第12話 日曜会

しかし優秀な護衛を寄越してくれるとは全く有難い。


流暢な日本語を話す、しかし狼のような蒼い眼光を放つ彼らが言うには、元々日本国内で活動する米英軍のTire1特殊部隊だったのだそうだ。


現役時は日本国軍の特殊部隊と連携し、旧東側諸国からやってくる破壊工作員を“処理”して回っていたとのこと。


ボス・・はこれからどうなさるおつもりで?……お望みなら亡命をお手伝いできますよ。韓国か東南アジアがオススメですが……心配ならユーロでも合衆国ステーツでも」


「いや。遠慮する……私は逃げない。逃げた所で奴らは諦めないだろう」


「私は戦う。最後まできっと戦う……だから私からも、謝礼はたっぷり出そう」


「OK……」


覆面の2人がお互いの顔を見合わしてからゆっくり頷き、残りの3人の兵隊らに合図をして部屋から出させた。


「閣下。彼らは優秀な兵士ですが……あの3人には帰りを待つ小さい子供がいる。有栖ヶ丘様の護衛の任務に回させて頂きます」


戦い・・に連れて行くのならば我々だけにしてください」


「分かった。それでいい。いいが、キミ達の実力を保証出来るものは何かあるかね?」

腕に巻かれた包帯を擦りながら兵隊2人に問うと、2人は各々、都市迷彩に彩られたウエストポーチを漁って、複数の章を彼の目の前に差し出した。


「必要なら従軍した作戦についての書類も取り寄せますが。まぁ黒海苔・・・だらけでしょうが」


「……いや結構。よく分かった。これからよろしく頼む」


兵隊2人と握手を交わした所で、ピシャンと音を立てて襖が開く。

敷居を跨ぐとそこには大正だか明治だかの文豪のような男着物に身をやつした、しかし指輪とイヤリングとネックレス、カラフルな天然石製のブレスレットの群れをキラキラと輝かせている同年代の青年が立っている。


「楼院侯。……ここまでよくぞ辿り着いたものよな」


「有栖公。お久しぶりです。それと私めを匿ってくださったことを誠に────」

松雪は三つ指をつき、堂の入った礼をして彼を出迎えた。


楼院ろうのいん侯爵家と有栖ヶ丘ありすがおか公爵家の付き合いは、遡ると鎌倉の公家時代にまで至る。

どちらも藤原北家の流れを汲む家であり、江戸時代からは半ば同盟関係を結んでいるような状態であった。


「くどいくどい。それにその呼び名はもういいって言っとるだろ」


「……凛乃介さん。早速だが本題に移らせてもらいます」


「積もる話もあるがまぁ仕方ないわな。で、何じゃ」


「今すぐに“日曜会”を招集して欲しい。今後の事について話さねばならない事が幾つかある」


「なるほど。なるほど」

Instagramに載っていたようにカリブ海で焼いてきたのか、いつもより色黒気味。その彼は眉間に皺を寄せて松雪の目を見つめる。


「標的は私だけじゃない。貴方も分かっているはずだ。いくら奴らとてたかが華族1人の為に国家反逆罪に近い愚行をやるとは思えんです」


「…………」


「九分九厘、帝賛派・・・が裏で糸を引いている……貴方もそう推理したんじゃないですか?」


「……やっぱそうなるか」

公爵位を持ち、有栖ヶ丘派華族が集う“日曜会”を主催する青年華族は天を仰ぎ見て、溜息をつく。


これから巻き起こるであろう重大事案への懸念。

それ故に彼は苦悩の表情を浮かばせながら目頭を揉む羽目になった。



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