コンビニバイトの少女

 普通だ。私以外の全てが特別で、私だけが普通だった。私の結果は、いつだってそこそこ止まりだ。底まで行ったことはないし、そこまでトップに上り詰めたこともない。

 私にも一応特技らしきものはあって、それは歌うことだった。歌うことは好きだ。

 しかし、多分それは、歌が好きなのではなく、みんなが褒めてくれるからなのだと最近気がついた。

 昔、というか中学生の頃、「ユウナ」と言う名前で、YouTubeに曲のカバーをした動画をあげていた。あの頃は自分の歌声に自信を持っていた。今思うと死にたいくらい恥ずかしいし、数年経った今では自分より上手い人がいることを知っている。その私は、努力をせずともできる人がいることを知らなかった。

 その動画では、流行に関わらず好きなバンドや歌手の曲を歌った。とても楽しかったし、やはりみんな褒めてくれた。

 今では、友達とカラオケに行っても、流行りの曲しか歌わなくなった。みんな褒めてくれたけど、その褒め言葉を正面から受け止められなかった。冷静な今でも、あの言葉はお世辞なのだろうと思う。そんな風に、私の特技は鮮やかに色褪せていった。

 

 ある日、大好きだったバンドのボーカルが私たちを置いて死んだ。トラックに跳ねられて死んだらしい。この際だからと、自分に刃物を向けてみた。すごく怖かった。情けなく刃物をしまうと、私は己の臆病に押し潰されそうになった。よりいっそう死にたくなった。それから一年経った今でも、こうして夜の散歩に赴くくらいには、酷いことに生きている。

 散歩といっても、それは校則違反の下の散歩だ。塾が終わっても、家に帰りたいと思わなかった。下を見ると、アスファルトの上に荒く細かい石が転がっているのがよく見える。電線の上に鳥がいる。そういえば、あの鳥も生きているのか。空には星が見えないが、月が明るくて綺麗だった。月が明るいと、その光に巻き込まれて他の星の光が見にくくなってしまうのかな。

 ぼうっと月を見ていたので、前から人が来ることに直前まで気が付かなかった。よく見ると、それは私が通う高校の教師である島谷雄一だった。しかも生徒指導の主任だ。しかし、ぐるぐると後悔で渦巻いている私を、彼は素通りした。よく見ると、人間とは思えない怒りに包まれているように見えた。一体、先生に何が起きたのだろうか。

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