回帰者は空を見上げず下を見る
モノクロ
第1章 その男、回帰する
第1話 強くてニューゲーム。ただしヘルモード縛りみたいな?
水と大地の惑星である
星歴2025年4月1日、全世界で同時に天災と呼ぶのが相応しい大地震が起こり、世界各国で人口の2割が失われるのと同時に地中から石造りの塔が出現した。
その塔は外から傷一つ付けることができず、地星に現存する物質ではない特殊な石で構成されることがわかった。
各国で軍隊が塔の調査をするべく中に進入したところ、塔の中にはフィクションの中でしか存在しないはずのモンスターが発見された。
天災と表現される理由は他にもあり、世界各国で塔が出現した日に高熱に魘される者達が次々に病院に搬送された。
世界規模の被害を出したこの日が世界的に冗談が許される日だったことから、ブラックジョークデーとメディアでは取り上げられてすぐに浸透していった。
パンデミックでも起きたのかと各国の政府が頭を抱えていたら、翌日には熱を出した者達が元気になっており、目覚めた者は等しく新たな能力が開花したのだと自覚した。
能力は被る者もいれば被らない者もおり、国際連合が主導して特殊な能力をスキルと命名した。
塔ができたことによってスキルが人類に発現したならば、そのスキルを利用して塔の調査を進めるべきという声は自然に出て来るもので、あれよあれよという内に探索者制度が全世界共通で運用開始になった。
探索者制度は国家資格として各国で管理されるようになり、国が主導でスキルに応じて探索者の役割も割り振られるようになった。
例えば、【
勿論、それ以外にも広義的に考えて一纏めにできるなら、同じ役割として割り振られるケースもある。
数多くの探索者が塔に挑んだ結果、元々地星にはなかった素材が手に入ったことで、世界各国の文明が発展できるポテンシャルを秘めた一大プロジェクトとして探索者に塔の探索が推奨されるようになった。
和国に住む
和国政府が設立した探索者ギルドでは、歩のスキルが他者と被らないユニークスキルだと認定した。
【
10年後、歩は独りで塔の90階層に来ていた。
歩は【
(頼りにしてもらえるのは悪くないけど、勧誘競争を考えるとソロの方が気楽)
階層を上がるにつれて、どのパーティーも立ちはだかるモンスターやトラップのせいで次の階層に進めない問題が生じる。
その問題を解消するには、少しでも有能なスキルを持った探索者をパーティーに引き入れるのが手っ取り早い。
歩は助っ人として勧誘される方だけれど、勧誘合戦が激しくなることもあるからそれを面倒に思って単独で塔の90階層に来た。
独りなら勧誘合戦が起きずに気楽だし、今までに塔で手に入れた武器やアイテムもあれば大抵の敵はどうにか対処できる。
目の前にいる
(ここまで来るのに無傷ってのは新記録じゃね?)
90階層に歩が来た回数は10回を超えており、今日以外はいずれも助っ人として様々なパーティーに臨時で加わってやって来た。
罠が狡猾で
何かが起きた時、常に全員が同じ考えをすることなんて滅多にない。
罠やモンスターの対処で意見が割れ、それで動きが鈍ったところに追加でもう1つ何かが発生し、これ以上の探索は無理だと判断して撤収する。
ここ最近はどのパーティーでもその流れになりがちで、撤収する時に歩が無傷でいられたことはなかった。
だからこそ、歩はソロで無傷のままボス部屋に来れたのは新記録だと思った訳だ。
少しだけ休憩取った後、歩はボス部屋の扉を開いてその中に入る。
塔はその階層毎にテーマがあって内装も違うのだが、90階層は古代遺跡と呼ぶべき内装になっている。
それはボス部屋の中も変わらず、歩の正面にはボスモンスターが待機していた。
ボスモンスターの外見だが、華美な装備を身に着けた骸骨賢者と呼ぶべきものだ。
(リッチよりもその上。エルダーリッチと呼ぶことにしよう)
探索者が新しいモンスターを見つけた時、探索者ギルドに報告することが義務付けられている。
その際にモンスターの命名権は第一発見者にあるとギルドの規則に記されているから、歩も探索者ギルドの情報にもなかった目の前の敵をエルダーリッチと命名した。
リッチ等の魔法を使う敵は、歩にとってあまり相性が良くない。
それは魔法が発動する前に攻撃できれば戦いになるけれど、遠距離戦を仕掛けられた時に攻撃手段がなくなった途端に積むのだ。
エルダーリッチは歩に対し、炎の弾丸を連射して弾幕を張る。
(弾幕とは厄介だな。避けられるものだけ避けよう)
歩は塔の内部で手に入れた素材を使い、魔法も斬れる刀を作ってもらった。
今もそれを装備しており、自分の移動速度では躱し切れないものだけ刀だ斬っていく。
そうだとしても、数の暴力はなかなかどうして厄介であり、歩はエルダーリッチの狙い通りの位置に誘導されてしまう。
足元が光った瞬間、歩は嫌な予感がして強引にバックステップで後ろに下がった。
光った位置には地雷が仕掛けられており、歩は爆風に吹き飛ばされてボス部屋の入口付近の壁にぶつかった。
「痛っ…」
壁と衝突した痛みを黙って堪えることができず、歩は思わず口を開いてしまう。
エルダーリッチは壁に衝突した歩を狙い撃つように、今度は氷の槍を連射していく。
「冗談じゃないぞこれ!」
「ぐっ、やっぱソロで来るもんじゃなかったか?」
後悔してももう遅く、歩の目の前には氷の槍が迫っていて歩はなんとか転がってそれを避けるが、転んだ先にも地雷が仕掛けられていて足場が光り出した。
(ジ・エンドだわ俺)
そう思った瞬間、歩の左手首に巻いていた腕時計が光り始める。
その腕時計は塔の内部で見つけたアイテムであり、探索者ギルドで鑑定したら回帰時計?という結果が出た。
鑑定結果によれば、ただの回帰時計ではなく回帰時計?という疑問符もセットだ。
何度やっても同じ結果が出て、持ち主が本当に困った時に持ち主が経験した全てを過去に持ち帰ることができるらしいが、今まで起きたどんなピンチでも回帰時計?が動くことはなかった。
それが今こうして作動したということは、歩が絶体絶命のピンチにいるからこの時以外にベストタイミングはないと回帰時計?が判断したのだろう。
足元で地雷が爆発するよりも先に、回帰時計?が作動して歩の体がボス部屋の中から消える。
時間を遡っているからなのか、歩の周囲の景色が様々な時計の映る亜空間になる。
(これが回帰か。一体どこまで回帰するのやら)
命の危険は脱せられたとわかったから、歩は呑気にそんなことを考えていた。
ところが、そんな歩の前に誰か近づいて来る。
歩がこの空間で流れに身を任せるしかないのに対し、歩に近づいて来る者は自らの意思で動けているようだ。
肉眼ではっきり見えるようになった時、歩はそれが白を基調とした法衣に身を包み、口元を高級感のあるマスクで覆って犬耳のような髪飾りをつけた女性だとわかった。
「危ないところでしたね、
「誰だ? どうして俺の名前を知ってる?」
「私は貴方の命を救った回帰時計の作成者です。名前は訳あってまだ教えられません。私は回帰時計を通じ、貴方のことを全て把握しています」
「ストーカーに命を救われたってこと?」
女性がサラッと歩をストーカーしていると言ったため、歩は女性に対して素直に感謝できなくなった。
微妙な表情になる歩に対し女性も焦る。
「ストーカーではありませんが証明している時間もありません。一歩、貴方は私に命を救ってもらった借りがあります。だから、過去に戻ったら私に力を貸しなさい」
「借りを返せって言うなら返すけど、あくまで俺にできる範囲だ」
歩は人並みに義理堅いから、借りがあるなら返せる範囲で返すぐらいの感覚の持ち主である。
目の前の女性が無理難題を言わない限り、応じる度量はある。
「貴方に頼みたいことは2つです。1つ目は塔の攻略。今の貴方の実力ならば問題ないので塔に隠された秘密に挑めるよう制限をアンロックしました。2つ目は回帰後にマイナー武器だけを使ってマイナー武器なんて言われないようにして下さい。私がマイナー武器なんてなくなったと判断するまで、貴方の【
「強くてニューゲーム。ただしヘルモード縛りみたいな?」
「大体合っています。時間がなくて説明が雑になりましたが、私は貴方に期待していますよ」
女性の体が眩しく光り、空間を白く染めたことで歩もその光に飲み込まれた。
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