五人の悪役令嬢達は早急な婚約破棄を切望する

ののぎ のえる

第1話・まずは婚約破棄を叩きつけてやりますわ!

ここはエブルヘイム王国にある王族や貴族の子息・令嬢達が通う学園。

その学園の中央にある大きな噴水が置かれた中庭では一人の愛らしい容姿の少女と、それはそれは見目麗しい高貴な身分を五人の男性陣が優雅にお茶会を開き、楽しそうに会話を繰り広げている。

五人の男性陣は揃いも揃って、桃色の髪に菫色の瞳の可憐で優しげな風貌を持った美少女に夢中になっている様子で、その光景を遠巻きに見ている生徒達はヒソヒソと眉をひそめて陰口を叩いていた。


「殿下達ったら、またあの男爵令嬢とお話なさっているわ」

「本当にどういうおつもりなのかしら?アレスティン様もユーリウス様も。あんな身分の低いご令嬢にうつつを抜かされて」

「見ていて余りいい気はしないよな。放置されている婚約者のご令嬢方が余りにも不憫だ」


あからさまにいい印象を持たれていないのも無理はないだろう。

一人の少女に夢中になっている五人が五人とも、学園に入学する以前から婚約者である令嬢がそれぞれ存在しているのに彼女達を放置しているのだから。

そして、その五人のご令嬢方は、この状況をどう見ているのかというと。




「あらあら、丁度いい具合に馬鹿面さげて集まってくださっていますわね」

「あら、リシャロッテお姉様。仮にも第一王子と第三王子に向かって馬鹿面なんて!馬と鹿に失礼ですわ!」

「まあ、そうでしたわね。私が間違っていましたわ、レティシア。彼らより厩舎にいる馬達の方がずっと賢くて立派ですものね」

「ええ。その通りですわリシャロッテお姉様」

「ですが、これは私達にとっても願ってもない好機でございましょう?リシャロッテ様、レティシア様」


二人の会話に入るように残り三人のうちの一人の令嬢が不敵な笑みを浮かべて告げてくる言葉に、五人の中でも一番身分が高いの出会うと思われるリシャロッテと呼ばれた美しいプラチナブロンドの髪に翡翠の瞳を持った類稀なる美貌を持った美少女の唇に大きな弧が描かれる。

それを隠すかのように手に持っていた扇子を広げて口元を覆いながら頷いた。


「ええ。その通りですわ。今日のこの日のために以前から準備を進めてきたのですもの。準備はすべて整いましたわ。これで漸く私達の悲願が達成されるとても喜ばしい記念日となることでしょう。では、皆様。参りましょうか」


リシャロッテのその言葉に残りの四人もしっかりと頷く。

そして、五人は揃って中庭へと校舎から移動すると、自らの婚約者である男性陣と彼らを虜にしている少女が談笑するテーブルへと移動する姿を、周りの生徒達が確認してざわめきを大きくした。

けれどリシャロッテ嬢はそれらを気にすることなく、テーブルの前に立つと扇子で口元を覆ったまま、驚いたように彼女達を見ている婚約者達と少女へと優雅に視線を向けてからゆっくりと口を開いた。


「御機嫌よう。アレスティン様、ユーリウス様方。それにミーユ様。今日もとても楽しくお過ごしのようでなによりですわね。ですがお茶会を開かれるのでしたら私達にもお声がけくださっても宜しかったのではなくて?」

「リ、リシャロッテ様!ち、違うんです!これは、私が少し失敗してしまって元気がなかったのをアレス様が気にかけてくださって、元気づけてくださるためにご友人にお声がけいただいて開いていただいただけで…!」


他に他意はないのだと弁明するように声をあげる、ミーユと呼ばれた可憐な美少女の言葉にリシャロッテは微かに右眉を跳ね上げさせた。


(アレス様、ね。婚約者でもなんでもないただの男爵令嬢が、婚約者である私の前で堂々と第一王子である人物の名前を愛称で呼ぶことの意味を全く分かっていないなんて。どういった教育を受けてきたのやら。それに、それを咎めもしないなんて、ね)


ちらりと視線を向けた先にいる彼女の婚約者はばつが悪そうに視線を逸らすだけで、返事を返そうともしない。

その姿に一つ小さく嘆息したのち、自分よりもミーユ嬢の言葉に過敏に反応した従妹のレティシアが前に出ようとするのをそっと片手で抑えながら優雅な笑みを浮かべて首を横に振った。


「いいえ、ミーユ嬢。そんなに弁解なさらなくても結構よ。だって、私達、貴方達を糾弾しに来たわけでも、貴方達の邪魔をしに来たわけでもありませんもの。ただ、大事なお話がありましたから、こうしてお時間を頂戴しにまいりましたの」

「大事な話、ですか?」

「ええ。ミーユ様にではなくアレスティン様達に、ですけれども。そんなにお時間はとらせませんので、今少しのお時間を頂戴しても宜しいですか?」


そう問いかけたのは、ミーユ嬢にではなく、未だ視線すら合わせようとしない婚約者である第一王子のアレスティンに向かって。

アレスティンはやはりばつが悪そうな様子を見せながらも漸く、リシャロッテ嬢の方へと仕方がなさそうに視線を向けて小さく頷く。

あくまで渋々と言った様子を見せていることに対しては気にすることもなく、リシャロッテ嬢は有り難うございますと一礼すると早速とばかりに再び口を開いた。


「お時間を頂戴し過ぎるのも申し訳ありませんので、単刀直入に申し上げさせていただきますわね。私、リシャロッテ・アーベルハイト並びにレティシア・ランゼル、イリーナ・エルフィン、ローザリア・ミルジュ、ミレディア・アルヴァン五名は、今この場を持って貴方がたとの婚約を破棄いたしますことを宣言させていただきますわ!」


堂々と発せられたその言葉に、彼女達五人以外の周りの空気が瞬時に氷ついたかのように止まったのが感じられる。

そして、その数十秒後、盛大な驚きの声が周りにいた野次馬達の口から中庭中に広がったのは、言うまでもない事実となったはず。

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