③大刀洗陸軍航空廠北飛行場整備班 河野孝弘 の証言(その2)
第六十二戦隊の山本伍長が放火犯として憲兵隊に逮捕され、軍法会議で死刑判決を受け、一九四五年八月九日福岡市油山で銃殺刑になった。彼は機関士ならともかく通信士であった。爆撃機や爆弾の構造についてそれほどの知識があったとは思えない。極秘兵器を焼かれ、早急な犯人逮捕を迫られた憲兵隊が、朝鮮人だという理由だけで山本伍長に罪を被せたのではないか。
八月八日の軍法会議で死刑判決が下り、その翌日に処刑が行われているのも、いかにも性急でおかしい。あと一週間もすれば戦争が終わるというときに、これほど急ぐ必要があったのか。
菅原中将の日記には、山本伍長が軍法会議で犯行を否認したと書いてあるそうじゃないか。これは軍の主張を根本から揺るがす証言だと思う。憲兵隊に拷問され、一度は犯行をみとめたものの、後になって否認した。憲兵隊の拷問がいかに過酷か、これは経験したものでないとわからない。だが彼は、無実の罪をきせられたままでは死んでも死にきれないと思って、決死の覚悟で自白を覆したのだろう。そうでなければ、無駄と知りながら憲兵隊と軍法会議に逆らうはずがない。彼はきっと、どうせ死刑は変わらないだろうが、潔白だけは証明したいと思ったのだ。人間、死を覚悟したときには真実を言うものだ。
朝鮮人だというだけで、やってもいない罪をなすりつけられ、殺されて、どんなに悔しかっただろう。いまさら「あの放火事件は山本伍長の犯行ではない」と言ったって、彼が生き返るわけではない。それに、私が話さなくてもいずれ第六十二戦隊の誰かが話すはずだと思っていた。しかし、誰も口を開かなかった。私は、これほど重大な事件を目撃したのに黙っているのがずっと心残りだった。もう人まかせにできないと思い、話すことにした。(後日談)
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