第7話
親友に新しい感情の存在を打ち明けた日から、明確に変わったことが一つある。
ゴールデンウィーク二日前の放課後。
親友の家に遊びに来た今でも、その変化は容易に感じ取ることが出来る。
「あかり、膝かして」
「えへへ。いいよ、さきちゃん」
ストンと横に倒れて親友の太ももに頭を乗せる。
ポカポカと温かくて、彼女の甘い香りもして。
私のおへその下はすぐにまた疼いて、きゅんとしだす。
「好きだよ、さきちゃん」
「………ん」
頭を優しく撫でられながら囁かれる甘い言葉に、自然と瞼は重くなる。
好き。それは私にはもう無い感情。
羨ましさも少しあるけれど、今は親友のその言葉をただただ私の『興奮』の材料へと置き換える。
彼女に好きと言われると、どうしようもなく興奮する。
そんな悪魔的な言葉をここ最近になって毎日言ってくれる親友の行動を考えてみると、きっと彼女なりに私の新しい感情を追求するためのサポートをしてくれているんだろうなと、一人納得する。
しばらく頭を撫でられると、本格的に睡魔がやってくる。
最近は興奮すると睡魔も付いてきて、未だあの日以降に刺激的な行いは出来ていない。
でも、変な夢は最近見るようになった。
「ねむたい?さきちゃん」
「……ぅん」
「かわいい。寝てもいいよ」
「……そうする」
うっすらと意識は遠のいていく。
また、変な夢を見るのかな。
あの起きたら煙のように記憶も消えてしまう朧げな変な夢を。
◆ ◆ ◆
寝ちゃった。
わたしのひざ枕で、さきちゃんが寝息を立てている。
彼女を起こさないように、そーっと、そーっと、頭を撫で続ける。サラサラとした髪。その指通しの良い綺麗な髪が、好き。
昔、まださきちゃんが表情豊かで活発な女の子だった頃の話。
一人っ子で妹や弟の存在に憧れていたわたしはとにかく世話焼きで、小学一年生というまだ年端も行かない頃に出会ったさきちゃんをこれでもかと言うほどお世話した。
正確に言えば、お世話させてもらっていた。
たまたま家が近いことも相まって、しょっちゅう互いの家にお泊まりしあっては、いつでもどこでもわたしたちは二人隣り合わせでくっついていた。
きっと大人たちからはさきちゃんがわたしについて回ってると思ったかもしれないけれど、それは実は真逆で。
わたしが彼女の後をついて回っては身の回りのお世話を勝手にしてただけ。
当時は同年代だけれど妹が出来た感覚で、お姉さんぶって色々とママから聞いた知識をひけらかしたりもした。
その中に、「いーい?さきちゃん。髪はじょせいの宝物なんだよ。きちんと洗わなきゃだめなの」なんてことを言った記憶もある。
その後にちゃっかりと「だからわたしがさきちゃんの髪を丁寧に洗ったげる!」と付け加えて一緒にお風呂に入ることを当たり前にしたんだっけ。
今でもあの頃を思い出すとふふふと笑みが溢れる。
さきちゃん、わたしの言うことには目をキラキラ輝かせて元気よく「はーい!」ってお返事してくれて、本当に妹みたいで、可愛くてかわいくて。
いつからだっけな。
わたしが、さきちゃんを妹とかじゃなくて一人の女の子として好きだと思い始めたのは。
もう覚えてないや。それくらい前からわたしはさきちゃんのことが大好きで、この想いは今なお現在進行形で大きくなっていく。
「………んっ。……んぅ」
すぅすぅと眠るさきちゃんの頬がほのかに赤い。吐息も少しだけ熱っぽいような?
「さきちゃん、今、わたしにひざ枕されながら、どんな夢を見てるのかにゃー?」
ふぅーっ、と吐息を耳にかけてみる。
ちょっとしたイタズラ。
「んっ。……ふぁ」
思ったよりも返ってきた反応が色っぽくて、わたしがドキッとさせられた。
もうっ、寝てる時くらい、わたしがさきちゃんで遊びたい。いつもいつも起きてる時の彼女には心をたくさん掻き乱されて、まるでおもちゃみたいに遊ばれる。
いや、さきちゃんは遊んでる自覚なんて無いんだろうけど、わたしとしては、ちょっと悔しい。
もっとわたしだって、色んな表情のさきちゃんを見たいし、色んな反応をさせてみたい。
けれど、さきちゃんにはもう感情はそれほど残ってないから。今わかる段階でも一つだけ。
今はその一つの感情、好きのために、わたしはなんだってやれるし、どんな言葉でも彼女に投げかける。
もしかしたら、そこからまた感情を取り戻す鍵が見つかるかもしれないんだから。
「さきちゃん、好き」
耳元で、囁くように。ふぅーっと。
「好きだよ。だいすき」
あ、ちょっとだけビクビクしてる。
かわいい。もしかしてさきちゃん、耳が性感帯だったりするのかな?
と言うか、さきちゃんってその、自慰行為とかしたり、するのかな?
………まぁ、今はそんなことはどうでもよくて。
このさきちゃんの反応をとりあえずは限界まで楽しみたい。
「さきちゃーん。耳、よわいの?」
「……んっ」
「ねむねむで、起きれないねー。かわいい。好きだよ、さきちゃん」
「………んぁ。……ん」
「好き。すきすき。大好き」
「……ぁん。………っ」
かわいい。
耳を赤くして、わたしの言葉一つ一つに震えてる。眉根を寄せて、くすぐったいんだ。
もしもさきちゃんが性的興奮によって気持ちよくなる方法を知らないんだとしたら。
その時は、わたしが教えてあげたりして、、、。
い、いや、流石にそれはダメだよね。
でももし、このままわたしたちが好き合って、エッチなことをするってなった暁には、絶対に耳を舐めるし甘噛みしたい。
今もはむはむってしたい欲求を精一杯に理性で繋ぎ止めている状態。
まぁきっと、さきちゃんが起きて意識がある状態なら耳を刺激しても彼女は何も感じないんだろうし?
そもそも今の彼女が性的興奮を覚えるなんて想像できないけど。
あーあ、さきちゃんがもっともっと、わたしに興奮するくらいわたしのことを好きになってくれたらなぁ、なんて思いながら、わたしは若干汗ばんだ彼女の頭を撫で続けた。
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