第7話 実家ゆえの居心地の良さと恐怖

「久しぶりね~、あんまり変わってないわ」


 ここはアストライア国の王都、アヴェンタドール・シティといい、クロエの故郷の入り口、門の処に三人は来ていた。

 クロエの家は中心街にあると言うことで、其処に向かっているのだが、セツナは色々な意味で驚かされた。

 人々と行き交う先々でクロエが色々な人から声をかけられていたからだ。


(クロエちゃんは慕われているんだな、会う人々が皆んな笑顔だ)

 

 ただ、一つだけ苦笑いするとすれば、


「こうしてみると、クロエ、お前結構好かれていたんだな~」

「当たり前よ! 近所でも評判だったんだから!!」

「悪い方でか?」

「なんでそうなるの!」


 この二人クロエとシグルドの突っ込みにはついていけない事くらいか。


「まあまあ二人とも、家の方は遠いのかい?」

「ああ、もうちょっと……、ここよ、ここ!!」


 セツナの眼前に、かなり大きめの家が見えてきた。 

 商家らしく、表に『ミネルヴァ商会』と大きく書いてあった。

 ただ、


「なあ、クロエちゃん」

「ん、何?」

なんだけど、ゲストハウス?」


 そこには、セツナの世界にある、キャンプなどで滞在する為の一個のログハウスに似た建物があった。

 プレートには大きく『ヴァンティーヌ』と書いてある。


「あ、ホント! 姉ちゃん拾ってきたのかな?」

「拾って来たって……熊でも飼ってんのか? お前ん家」

「そんなことあるはずないでしょ、たぶん……だけど」


 たぶん、って恐ろしい家だなとセツナは心の内でツッコミを入れていた。


「中からは何も気配が感じられないみたいね。まあ良いわ! 家族に誰かに聞けばわかるでしょ」

「そうだな」

「それもそうだ」


♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎


「ただいま~!!」

「おお、クロエ、お帰り、どうしたんだ? 急に帰ってきて」

「ん? まあ久しぶりに帰ってみるのも悪くないかなって」

「そうか、色々あったようだな……目を見ればだいたいわかるよ。改めて、お帰り、クロエ」

「うん……ただいま、父さん」


 お父さん!? セツナの目を以てしても、若いように見えた。

 実際、見た目は20代後半から40半ばまで見える。

 仕草自体でいくつでも年は誤魔化せるだろう。


「あ~!? あんたは!!」


 突然、シグルドが叫ぶ。

 まさに今思い出したと言わんばかりに。


「あの時の釣りしてたおっさん!!」

「おお、あんときの兄ちゃんか、元気そうだな、迷いは吹っ切れたのか?」

「ああ、あんたの娘さんのおかげでね、元凶もろともすっきりしたよ」


 セツナは完全に蚊帳の外。

 置物と大して変わりない、とセツナは思うのだった。


「まあ積もる話しもあるだろう、奥に上がってくれ。そろそろアメスもペットとの散歩から帰ってくる頃だ」

「ペットって、家の真横にあったバカでかい小屋のこと?」

「ああ、後で見ればわかる。かなり有能だよ。この前も忍び込もうとした盗賊団を返り討ちにしてくれた」


 恐ろしいペットだな、とセツナは思う。

 しかも団と言うからには複数居ただろうに、と。


「まあ帰ってきたら挨拶ぐらいすると良い」

「しかし、この家に忍び込もうとする盗賊バカが居るとはね。最近できた所ね、あとで狩ってこよう」

「まあ程々にな、とりあえず上がったらどうだ? いつまでも立っているのも疲れるだろう」

「そうね」

「すまない、上がらせてもらうよ」


 セツナは身の振り方というか、自分はどう行動すればいいか戸惑っていた。

 それを察してくれたのか、クロエの父親がセツナに声をかけてくれた。


「そこの兄ちゃんも上がってくれ、どうせクロエが迷惑かけた口だろうからな」

「そんなことありません、むしろ自分の方が迷惑かけっぱなしで……」

「まあ良いから! とにかく上がってくれ」

「……わかりました、お言葉に甘えさせて頂きます」


 クロエの父の案内の元、三人はリビングにたどり着く。

 そこで、セツナは二度目の衝撃に出会う。


「お帰り、クロエ。そしてそこのお二人さん、いらっしゃい。

私がクロエの母親のフェイト・ミネルヴァといいます」


 この家はどうなっているんだ? クロエの母親といったこの女性、

どう見ても二十代半ばから三十代前半にしか見えない。

 このセカイには若返りの秘術でもあるのか、とセツナは本気で悩んだ。


「あ、どうも俺は……」


 セツナがクロエの母親に挨拶をしようとしたところ、リビングの入り口から女性の声が聞こえてきた。


「ただいまー、あら? クロエやっぱり帰ってきたのね」

「お? ちょうど良い、お二人さんこの子が私達の娘、アメスだ」

「始めまして、アメス・ミネルヴァといいます」


 このアメスといった女性、やはりクロエの姉妹だけあって顔つきが似ていた。

 百人に聞けば百人とも絶世の美人と言うだろう。

 年は20歳ぐらい、髪は腰まである赤みが入った金髪、

 しかし気配が人間とは何か違っている、とセツナは感じていた。


 この前会った魔族とは違う。どちらかというと、セツナをこのセカイに転移させたあの女神と同じ神々しさを感じた。

 物腰から見てかなり強いのを、セツナは肌で感じとる。


 余談だが、プロポーションはもの凄く良い。


♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎


「始めまして、俺はシグルド=ヴァイオレット、シグルドと呼んで下さい」

「カミシロ・セツナです、始めまして。自分もセツナと呼んで頂けると助かります」


 二人の挨拶から、クロエの父親が言葉を挟む。


「そういや~、俺も自己紹介してなかったな。俺はイーグルという、よろしく」

「よろしく、イーグルさん」

「よろしく、おっちゃん」

「おいおい、おっちゃんはよしてくれ。それにカミシロ君の方も呼び捨てでで結構だよ」

「はい、わかりました。自分のこともセツナで結構です」


 一通り自己紹介をした後、セツナは事情をある程度、話した。

 尤も、肝心の使命のことは隠した。おいそれと誰かに話していい内容ではなかったから。

 

「そうかい、そんな事が……」

「大変でしたねぇ。色々と辛かったでしょうに……」

「この世界に来て色々大変でしょうが何でもいってね! 私にできる限りのことはするわ」


 ミネルヴァ夫妻はセツナのことを慮ってくれた。

 見ず知らずの自分の事を、本当に心配してくれている。

 このセカイに来て、この家族に会えたことがセツナは嬉しかった。

 優しいご家族なんだな、と。


 一通りの自己紹介を終えると、唐突にアメスがクロエに向かって、詰問するかのように問いただす。

 

「さてクロエ、あなた旅の間に色々やったみたいね」

「ど、どの事? い、いや何の事?」


 姉の指摘に思いっきりどもるクロエ

 その様相から、「何かありました」と、白状しているのも同じ。

 と、セツナは心の中でツッコミを入れていた。


「一欠片とはいえ、魔王相手に生き残れるなんて、あなた達、相当運が良かったわよ」

「うっ……」

「その顔じゃあ、何でばれているのか、なんて考えている顔ね。実際、此処に来る前に接触があったのも把握しているわよ」

「その事について、姉ちゃんに一つ聞きたいことがあるんだけど……」

「なに?」

「その、魔族に姉ちゃんと色違いの同じ剣を持った女形の魔族がいたの、神官からは『ブルーアイズ・ソルジャー』のなんて呼ばれてたんだけど、心当たりとか聞き覚えない?」

「無いわ。それがどうかしたの?」

「とても強かったの。手も足も出ないくらいに……」


 クロエの言葉を受けて、何やら考え込むアメス。

 一拍の後、一つの提案を妹に提示する。


「あなた達、ここで修行していきなさい」

「「は?」」


 クロエとシグルドの声がハモる。


「勝てないんだったら、強くなるしかないでしょう? 私が色々と稽古つけてあげるわ」


 その言葉を聞き、顔色が真っ青になるクロエ。

 その様子をセツナは訝しむ。


「わ、わかった……」

「こちらからもお願いするよ。クロエの姉ちゃんかなり強そうだし」


 二人クロエとシグルドの言葉を受けたアメスはセツナの方を向いて言葉を発する。


「セツナ君……だったかな? あなたはどうする? あなたには私の稽古なんて必要ないみたいだし」

「そうですね……まずこの世界のことを学びながら色々な所を巡りたい。ただ、現状ではお金が全くないので一通り資金を貯める方法を探します。自分には、ので。それに、魔法というのにも興味があります。には、色々と役に立ちそうと思いました」


 セツナの言葉を受けたアメスは、しばし熟考する。セツナが語った会話に引っ掛かりを覚えたから。だが、今この場では訊くべき事ではない、と判断する。

 そして、アメスなりの結論を導き出し、セツナに言葉を返す。


「まず、この世界については私が教えてあげるわ。父さんも母さんも店で忙しいし。資金の調達も、心配しないで。セツナくんの実力を鑑みて、安定して稼げる一つの職業を紹介してあげる。私もアルバイトとして勤めている処だから安心して。拠点となる住居についても遠慮しないで、この家部屋が余ってるから。ねえ父さん」

「ああ、遠慮するな、我が家みたいに思ってくれ」


 アメスの提案に、イーグルは一にも二にも了承する


「魔法に関してはクロエから教えてもらったらいいわ、腕はこの世界でも指折りだから」

「何から何まですみません」

「良いのよ、私もあなたに興味があるから」

「まあとにかく夕食にしよう。やることは明日になってからだ」

「そうね!久々に腕の振るい甲斐があるわ!!」

「私も手伝うわ」


 こうして、アストライア国での最初の一日は終わった。

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