第17話 イケメン以外はお金を出す、残酷なカースト制度

 白い壁と、機能性だけを考えた床。


 雑居ビルだが、オートロックのおかげで人の気配はない。


 団地のような感じで、それぞれの郵便ボックスや掲示板。

 それに、階段とエレベーター。


 上の白い光が、ぼんやりと照らす。


(指定された番号が、そのまま入口か?)


 事務所のプレートが集まっているところを辿れば、それっぽい会社名。


 案内図を見たあとで、エレベーターに乗る。


 左右のドアに窓があって、いかにも事務的。


 そのフロアーで内廊下を歩いても、知らなければ不安になる空間だ。


(玄関ドアに、それぞれの会社名があるぐらい……)


 そもそも、知らない人間が来る場所ではないのだろう。

 企業や個人を訊ねて、事務仕事はここか。


 やがて、その番号にある玄関ドアに。


 インターホンを押すと、予約の有無を尋ねられた。


 再び、スマホで予約画面を向ける。


『どうぞ、お入りください!』


 ガチャッと、鍵が開く音。


 安っぽいドアノブを回せば、団地を思わせるドアが開く。


 中では、ビシッと黒いスーツを着た男が立っていた。


 バッと頭を下げつつ、説明する。


「ようこそ、お越しくださいました! 申し訳ありませんが、どうかお早く」


 別の黒服が、乱暴にならない動きで、中へ入るように促した。


 中に足を踏み入れると、黒服が玄関ドアを閉めて、内鍵をかける。


 頭を下げた黒服が、笑顔で告げる。


「お客様は、初めてのご利用でいらっしゃいますか? はい! では、初見の方への説明をしたく存じます。こちらへ……」


 事務所っぽい空間から、隠れるようにあった階段を降りて、防音ドアを開ければ――


 どこかのクラブのような、BGM。


 薄暗く、さっきの事務所が嘘のように広々とした間取りだ。


(これ、フロアー丸ごとか?)


 ムードたっぷりの空間で、先導している黒服が振り向いた。


「説明が終わりましたら、すぐにご案内しますので」


 スタッフ専用と思われる部屋に入り、面接のように机をはさんで向き合う。


 待機していた黒服が、すぐにお茶と菓子を用意する。


「手短に、ご説明いたします! この会員制クラブでは――」


 机に置かれたアルバムを開けば、女子中高生、あるいは大学生の写真が並ぶ。


 学生、人妻などの、簡単なプロフィールも。


「ほんの一部でして、お客様のランクが上がれば、さらに希少な会員と楽しめます。そちらはグラドル、読モのように下の芸能人から始まり、現役の有名人も場合によっては……」


 質問があるか? と、黒服は黙った。


「写真で管理しているんですね?」


「電子データのほうが便利ですけど、それだけに流出も早く……。結局は、アナログが一番というわけで」


「料金は?」


「はい! お客様は初回のご利用だから……無料でございます! 具体的には――」


 無料だけど、今見せたアルバムから指名はできない。


 延長も不可。


 黒服は、ぶっちゃける。


「お客様には、馴染み深いと思いますよ? ああ、ここでは本名を言わないでください! 名前のカタカナか、偽名で構いません。女性のスタッフに関しても同様です。『知り合いに似ているなあ?』と思っても、知らない振りで」


 料金表も見せられたが、高校生にはキツく、社会人なら奮発すれば、という相場。


「追加料金は?」

「……いえ、シンプルにそれだけです。相手した女性に怪我をさせたり、備品を壊したりは、論外ですよ?」



 次に案内されたのは、教室の一部を区切ったようなスペース。


(文化祭みたいだな?)


 そう思っていたら、人気のある女子校の制服を着た女子が入ってきた。


「ヤッホー! 来ちゃった……」


 仮面舞踏会のようなマスクをつけているが、その雰囲気と声で、生徒会長の古波津こはつ百合ゆりと分かる。


 傍で座りつつ、ニマーッと笑う。


「アレーテさんも来ているし、君だけフリーってのは悪いと思って♪」


「フリー?」


 自宅のように足をそろえたまま座る百合は、頷いた。


「うん! アレーテさんは、上のランクにいる人の相手だと思う……。で、ここなんだけど――」


 百合が説明している間にも、布で区切っただけの左右や後ろから抑えた声がサラウンド。


 俺たちのように、ヒソヒソ話をしているところも。


 ここは、入った男につくかどうかを女が選べるプレイルーム。


 雰囲気と声から、おそらく学生ばかり。


「運が悪いと、ずーっと待機しているだけ!」


 近づいた百合は、耳元で囁く。


「大きな声じゃ言えないけど、ここにいる女子はランクが低いの! それも、チップを出して、ようやく誰かが来る仕組みよ! アレーテさんのお兄さんだし、後悔させたくない」


 続けて、普段は私もアレーテさんのように上のランクを相手しているから。


「どこが無料だよ、あの黒服……」

「アハハ……。嘘ではないわね?」


 あっけらかんとした、文化祭の出し物のように振る舞う百合。


 それを見た俺は、彼女がすでに多くの男を咥えこんだと察した。


(嘘をつけるタイプじゃない……。認識がおかしいのか?)


 百合に現実を教えるのではなく、調査する時間を稼ぐ。


「ユリ? 俺、アレーテを探しに行きたいんだ。協力してくれないか?」


 仮面を外し、制服の上着を脱いでいた百合が驚く。


 しかし、ニヤッとする。


「ふーん? やめたほうがいいと思うけど……。面白そう♪」

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