第47話 エピローグ(2)

「んっ……」


 耳元で響いた声にぼんやりとした意識がゆっくりと覚醒する。

 目を開けると見慣れた自分の寝室の天井。顔を横に向けると、さらさらとした赤毛が頬にかかりったあどけない顔ですぅすぅと寝息を立てる莉子優花の寝顔。

 顔の特徴が似通っているわけじゃないのに、優花の雰囲気を感じ取れるようになったのは中身を知ったせいだろうか。


「んんっ……」


 寝ぼけているのか、目を瞑ったままの莉子が俺の腕にしがみついてくる。

 腕に押し付けられる温かな感触に昨晩のあれこれが思い出され、朝からいたずらしてやろうかという気が湧き上がるが、理性さんの力で必死に抑え込む。

 平日の朝だしな。


「んんー……」


 寝ぼけたままの莉子を軽くハグする。

 そしてベッドから出るためにゆっくりと身を離そうとしたところでガシッとハグし返される。


「悠太ぁー……」

「おはよう、莉子。朝だよ。起き――――んんっ」


 寝ぼけたまま抱き着いて来た莉子に声をかけて起こそうとしたら、物理的に口をふさがれてしまった。

 無理矢理引きはがすのも躊躇ためらわれたので好きにさせておいたら、侵入してきた莉子の舌が口内を蹂躙じゅうりんしはじめた。

 コレ、起きてるだろ。


「んっ! んんっ!」


 口内の感触と、体中に押し付けられる温かさに既に俺の一部分は充血しはじめている。

 平日の朝、平日の朝と呪文のように心の中で繰り返し、理性さんの耐力を大幅に削られつつ、なんとか莉子を引きはがす。


「莉子、おはよう。起きてくれ。そろそろ起き出さないと遅刻するぞ」

「おはよう、悠太」


 ようやく顔を離した莉子がパチリを目を開けて返事をする。

 そして猫のような顔でニヤニヤと笑いながら続ける。


「悠太の身体はまだ起き出したくないって言ってるよ?」

「いや、今日は平日だから学校も会社もあるんだって」

「急げば間に合うわよ」

「そんな――んんっ!」


 再び物理的に口をふさがれ、身体も密着される。また舌も入ってくる。

 あぁ……理性さんが手を振って去っていく……



 ◇



「ほら悠太、急いでっ」

「誰のせいだよっ」


 慌てて身支度だけ整え、二人で急いで出発する。

 あのイレギュラーダンジョンを脱出してから約一ヶ月が経った。俺は気を失っていたので聞いた話だが、ゲートを脱出した直後にあのダンジョンゲートは崩壊してしまったらしい。

 そんな前代未聞の事態のため、直後はバタバタとしていた俺たちの周りもようやく以前の生活を取り戻しつつある。

 莉子の中が転生した優花だったとしても、莉子が16歳の少女であることには変わりはなく、探索者学校には引き続き通っている。

 中退してしまう話も出たが、そんな話をしている際中にゆずりはさんからかかってきた電話で「ねじ込んだ側の面子もあるんだから、ちゃんと卒業しなさいよ」と釘を刺されたらしい。


「早く早くーっ」


 笑いながら俺を急かしつつ前を走る莉子の制服のスカートに目を奪わる。

 莉子が卒業したら正式に専業の探索者に戻るつもりだが、それまでは俺も今の会社にお世話になるつもりだ。

 と言うか、近々辞めたいと上司の飯田課長に相談したら全力で泣きつかれた。これ以上、常識人が減ったら胃に穴が開くから勘弁してくれとのこと。


「送るのは駅まででいいのか?」

「えぇー、駅までじゃ遅刻しちゃうよー。校門の前まで送ってー」

「目立つだろ」

「平気だしー。年上彼氏面すればいいじゃーん」

「いや、保護者に送られたってだけだろ」


 莉子も優花としての地が出て来たのか周囲の学生に引っ張られているのか、だいぶラフな感じで喋るようになった。

 そのせいか、先日久しぶりに会ったすみれさんにも「やっぱり手を出したんじゃない」とべしべしと叩かれた。

 そんな菫さんだが、バイアがイレギュラーダンジョンのゲートを開いた時とゲートが崩壊した時のそれぞれを間近で見ていたことでゲートに関する魔法を研究中らしい。上手くいけば、既存のダンジョンゲートを閉じることが出来るようになるかも、と飲みながら言っていた。


「あ、悠太。私の目がないからって、会社であの女とイチャついたら駄目だからね!」

「あの女って……リオンのこと?」

「そう!」


 イレギュラーダンジョンから脱出した後、リオンの取り扱いは紛糾した。だが最終的にはバイアに操られていた、ということになった。それでも精神的に不安定になった等の理由でダンジョン配信は休業中である。

 だが休業中のはずのリオンは、なぜかうちの会社にアルバイトとして勤め始めた。水野さんの紹介らしい。万年人手不足なウチの部署は貴重な探索者は即採用だったとか。

 そして購買部迷宮資材調達課俺と同じ部署で働いている。


「あの女、絶対、悠太のこと狙ってるし!」

「そんなことないだろ……」


 先日、仕事のダンジョン探索に弟子として同行した莉子が研修として付いて来ていたリオンと再会したのだ。

 二人とも凄い顔(笑顔なんだけど、凄いのだ)でお話し合い・・・・・・されていた。雰囲気が怖すぎて途中で事務所類提出へと逃げ出したのでどういう結論になったのかは聞いていない。


「絶対あるし! あの目は絶対に悠太を狙ってる!」

「……」


 その後もリオンはちょこちょこ仕事で一緒になる。なぜかボディタッチも多い。

 莉子は「あのダンジョンで一度活性化した私の細胞が悠太に引っ張られてるんじゃない」とテキトウな推測をしていたが、どうなのやら。


「ほら、着いたぞ。ギリギリだぞ」

「はーい。ありがと、悠太。んー」

「なんだよ」

「いってらっしゃいのチューはー?」


 朝っぱらから学校の目の前に停めた車の中でチューとか、周囲の目が……

 これはたしかに保護者というより年上彼氏面なのかもしれない。

 まぁ、いいか。


「んっ……えへへへ、いってきます」

「おう。いってらっしゃい」




 ――――――――――――――――――――

 ここまでお読み頂きありがとうございます。

 悠太と莉子の物語はここで完結予定です。

 二人がもっとイチャイチャするところを沢山書きたかったのですが、二人とも常識人すぎてなかなかイチャついてくれなくて……

 最終話でようやくイチャつかせられました。


 それでは、読者の皆様に今一度、感謝を。

 拙い文章の物語にお付き合い頂き、ありがとうございました。

 毎回追いかけてくださった方々は本当にありがとうございました。

 皆さまの励ましのおかげでここまで書けました。

 読了、ありがとうございました。


 次回作は少しお時間を頂いてからまた連載開始する予定です。

 またお会いできるのを楽しみにしております。


 追伸。

 フォローと★★★がまだの方は執筆のモチベアップになります。

 よければお願い致します(*ᴗˬᴗ)⁾⁾


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