第33話 知れば知るほど正気が削れる水鏡才という存在

 同じ1年のいずみ佳乃よしのに、魔法学校を案内してもらう。


「ここが、あまり使われていない教室です」


「この更衣室も使われてないから、女子用に入りやすいです」


「保健室はベッドがありますけど……。シーツがぐっしょり濡れるのは、ちょっと困ります」


「体育の用具置き場は外から鍵をかけられるから、注意してください」


「グランドピアノは、上に乗っからないでくださいね? 調律が狂うし歪むから、音楽教師とかが発狂します! 何をされても、知りませんから」


 懸命に説明する佳乃に、突っ込む。


「ありがたいけど……。別に、校内のヤれる場所を探しているわけじゃない」


「す、すみませんっ!」


 ビクッとした佳乃が、頭を下げた。


「怒っていないから……。それより、ここに魔術を使うやつは?」


 顔を上げた佳乃は、ロリ顔で、可愛らしく悩む。


「知りません……。というのも、ここにいる生徒のスキルは自己申告になっていて、共通の訓練と模擬戦を除き、奥の手は見せないので」


「そうか……」


 俺が常識的な対応をしたことで、佳乃は興味深そうに見上げる。


「参考までにお聞きしますが、水鏡すいきょうくんの魔術はどのような?」


「さっきみたいに戦闘もできるが……。どちらかと言えば、召喚系だ! 制御しにくいから強引に帰還させる必要があって、あまり使いたくない。銃の扱いなども、一通りの訓練を受けた。……同じ学年で敬語はいらない」


 こくりと頷いた佳乃は、はじめて笑顔になった。


「そうなんだ! じゃあ、私の式神と同じだね? 私は、生徒会長の若さま……安倍あべ先輩のお家に代々仕えてきた家系なの」


 すると、両手でスマホを弄っていた綾ノ瀬あやのせ奈々美ななみが、顔を上げる。


「色々と有益な情報をいただき、ありがとうございました! お礼に、今日のお夕飯をどうでしょう? 自宅に招きたいのですが」


 ……有益?


 俺の疑問に構わず、佳乃が答える。


「本当!? あー、私1人はちょっと……。副会長を巻き込んでいい?」


 チラリと俺を見たことで、佳乃が警戒していることを察する。


 奈々美が俺の言いなりだったら、妹の水鏡アレーテも共犯だろうし。

 こいつの視点では、3人がかりでヤラれるってことか……。


(さっきの今だし、当然の対応か!)


 同じ学校の女子が1人いるのに、よほど怖いらしい。


 アレーテも加わって、女子3人の話し合いで、俺は窓の外を見た。



 ◇



 生徒会室で窓の外を見ていた安倍良高よしたかが、振り向いた。


「水鏡くんは、慣れている対応だったな? 今のうちに、さっきの模擬戦を分析しておこう。ブレーンストーミングとする」


「最初に考え込んでいるようだったから、悩むほどの選択肢があった……」


「状況判断が速いし、体術もそこそこ! 殺さず、壊さない前提だと、俺も手こずりそうだ」


「風を操ったことは分かるけど……。その後に、伊田いだくんの炎を返したうえに消したのは?」


 立ったままで腕を組んだ良高が、率直に述べる。


「分からん! キャンセルしたと考えても、不自然だった……」


「古い家のような臭いがあったぞ?」

「私も」


 息を吐いた良高が、テーブルについている面々を見た。


「思っていたよりも、引き出しが多いようだ……。出て、構わん」


 震えたスマホを見た夢咲ゆめさきアリアに、良高が許可を出した。


 指を滑らせたアリアが、報告する。


「佳乃ちゃんが、奈々美ちゃんの自宅……というか、水鏡くん達も住んでいる家に招待されたって! 今日の晩御飯に招かれたけど、1人は怖いから私もどうかと」


「予定がなければ、行きたまえ! 生徒会の名義で、手土産……持ち帰りのディナーを買ってもいい。領収書を忘れるな」


「はいはーい!」


 良高の指示に、気の抜けた返事をしたアリアが立ち上がり、荷物をまとめる。


 バタバタと出て行った後で、良高は独り言のように呟く。


「勝てそうか?」


「……何とも言えません。まだ切り札があるでしょうし」


 土御門つちみかどわたるは、慎重に答えた。


 そして、付け加える。


「術の発動が、あまりに速い……。事前に準備しておく儀式か、式神のように従えているタイプです」


「無詠唱だったからな! 身振りだけで、カウンターの消去……。いずれにせよ、彼らと親しくなり、情報を得る必要があった。夢咲くんも、あれで実力者だし、ちょうど良かったと言えば、そうだな……」


 渡は、軽口をたたく。


「伊田も、その意味では役に立ったと?」


「まあな……。彼の意見は、分からんでもない! 正当に主張してくれれば、転校させることもなかったが」


「売春クラブの幹部は言いすぎにしても、解決したのであれば同じ系統ですね? 精神操作の……」


 良高は、渡の指摘に頷いた。


「ああ……。直接戦闘でも、伊田くんを一蹴した。それも、炎とは別に指弾を防ぎつつ」


「目くらましで、銃弾と同じ攻撃! 伊田は、殺されなかっただけで一生分の運を使いましたね」


 男子2人は、憂鬱だった。


 搦め手を得意とする、直接戦闘が苦手なタイプなら、やりようはある。


 けれど、水鏡さいは、不特定多数を相手に魅了や洗脳、または解除することが可能で、それなりに強くて殺しにかかった相手とのタイマンでも手加減するだけの余裕があるのだ。


 すぐに知らなければいけないのは、才の人間性……。

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