チョコの味
マジンミ・ブウ
チョコの味
クラスメイトの元宮さんは高嶺の花だ。
どんなに手を伸ばしたって、届くはずがない。
それでも、彼女は誰に対しても優しい。もちろん、俺にだって。
グループに紛れながら彼女の話に相槌を打つ。その流れで、彼女のほうから俺に話を振ってくれることもある。
何気なく答えながらも、彼女の声が鼓膜を震わせるたび、胸が張り裂けそうなくらいドキドキしているのが事実だった。
端的に言えば――好きで、好きで、好きでたまらなかった。二人きりで話したことすらないけど、元宮さんの明るさと優しさに、強く惹かれていた。
◆
バレンタインデー。
この日は女子も男子も、どこかそわそわしている。
朝のホームルームが始まる前、一人の女子が俺に声をかけた。
「おはよう!」
元宮さんだった。
緊張で喉が詰まりそうになるのを抑え、できるだけ平静を装って挨拶を返す。
「はい、これ」
彼女が手を差し出す。
可愛らしく梱包された小さな箱が目の前に現れた。
「バレンタインだから。よかったら受け取って」
時が止まったようだった。
いや、実際に止まっていたのは俺の体だけだったかもしれない。
不思議そうに首をかしげる彼女に、慌てて口を開く。
「あ、ありがとう」
声が上ずったかもしれない。受け取りながら、ふと彼女の手に触れてみようかという考えがよぎったが、すぐに気持ち悪い発想だと打ち消した。
ただ普通に受け取る。
眠たい朝が吹き飛ぶような出来事だった。
◆
昼休み。
元宮さんは仲の良い女子たちと食堂へ向かい、俺は大量に出された課題をこなしていた。
ふと、後ろの席から女子たちの会話が耳に入る。
「元宮さん、みんなにはビターチョコを配ってるらしいんだけど」
「一つだけ、ラズベリーソース入りがあるんだって」
「それって本命じゃん!」
ボールペンが止まった。
◆
放課後。
帰宅するなり、俺は急いで包みを開けた。
中には、一粒のチョコ。
そっと指でつまみ、ゆっくりと口に運ぶ。砕けたチョコが舌の上でじんわりと溶けていく。
……良かった。
俺、苦いのが好きなんだよね。
チョコの味 マジンミ・ブウ @men_in_black
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