おもい、はこぶ。

美嘉

1

夏真っ盛り。人々が汗ばむ車内で、雪のような真っ白な肌に目を惹かれた。

息をのむような一目惚れだった。


制服姿のキミは毎日同じ時間の電車に乗り、私より三つ前の駅で降りた。

端正な横顔。猫のように柔らかそうな、少し茶色っぽい髪に、時折ついている寝ぐせ。

始発駅で乗る私は、決まって端っこの席に座り、本を読むふりをしてキミの姿を見ていた。

名前も知らない。年も知らない。住んでいる場所はおろか、好きな人がいるのかさえ。


ただ見ているだけで、幸せだった。

秋が訪れた頃、混雑した車内。友達とはぐれたキミは偶然にも私の前に立った。

心臓が跳ね上がる。キミの息遣いがすぐそこにある気がして。

吊革に手をかけ、前のめりになるキミの制服のネクタイが垂れ、私の額に触れた。


キミは気付いていない。このまま時間が止まればいいのにと思う。

下りる駅が近づいた頃、キミはようやくネクタイが垂れていることに気づき、小さく頭を下げたあと、私が読んでいる本を見て「それ、俺も好き」といたずらに笑った。

初めて近くで声を聴いた。優しい声。見ているだけでいいと思っていた。こんな愛おしさ、知りたくなかった。

欲張りになってしまう。その好きがいつか…私に向けられたのなら。

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