第11話   ハリボテパーティ

 一時はジゼルに非常に懐いていた、この少女を覚えているだろうか。三角帽子に、黒いマントを羽織った、いかにも魔法使いといった服装の。今にもめくれそうなほど短い黒のプリーツスカートから、すらりとした生足が伸びている。そして点々と、虫に刺されて赤くなっていた。


「痒いです〜、何か薬を持っていませんか?」


「ああ!?」


 機嫌悪そうに振り向かれて、少女は縮こまった。


「い、いえ、なんでもありません……」


「ったく、用がねえのに話しかけてくんじゃねえよ!」


「は、はいっ、すみません……」


 旅の道中は、ずっとこんな感じだった。足が痛くても、虫に刺されても、お手洗いに寄りたくても……この機嫌の悪いリーダーは、全然聞き入れてくれない。


 村で一番強いレベルとステータスの持ち主だから、この人についていけば、自分は怪我をせずに済むだろう、あわよくば、王都での買い物を楽しめる余裕だって、できるかもしれない。そんな期待を胸に、このチームに入れてもらったのだが……リーダーシップがあるように見えたのは最初だけで、実際はただただ機嫌が悪くて、気難しい人だった。


 何かあるたびに激昂するので、なだめるだけで仲間がヘトヘトになっていた。上手に機嫌を取らないと、ずっと怒り狂っているのである。


 彼を唯一大人しくさせることができた、同級生の青年は、今は別のパーティーにおり、それはこの少女が「絶対にお役に立ちますから!」と言って、同級生の青年を押しのけて自分がチームに入ったからだった。


(あーあ〜、人任せて楽できるはずの旅路が、こんな地獄になるなんて……別のチームに入ればよかったです。そうしたら、私のカース付与の炎魔法はすっごく重宝がられたのに。チヤホヤだってしてもらえたのに〜)


「おいメリーヌ!」


 雷の如く怒鳴られて、少女メリーヌは胃がキリキリしてきた。思わず、へそ出しルックな腹部を押さえてしまう。


「は、はい、どうしたんですかぁ?」


「飯だよ! 腹が減ったんだ! すぐに支度しろ」


「え? また私が準備するんですかぁ!? もうずっとじゃないですか、誰か代わってくださいよ!」


 食べ盛りの若い男四人分の料理の支度は、結構な重労働であった。メリーヌだって、このカバンの中は調理器具だけが詰まっているわけではない。長旅のせいで物資も足りていないのに、大食らいの彼らはストックも全て食べつくしてしまう。しかも彼らは一向に家事を手伝ってくれず、食料が尽きても魚や肉を取ってくるのは、メリーヌの仕事とされていた。


 おまけに、不味いだの遅いだの、怒鳴られてばかり。メリーヌはもう限界だった。


「私だって疲れたんです、休ませてください! 夜の火の番だって、いつも私じゃないですか!」


「しょうがねえだろ、お前しか炎の魔法が使えねえんだから」


「火の番は誰だってできるでしょ!? 私もう嫌です! 村に帰ります!」


 目にいっぱい涙を浮かべ、半泣きになりながら本気で元来た道を戻ろうとするメリーヌ。空腹で機嫌の悪いリーダーが追いかけてきて、メリーヌの胸倉を掴んで持ち上げてきた。


「お前がどうしても俺たちのパーティーに入りたいって頼んできたんだろうが!! 家事全部やるって約束だっただろ! なのに初日からブーブー文句言いやがって!」


「いやあああ!! ジゼルお姉様助けてー!!」


 地面に放り投げられるメリーヌ。そこへ、助け起こしてくれるでもなく、ヘラヘラしながらパーティメンバーが駆けつけてきた。


「まあまあまあメリーヌちゃ〜ん、機嫌直してよ、ね? 俺たちじゃ美味しいご飯が作れないんだよ。家事とか全部、母ちゃん任せだったからさ〜」


 ヘラヘラとおだてられて、メリーヌはわなわなと身を震わせながらも、王都に着くまでの辛抱であると、自分を励まして夕飯の支度に取り掛かった。大きなリュックサックの口を広げて、ストックを確認すると、案の定というか、空っぽの容器がコロコロと。


 いくら作り置きしても、いつの間にやら食べられてしまう。


(ぐぬぬぬ、せっかくライバルのいない男ばかりの強いパーティーに入って、チヤホヤされる作戦が〜! こんなことなら、家事を分担できるしっかり者や、丸投げしても断れなさそうな大人しい女の子でも引き入れとけばよかったー!)


 チヤホヤされるために、わざと露出の高い格好をしてきたけれど、若くてみずみずしい素肌は虫に刺されまくりで、リーダーに訴えても薬すらもらえない。しかも野宿のテントは粗末な作りで、着替えなどの際には互いの目が気になって仕方がない。


(ハァ、ジゼルお姉様が一緒だったらなぁ……お姉様は率先していろんな仕事をやりたがる性分だから、丸投げしても怒らないし、なにより女同士で気楽だし〜!)


 食器類に汚れがないか確認してから、さっそく野営キッチン開始。こういうのも、仲間同士でワイワイやるのが楽しいのに、いざ全員分しかも大人数でよく食べる人たちの毎食となると、ただの拷問と化す。食品の揃った台所でも大変なのに、物が少ない野営なのである。


 おまけに、食材はメリーヌだけで雑木林に入って、調達するという……。


 付き添いもなく、露出の高い格好の小柄な少女が一人、雑木林へと入ってゆく……。獣を狩りにだ。


(今更なに考えてるんだろう、私……。このパーティのリーダーに気に入られるために、ひたすらお姉様の悪口を言い合って盛り上がったんですもの、それを今更、あなたよりお姉様の方がマシですなんて言ったら、絶対殴られますよね……)


 リーダーをなだめてばかりの、腰巾着達から聞いた話では、リーダーは母親や妹にも平気で手をあげる暴力男らしい。真偽の程を我が身で確かめる気は起きなかった。多分、本当の話だと思うから。


(リーダーをなだめたかったら、狩りを手伝ってくれればいいのに。それは絶対にやらないんですよねぇ、あの人たち……)


 簡易テントに座り込んで、無駄話にふけ込んでいる野郎どもの声を背に、メリーヌはどんどんと奥深くへ、入り込んでいった。虫に刺されながら。


「えーい! 連続・緋蓮ファイアー!」


 痒みによるイライラを、枝葉に留まって歌う小鳥や、たまたま足元を通り過ぎた兎を巣穴ごと焼き倒して、いくつも回収した。


「まだまだー!! うおらぁー!!」


 メリーヌが魔法を放つ際に使っているのは、道中で拾ったちょうど良さそうな木の枝だった。指先で炎を出すと熱いので、適当な木の枝が身代わりになって焦げてくれるから助かっている。


「よし、ざっとこんなもんでしょう。今度の食事も、量が少ないだの、支度が遅いだの、自分好みの味付けじゃないだの、文句ばっかり言われるんでしょうけどぉ……私の境遇って、あんまりにも可哀想じゃありませんか〜?」


 次は、気が滅入る料理の支度が待っている。動物たちを捌くのも、内臓を取り出すのも、全部メリーヌの仕事であった……。


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