第10話

春が深まり、暖かな陽気が続くある日、美美は自宅の庭で小さな鉢植えを見つめていた。それは拓未が去年の冬に「どうしてもやってみたい」と言って、一緒に購入した花の種だった。美美はどこか心配しながらも、拓未が育てている植物を見守り続けていた。

「これ、まだ咲かないかな。」美美はふと呟き、鉢植えの葉っぱに触れた。すっかり緑が増してきて、葉が茂っているものの、花が咲く気配はなかなか感じられなかった。

拓未はその様子を見て笑いながら近づいた。「美美、焦らなくても大丈夫だよ。植物にもタイミングがあるから、無理に急がせるものじゃない。」

美美は軽く笑いながら答えた。「でも、どうしても気になっちゃって。去年、拓未と一緒に選んだものだから、どうしても成功させたかったんだ。」

拓未はその言葉を聞いて、少しだけ真剣な表情を浮かべた。「うん、僕も。でも、君が一緒に育ててくれたからこそ、あの時からずっと大切に思ってる。だから、焦らなくてもいいんだよ。」

美美はその言葉を胸に、再び鉢植えを見つめる。ふと目を凝らすと、葉の間にほんの小さな蕾が顔を出しているのに気づいた。

「拓未!見て!蕾ができてる!」美美の声が高くなり、拓未もその知らせにすぐに駆け寄った。

「本当に、蕾が!」拓未は驚きと喜びを感じながら、それを見つめた。

「やったね!」美美は手を合わせて喜びのポーズをとり、「ついに、私たちの努力が実ったんだ!」と笑顔で言った。

拓未はその笑顔を見つめながら、ふと心の中で何かが温かくなるのを感じた。美美と一緒にいることが、どんな時も力を与えてくれる。そして、この小さな花が開く瞬間は、二人にとってどんな困難も乗り越えられるという証のように思えた。

数日後、待ちに待った花が開いた。小さなピンク色の花が、朝日の中でそっと顔を出している。その瞬間、美美は拓未の腕にしがみつくようにして言った。

「拓未、見て!咲いたよ、私たちの花!」

拓未はその瞬間をしっかりと見届け、そして美美の肩を抱き寄せた。「本当に、咲いたね。僕たちが育てたものが、こうして美しく花開いたんだ。」

美美は涙を浮かべながら、その花を見つめていた。「本当に、嬉しい。こんなに小さなことだけど、私たちの努力が実ったって感じがする。」

拓未は美美の顔を見つめ、しばらく無言でその瞬間を大切に感じていた。次第に、美美の顔に微笑みが広がり、拓未もその笑顔を見て、自然と心が温かくなるのを感じた。

「美美、僕たちが一緒にやったこと、すべてがこの花のように実を結ぶと思うよ。」拓未は優しく言った。

美美は拓未を見つめて、しばらく黙っていた。すると、ふと彼女は顔を上げて言った。「拓未、私たちが育てた花が咲いたみたいに、私たちの未来もきっと花開くんだね。」

拓未はその言葉に、強く頷いた。「もちろんだよ、美美。君と一緒にいることで、何でも乗り越えられる気がする。」

二人はその小さな花を囲みながら、未来に向けて大きな希望を胸に抱いた。努力と愛が実を結び、これからも二人で素晴らしい未来を作っていくことを、心から信じていた。


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