第16話 反撃の狼煙(のろし)
「……よくわかりましたね。かなり精密に化けたつもりなんですが、ね」
悔しさを滲ませた言葉を話す女魔族。けれど、声は完全に男性のものになっていた。それもつかぬまのこと。
姿形までセツナが初めて出会った魔族の姿を取る。
「まあ何となく。俺から見るとニオイが違ってたんでな」
「自分の場合は氣が最初にお前と会った時と同じだったから」
「また貴方たちを甘くみていたようですね……」
言葉の端に、どこか悔しさを匂わせるプリウス。
だが、まだ余裕があった。自分というものに絶対の自負を持っているから。
甲型魔族の地位にいる自分が人間如きに負けることはない、と。
「まさか貴方たちが希少な国宝級魔道具をお持ちだとは思ってもみませんでした。お陰で計画が狂いまくりです。ですが、ここまで。通信遮断に加えて、転移阻害も組み込んだ結界を敷きました。あなた方はここで駆逐させていただきます」
プリウスから強烈な魔氣が発せられる。以前、セツナがあった時とはまるで違う。これが甲型魔族の力。セツナがそう思っていると、
「随分と余裕無くしているじゃない、プリウス。見下していた人間にだしぬかれて、ようやく本気とは
クロエの檄が飛び、セツナを含めて戦闘体制に入る。
それを見て、プリウスはフッと薄笑いを浮かべた。
「バーシアと同列に思われるのは心外ですな。既にあなた方の戦闘力は見極めている。すぐにあの世に送って差し上げます。そこでお仲間やご両親と会うお手伝いをさせていただきましょう」
「アストライア王国を陥落させようというの!? そんな事――」
クロエが言葉を発しようとしたが、急に口をつぐんだ。それは、えも知れぬ悪寒を感じたからだ。
木々震え、大地には亀裂が奔る。その原因はセツナから放たれる怒氣だった。
「ふざけるなよ、魔族風情が。すぐに片付かせてアストライア国に向かわせてもらう!」
(こ、怖い。セツナが怒っていることを初めて見る。体の悪寒が止まらない!)
クロエは率直に思った。
「人間風情が何ができる。片付蹴られるのはお前――」
「――
プリウスは最後まで言葉を発する事ができなかった。プリウスの言葉は文字通り、己自身に呪詛のように跳ね返ってくる。
セツナが発した力は、プリウスの半身を吹き飛ばしたのだから。
「クォオオ……!」
苦悶の表情と言葉を発するプリウス。かなりのダメージを負ったのが分かる。言葉も今までの口調から一転。獣のような声は精神世界のボディに深いダメージを負っていることを如実に表していた。耐え難い苦痛の中、プリウスは最後の力で転移する。
魔族に対する知識が深いクロエは、周囲に敷かれていた結界が解かれたことを悟った。
「……やったのですか?」
シェリルは声を振るわせながら言葉を何とか口にする。セツナの怒氣。それに加えて甲型魔族を一瞬で撤退に追い込むセツナの力。その現実を目の当たりにして。
「(まあ、無理はないわよね。一度見ている私でさえ怖いもの)いえ、スピリチュアル・サイドに逃げたみたい。でも生半可なダメージじゃない、復活するにも相当な時間を要するわ。当分私たちの前には現れないでしょう」
「クロエちゃん」
「分かっているわ、セツナ。……っ! 急いでセツナを送るわ。残りの雑魚は私たちで十分。行って!」
クロエは転移魔法の呪文を唱える。するとセツナの姿が光に覆われ姿を消す。
「プリウスもバカよね。普段温厚な人を怒らせるとこうなるのよ。丙型魔族の置き土産なんて悪あがきにもいいところだわ。ほら、いつまでビビってんの、シェリルにルシード!」
クロエの周りを囲むように丙型魔族の群れがあった。シグルドは既に臨戦体制をとっている。だが、セツナの魔法を目の当たりにした二人はそうでなかった。だからこそ、檄を飛ばしのだ。
それを受け、シェルリルとルシードも戦闘体制をとる。
「クロエさんはセツナさんのあの魔法を知っていたんですか?」
「えぇ、一ヶ月前に私の国に『
「
そういうルシードも立ち直り、魔法の詠唱を始めようとする。
「あっちの方はセツナで十分。というか、丙型魔族がいるこの展開の中、この国を見捨てたら、セツナはもっと怒るからね。きちんと綺麗に掃除してから私たちも向かいましょう」
クロエの言葉を皮切りに、丙型魔族との戦闘が始まろうとしている。
四人には、先ほどまでの怯えはない。丙型魔族とはいえデビルとは比べ物にならないのに。負ける気は微塵も起きなかった。クロエは不敵に笑みを浮かべる。
クロエはセツナに託した。甲型魔族すら一蹴できる力なら、必ず守ってくれるという確信を持っていたからだ。
(頼んだわよ、セツナ!
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