第10話
ゴールデンウィーク二日目はナースのコスプレ衣装を親友に着せられて、三日目は巫女さんのコスプレ衣装だった。
今日はバニーガールの衣装を着て、今、ベッドの上で横になりながら親友を眺めている。
親友は寝転がる私にスマホのカメラを構えてニマニマと嬉しそうにしていて、表情もだらしない。
「……あかり、これ、そんなに楽しい?」
私には『楽しい』という感情も無いから、親友の気持ちが理解出来ないことのほうが多くて、だからこうして言葉にして質問して、彼女の感情と私の解釈を擦り合わせる機会が多々必要になってくる。
「うん、すっごく楽しい。幸せ。バニーガールさきちゃん、めっ、、、、ちゃ可愛いよぉ」
「………そう」
それならば特に言うことも無いのだけれど。
親友が高揚しながら私の写真をパシャパシャと撮っている間、私は何もすることが無いわけで。
最近は一人でいる時は発情して悶々としたままベッドの上でモゾモゾするか、それに伴う睡魔に身を委ねて眠るか、勉強することで暇を解消していた。
私の部屋には漫画も小説もあるけれど、いかんせん私に感情が無いからすっかり用無しで埃を被ってしまっている状態だ。
今もベッドで横になっているせいか、だんだんと瞼が重く閉じはじめる。
「あ、さきちゃん、もしかして眠たい?」
「………ちょっとだけ」
「んふふ、目がトロンとしてる。かわいい」
パシャっともう一枚写真を撮られる。
「寝てもいいよ?お昼ごはん食べてお腹がいっぱいになったから眠くなったんだろうし」
「ん、、でも、あかりが暇になる」
「わたしのことは気にしないでいいよ。さきちゃんの寝顔見てるだけで時間溶けちゃうし、お夕飯の一時間前くらいには起こすから」
「……そう。………なら、少しだけ、寝る」
「うん!おやすみ、さきちゃん」
「……ぅん」
目を閉じる。
「おやすみ」
そう言おうとして、何か物足りない気がした。
ぬくもり。そう、ぬくもりが足りない。
『興奮』というか発情という感情が芽生えてから、ずっと人肌恋しくなってる自分がいることにうっすらと気づいた。
眠くてぼーっとする頭で、私は両手を親友に伸ばした。
「……あかり、こっち来て」
「え、」
「くっついて、寝たい」
ごくりと喉を鳴らす彼女。
ここ数日、泊まりに来た親友は夜寝る時には床に布団を敷くため、隣り合って眠るのは未だ一日しか経験していない。
「わ、わたしもベッドに、上がっていいの?」
「……ぅん」
「ね、寝るだけ、なんだよね?」
「……ぅん」
親友に抱きついて、ぬくもりに包まれながら眠りたいと思った。
「な、何もしないから、安心して眠ってね」
「……?……ぅん」
ぎこちない様子でギシッとベッドを軋ませながら私の隣に並んで横になる親友。
私は肩にまで力の入った彼女を無遠慮に抱きしめた。
彼女の胸に顔をうずめる。
あったかくて、あまい香り。
むにむにする柔肌にうりうりと顔を擦りつけながら、ようやっと本格的な眠りに就く。
その間、親友は私の背中に手を回すでもなく、ただ黙りながら固唾を飲んでるようだった。
◆ ◆ ◆
「すぅ、すぅ」
さきちゃんの寝顔をこんなに至近距離で見る機会が、最近は増えてきている。
こ、これも、両想い効果?なんて思いながら、やっと緊張から少しだけ緩和されたわたしの身体はさきちゃんを起こさないようにゆっくりと動き始める。
手をさきちゃんの背中に回して、わたしも脆いお人形を抱くように、そっと回す腕に力を込める。
それに呼応するかのように眠るさきちゃんからも、ぎゅーって抱きしめられて。
なんなの、この幸せ空間。
さきちゃん、赤ちゃんみたいでかわいい。
すやすや眠ってる時のさきちゃんは起きてる時と同様に何故かキリッとしててクールって感じで。
もっとだらしない寝顔とかも見てみたい欲にかられてしまう。
ヨダレとか、このままわたしの胸に垂らしてくれたりしないかな。
そんな邪で下品な考えすら頭を過ぎってしまう。
わたし、さきちゃんに『好き』って感情が芽生えてから、ずっと浮かれっぱなしだ。
彼女にはまだまだ不便なことが沢山あるから、わたしがもっとしゃっきりとしなきゃダメなのに、だらしなく口角が上がってニヤニヤが止まらない。
「……んぅぅ」
すりすり、とわたしの胸に頬擦りするさきちゃん。母性本能がくすぐられて、胸がキュンとする。
ただくすぐられるのは母性本能だけでは無くて、さきちゃんがわたしの好きな人だからこそ、こんなに無防備な寝顔を見ちゃったら色々と欲が出てくる。
何もしないって、言ったのに。
キス、くらいなら。
しても良いかなって思ってしまう。
寝てるからどうせ気づかない。
黙っていればバレることはない。
そうやって都合よく物事を考えて、自分の欲を叶えたくなってしまう。
「お、おーい、さきちゃーん、起きてないよねぇ?」
囁くように、聞こえるか聞こえないかの小さな声で寝てる彼女に訊ねる。
もちろん返答なんてあるはずもなく。
わたしの理性はいよいよ暴走し止まらなくなる。
キスだけ。
唇にそっと触れるだけ。
舐めるだけ。
ちゅって、ただするだけだから。
抑制とか、我慢とか、理性とか。
そんな常識を守るために必要な部品たちが頭の中で洗濯機みたいにグルグルと回りだして。
欲望と綯い交ぜになって。
もう訳わかんなくなって。
視界までグルグルとしだして。
顔も熱くなって。
ええいままよと、勢い任せに。
わたしはさきちゃんの淡いピンクな唇に口付けをした。
ふにっとした柔らかさが自身の唇に感触として残り続けて、どうにかなってしまいそうなほど、はじめてのキスはきもちよかった。
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