第9話 親衛隊
大体この連中がどういう黒幕の下についているのか、という事ぐらいは分かる。
地面に散らばるチラシたちと、この狂信的な戦術を使う暴徒群。
(お前もか。お前も関わってるのか)
ドローン搭載の高画質カメラ越しの、拳銃をこめかみに当てているという、任侠映画の一幕の様な絵面。
それを暗い部屋で一人、ブルーライトを忙しなく放つ複数のモニターを見つめている女がいた。
ポスターやチラシに刻まれていた通り、、ベレー帽とカラフルに染められた髪色の女。
日本アカデミー助演女優最優秀賞を獲得した、カリスマ的文化人が彼女である。
小説を書けば飛ぶように売れ、タレントとしてTVに出れば爆笑を生み、歌を歌えば耳目を集め、絵を描けば有識者の絶賛を呼び、デザインをすれば公庁が即採用し、動画投稿すれば視聴回数が異常を疑わざるを得ないほどうなぎ登りする。
そんな彼女が無期限の全創作活動休止を宣言したのはつい数週間ほど前のことであったと思う。
ちょうど、私が日本政府へ、事実上の“政略結婚の拒否宣言”と“改易希望”の手紙を送付した頃である──────。
(おおかた、私を拉致してきたら活動復帰するとでも吹いてるんだろう……ヤツの“親衛隊”なら、その位で簡単に動く)
彼女は学生時代からそういう気質が見えた。
女子校の王子というものはきっとこんな風なんだろうなという具合に凛とした顔に、女子にしては少し低い声、そこから想像もつかない程に態度は軟らかく、人に優しく、裏表が無く、ユーモアに満ちている。
────そして何より、そのギャップや人懐こい自らの性格を利用した人心掌握が何よりも得意で、常に男女問わず群衆を侍らせていた。
それが親衛隊。
睨み合いの最中、救急車のサイレン音が近づくのを察知した松雪はとりあえずホッと息をついて、少しだけ、致命的な油断をして、銃を下ろしてしまった。
インフルエンザの予防接種時のような、ささやかで細かいしかし尖った痛みが、彼の左腕に現れる。
左前腕を見てみれば、黒い注射器のような物体が突き刺さっていた。
それはひとりでに機械が作動しているようであり、何か液体を注入しに動いている模様である。
(何で)
(なんでこんな目に遭うんだ)
(私はただ……ただみんなと、友人という関係を維持したかっただけで)
(侯爵家に産まれたからか!?我が父母の元に産まれたからこんな目に遭うのか!?)
それが睡眠薬かアルコールかはたまた麻酔かそういう系統だと察した彼は拳銃の銃口を、
爆音と、火傷のような熱さと痛みが彼を襲う。
血がドバドバと溢れ出し、恐らく、薬剤も幾らかは流れ出たはずだと推定した。
「簡単に我が身に出来ると思うなよ……腐っても帝国貴族の末裔だぜ」
彼にとって精一杯の虚勢、そして自棄でもあった。
誰があんなイカれ女共の
やっと腹を決めれた。
だが簡単には死んでもやらない。
死人に口なし。
私が冥府に渡れば我が名と家名を永劫利用するに決まっている。
「目が醒めたわ。一介の民間人として逃げに逃げ続ける気だったけど」
もういい。
最早やることは一つ。
「
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