで茉莉さんとも結構お話する仲になっていた。
茉莉さんは話し方からもルーズ寄りの性格だけど、服飾部ということもあって制服を目立たない程度にアレンジしていて、他の制服より少し可愛い。
「あのさー、できればでいいんだけど。できればー」
「うん」
「学校祭で、モデルやってくれないかなー」
「モデル?」
その提案は予想もしなかったものだった。確かに服飾部は毎年、作った服を生徒に着させて体育館でファッションショーをしていたのは知っているけど。
「本当は去年もお願いしたかったんだけど、去年はかいちょー忙しそうだったし。今年はちょっと時間あるかなって。かいちょー背高いし映えると思うんだよねぇ。ほら、最後の学校祭じゃん? かいちょーもなにか思い出残したくない?」
「思い出……」
その話を聞いて、私の頭の隅に1つの計画が思い浮かんだ。
この計画を実現させるには、いくつかのハードルを乗り越えなきゃいけなくて、説得が必要な人も何人かいる。でももしそれが全部実現できたのなら、私にとって貴重な思い出になるはずで……ふと思いついてしまったその計画は、掃いて捨ててしまうには少しもったいない程のものだった。
「かいちょー?」
考え込んでしまった私に、茉莉さんが再度問いかける。……ひとまず茉莉さんを味方にする必要がある。
「モデルの件は……大丈夫かな」
「え、マジー? やった! 断られるかと思ってたー」
「その代わり、協力してもらいたいことがあって」
「協力?」
喜ぶ茉莉さんに、私は頭の中で組み立てていた計画を話した。
茉莉さんの了解も得て、そこから私はその計画を実行するため、関係各所へと走り回ることになった。
といっても私の計画で壁になると思っていたいくつかの項目は、結果的に壁にならない場合が多かった。いくら建前を用意したとはいえ、自分勝手なその計画を疑いもせずに許可してくれる教師や生徒会メンバーに、私の信頼度は相当高いんだな、と自分でもその事実に驚いた。
唯一、私の友達である夕だけは難色を示したが、多数決には抗えない。無事予算も通り、あゆみさんの会社にも依頼を受けてもらえて、あゆみさんが特別ゲストとして学校祭に来ることが決まった時には、思わず手に力が入った。
何度か学校であゆみさんと打ち合わせを繰り返して、その時間も楽しくてついついはしゃいでしまう。茉莉さんがあゆみさんのファンで、フィッテングする時の距離が少し近いことは気に入らなかったけど、計画は順調に進んでいって。
そしてなんの障害もないまま、学園祭の日を迎えた。
学園祭の朝、まだ生徒もまばらの早朝に、私と夕さんは二人控室の準備をしていた。
私が計画したこともあって、あゆみさんの案内には私と、立候補した夕の二人で務めることになった。
「♪~」
「……ずいぶんとご機嫌ね」
「そ、そんなことないよ」
「香奈の鼻歌とか初めて聞いたけど」
「……歌ってた?」
コクリと頷く夕に顔が赤くなる。全然気づかなかった……。
「あゆみさんって、香奈とは面識があるんでしょう?」
「うん、お世話になってるよ」
「確かお姉さんの友人よね?」
「そう、だけど」
おねーちゃんの友人じゃなく、私の大切な人。とは言えないから、夕の言葉に頷く。
「……いい学園祭になるよう頑張りましょうね」
「うん、忙しいと思うけど、夕もよろしく」
夕の言葉はなにかを含んでいる気がしたけど、それを口にすることはなかった。
夕はやっぱり少し疑っているような感じで少し気になるけど、ここまできたらやるしかない。柄にもなく緊張しているようで、一度深呼吸をする。
あゆみさんをこの文化祭に呼ぶのは、計画の中の前段階にすぎないのだから。
あゆみさんにも伝えてないことがいくつかあって、それだけは直前まで秘密にしておかなければならない。本当は私の中の常識ではかなりやりすぎな計画だと思う、だからその内容を知っているのも私と茉莉さんだけだ。
服飾部のイベントは、体育館のステージで午前最後の部。その時間が待ち遠しくて、私はあゆみさんが来るまで落ち着きなく過ごした。
「あゆみさん、本日はよろしくお願いします」
「……よろしくお願いいたします」
あゆみさんは時間通り学校に到着した。モデルモードのあゆみさんはカッコよくて、自然と緩む頬を押さえるのに必死だった。
夕と簡単に自己紹介をして、あゆみさんを控え室に案内する。あんまり一緒にいたらどこかでボロを出してしまいそうだから、すぐに退出することにした。長い時間一緒に過ごしていることもあって、お互い気にしていることがなんとなくわかってしまう。
「夕、茉莉さんがきたら控室に案内してくれる? 事前の段取りあるって言ってたから」
「香奈はどうするの?」
「私は……生徒会室で日程確認でもしようかな」
「わかったわ。じゃあまた後でね」
日程確認は何度もしたけど……念のため。もうすぐゆらさんも来るだろうし、なによりなにかしていないと落ち着かない。私は廊下で一度夕と別れ、生徒会室に向かった。
生徒会室の鍵は空いていて、会長の席にはゆらさんが一人パソコンを前にしていた。
ゆらさんは私が三年生に上がった時、生徒会外から引っ張ってきて会長に推薦した女の子だ。二年生内で学年一位の成績、一年生の時も好成績をキープしていてその名前はなんとなく知っていた。ゆらさん自体は勉強しか取り柄がないと言っていたけど、私が生徒会長を引き継ぐのに評価した点は、ゆらさんが『助けられる才能』に長けていると感じたから。
自分のわからないことは教えてもらえばいい。そして教えを乞う人を的確に選ぶことができるのも、それもまた才能だ。ゆらさんのその才能は、普段から周りをよく観察できないと身につかないもので、ゆらさんはそれが特別上手だった。
自己評価が低いことだけ、もう少しなんとかならないかな? と思ってしまうけど。
「あっ、会長……助けてくださぁい」
「会長はあなたでしょう、しっかりしてください。それでどうしたの?」
「えっと、ここなんですけど……」
パソコンの画面に写し出されているのは、学園祭に関する経費の計算表だった。ゆらさんは私が強引に生徒会に引っ張ってきたのもあって、どうにも甘やかしてしまう。もしかしてこれがおねーちゃんが感じている気持ちなのかなと思いながら、ゆらさんにどこがわからないのかを聞いた。
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