第12話

 第12話.

 銀平警察署刑事2班は会議室に集まった。昨日亀尾に行ってきた甲斐があった。イ・ウチャン巡査部長はチーム員に亀尾で得た情報を話し、防犯カメラの映像も見せた。ボールペンを服の裾で拭き取って元に戻すシーンは皆の視線を集中させた。

 一方、死亡保険金を受け取ったなら死亡確認書もあるはずだ。チョ・ビョンゴル警部補はチーム員にチョ・エソンの死亡確認書を調べさせた。刑事2班は会議を終え、警察署の近くにあるタラチゲの店に行って一緒に食事をした。事務所に戻り、各自の担当業務を行う中、チーム員の一人がチョ・ビョンゴル警部補に報告した。

「チョチーム長、チョ・エソンの死亡確認書を確認しました。」

「うん、そうか。死因はどうなっている?」

「病死です。」

「病死? 聞いた限りでは健康そうな人がなんで突然病死なんだ。何かおかしいな。 まさか死亡保険金を貰うために母親が殺したんじゃないだろうな? ともかく病名は何だ?」

「心臓発作で急死と書いてあります。」

「なんてこった。心臓発作って、唐突だな。 死亡確認書を発行してくれた病院はどこだ?」

「地方にあります。慶尚北道・聞慶にある'聞慶大学病院'です。」

「昨日亀尾に行ってきたばかりだが、また遠くに行かないといけないな。今すぐ準備をしないとな。近くのモーテルに泊まって、翌朝病院に行くことにする。 その病院にチョ・エソンの死亡確認書の件で俺たちが行くことを連絡しておいてくれ」。

「はい。」

「残りの君たちはソウルに残って業務サポートをして、俺とイ巡査部長で行こう。」

 2日連続で慶尚北道まで車で行くのは流石に疲れるので、今回は高速バスで行くことにした。いつ突然地方に出張になるか分からない刑事チームの仕事なので、着替えの下着と靴下、洗面用具は事務所に置いてあった。

 チョ・ビョンゴル警部補とイ・ウチャン巡査部長は、少しでも疲れを取るためにサウナに行ってから聞慶に向かうことにした。インターネットでチケットを予約し、2人の警察官はサウナに入った。

「こうなることを知っていたら資料だけソウルに送って、亀尾からすぐに聞慶に向かえばよかったですね。」

「そうだな。面倒なことになったな。それはそうとたまにサウナに行くと体に大きく絵を描いている奴らがいるだろう?」

「小さく描くのはファッションとして見れますが、最近はヤクザでもないのにデカいタトゥーを入れてる奴らもいますよね。 あいつらはそれがカッコイイと思ってるんでしょうね。」

「若くて血気盛んな時だけだろ。年をとって老人になったときは、恥ずかしくて夏に半袖も着れないだろうな。」

「私はとりあえず冷湯に入るので10分後にサウナで会いましょう。」

「分かった。俺は冷湯は冷たすぎて入れないよ」。

 繁華街にあるサウナだからか、昼間から人が多かった。警察署の職員には割引が適用されるサウナだ。お風呂の中で同僚の警察官に会うこともしばしばあった。江南(カンナム)ターミナルまでは警察署から遠いので近くの花井(ファジョン)市外バスターミナルで高速バスのチケットを購入した。

 サウナで疲れを癒した後、2人の警察官はバスに乗った。バスに乗るとサウナから出たせいかすぐにぐっすり眠りについた。熟睡しすぎたためか2人はいびきをかき、周りに座っていた乗客は眉をひそめていた。4時間かけて聞慶に到着した。タクシーを乗り継いで聞慶大学病院近くのモーテルで一晩寝た。

 翌朝、コンビニで牛乳を一杯ずつ飲みながら文慶大学病院に着いた2人の警察官は、案内窓口でチョ・エソンの死亡確認書を発行した医師を探した。しばらくすると、50代半ばと思われる体格の良い医師が来た。

「こんにちは。昨日、看護師から連絡がありました。 ソウルなのに朝早くから来られましたね」。

「昨夜到着して近くの宿に泊まって早朝に来ました。チョ・エソンさんの死亡確認書を作成された方ですよね?」

 チョ・ビョンゴル警部補は、死亡確認書に書かれた担当医師の名前と今目の前にいる医師の名札が同じであることを目で確認した。

「はい、そうです。」

 医師は2人を窓口の近くにある会議室に案内した。医師は警察官にお茶を勧めたが、チョ・ビョンゴル警部補はお茶は要らないと言い本題に入った。

「30代の元気な人がなぜ突然亡くなったんですか?」

「チョ・エソンさんは幼い頃から心臓の病歴がありました。」

「そうだったんですか。それは私たちも知りませんでした。」

「遺体はどこですか?」

「すでに火葬されたと聞いています。」

「ええっ、もう葬儀を済ませたんですか?」

「家族や親戚と全く交流もなく、来訪者もいないとのことで葬儀もせずそのまま火葬の手続きをしました。」

「いくらなんでも自分の娘が死んだというのに。 そんなに早く火葬するなんて理解できませんね。 せめて近所の人くらい呼べばいいのに。」

「亡くなった直後に病院に運ばれてきた時の状況はどうでしたか?」

「私が最初に応対したわけじゃないので、一番最初に応対した看護師を呼んできますね。」

 しばらくして40代半ばと思われる、眼鏡をかけた痩せた看護師がやってきた。今度はイ・ウチャン巡査部長が看護師に質問した。

「初めまして。チョ・エソンさんが亡くなった時、一番最初に応対した看護師の方ですね?」

「はい、そうです。」

「その時の状況を教えてください。些細なことでも構いませんので、覚えていること全て教えてください。」

「救急で運ばれてきた時、娘が心臓発作で急死したと泣き叫んで大騒ぎでした。救急車で病院に来たんですが、到着した時には既に死亡していました。娘はまだ若くてまだまだ未来があるのにどうしてこんなに早く逝ってしまったのって泣き喚いていました。当然娘が急死したのだからさぞ驚いて悲しかったでしょう。でもなんていうか、こんなこと言うのもなんですが、ちょっとオーバーすぎると言うか。その時はそんなふうに感じました。」

「そうでしたか。死亡確認書はすぐに作成されたんですか?」

「はい。病歴を見ると、幼い頃に心臓の病気で治療した履歴があったんです。 また彼女の母親が自分の娘が心臓発作で突然亡くなったと言ったんです。 家に一緒にいた時に突然そんなことがあったなんてと慌てていたんです。 医者の先生が病歴を確認し、心臓病で亡くなったと死亡診断書をすぐに記入したんです」。

「それからすぐに火葬場に向かったのですか?」

「はい。母親がすぐに火葬場を調べて翌朝すぐに火葬場へ移動しました」。

「どこの火葬場ですか?」

「聞慶ヒョジャン場です。 聞慶管内で死亡した人はほとんどその火葬場に行きます。」

 イ・ウチャン巡査部長は火葬場の名前をメモ用紙に書き、名刺を渡した。

「看護師さん、後日何かまた思い出したことがあったら連絡してください。」

「はい、そうします。」

 2人の警察官は病院を出てすぐに聞慶ターミナルに向かい、バスの切符を購入した。バスの時間まで40分の余裕があったの

 で、ターミナル内の食堂でキンパとラーメンを注文した。

「チョ・エソンが心臓病を患っているとは知りませんでしたね。しかし一連の事件は誰かによって計画的に仕組まれたような気がしませんか? 失踪、保険金、そして急死。」

「何か繋がりがあるか探すしかないな。心臓病歴のある娘を母親が殺したなら、心臓発作で急死したと言い張るのは簡単だろう。もし母親が娘を殺したとしたら、その証拠を俺たちが探さなければならない。」

「それはそうと、イ・ソクユンさんにチョ・エソンが亡くなったという話はいつしましょうか?」

「どっちにせよ知っておかなきゃだろうしな。婚約者がいなくなってから聞慶まで行ってあんなに一生懸命探して回ったんだから。 警察でも想像つかなったことを調べてたし。 イ巡査部長がソウルに着いたら電話してみてくれ。」

「はい、そうします。」

 話をしている間に注文した料理が運ばれてきた。

「キンパはソウルで食べるのと味が少し違うね。俺はここのキンパの方が好きだな。」

「そうですか?私にはよくわかりません。 キンパなんてどこも同じじゃないですか。」

「ちょっと違うよ。 イ巡査部長は味覚が鈍いなあ。」

 2人はバスに乗って再びソウルに戻った。チョ・ビョンゴル警部補はすぐに退勤し、イ・ウチャン巡査部長は警察署に戻った。刑事2班は全員退勤して誰もいなかった。イ・ウチャン巡査部長はイ・ソクユンに電話した。

「イ・ソクユンさんの携帯ですか?」

「はい、そうです。」

「銀平警察署刑事2班のイ・ウチャン巡査部長です。」

「はい。こんばんは。」

「あれからあちらからは何の連絡もなかったですよね?」

「あちらとは、どこですか?」

「婚約者のお母さんの方です。」

「はい、何の連絡もありませんでした。」

「私たちは今日聞慶にある病院に行ってきたんです。」

「そうですか。」

「いやあ、こんなこともあるものですね。 あの、えっと・・・チョ・エソンさんが亡くなったそうです。 心臓病で急死したとのことでした。 病院で調べたらチョ・エソンさんは心臓の病歴があったそうなんです。 そして死後、母親は葬式もせずにすでに火葬してしまったとのことでした。」

「え、いや、それはどういうことですか? エソンが死んだって?どこで火葬されたかご存知ですか?」

 イ・ウチャン巡査部長は急いでメモ用紙を広げました。

「聞慶にある'聞慶ヒョジャン場'という火葬場です。」

「聞慶ヒョジャン場ですね。分かりました。でもどうして突然こんなことが!」

「そうですよね。」

 イ・ウチャン巡査部長はチョ・エソンの死に疑問があるという話はイ・ソクユンにはしなかった。死亡保険金もそうだし突然のチョ・エソンの死はその母親が関係しているように思えたが、まだ警察は捜査中の段階なので証拠を確保するまでは捜査情報を漏らしてはならない。

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