第2話 我が世の春-グッドマンフニッシュ

 彼女たちも高給取りの一員だ。甘い汁を舐めればもう逃げられない。彼女たちはライバルに負けまいと内心では必至だ。隙あれば、取り入っても職場を確保したい。誰しもがそう思う様になる。

 何かをしたければ偉くなれ。偉くなるためには媚を売れ。太鼓持ちと呼ばれようと。偉くなれなければ、偉い者に媚を売れ。得たいものを手に入れたければ、多少のリスクは仕方がない。一時の我慢がその後の優越感に繋がる。競争とはそうして勝ち得るものだ。売れない者や新人は人脈がない。人脈を作るには、心で泣いて笑顔で接するなど当たり前だ。媚を売るとはそういう事だ。

 人間慣れれば、馴染むものだ。正義も悪もない、仕事(餌)がなければ、綺麗ごとを言っても生きていけない。辛抱できなければ、低迷に甘んじるだけだ。芸能人の枕営業は、性接待を受ける側の割り切りがあるからギブアンドテイクが成立する。汚かろうが他人に何と言われようが、仕事を得た者が勝ちだ。活躍の場を勝ち取れなければ、スタートラインにも立てない。やった者、受け入れた者、勝ち。これがwinwinだ。餌に藤生する芸能人は、餌の前では自分を捨てるなければならない。その先に「人気」という武器を手に入れれば、周りがちやほやしてくれる。ハングリー精神の賜物だ。見た目で勝負する者には「旬」がある。そのアイテムを使わないのは愚かだ。

 張りぼての人気はやがて老いと共に枯渇する。特に女性はその傾向が強い。女性もそれを知っている。女子高生は全ての女性が手にする最強のアイテムだ。それを活かすか否かは本人次第だ。少なくとも見た目華やかなテレビ業界を目指す者は少なくても、周りから常日頃、綺麗だとか可愛いと言われ続けてきた者だ。いざ、運よく業界に入れば、そういった連中の渦に巻き込まれる。特化した才能がなければ埋もれてしまうのは必然だ。他人の芝は青く見えるものだ。

 女は思った。私はあの子に負けていない。運が悪いだけ。その運を掴むのは、運を撒き散らす悪代官の目に留まることだ。しかし、その者の周りには、同じようなライバルが群がっているものだ。悪代官は、そんな女たちの心を見透かしたように「餌」を鼻先にぶら下げる。中には理不尽な餌など食わないと我を張るが「餌」喰らった者は自分の前を悠々と歩む。女は思った。理不尽な要請な要請を撥ね退けるには、超人気にならなければならない。生き残りに必須の手段だ。性を売って何が悪いと自分に言いきかせて奮起した。

 悪代官は、「今後の仕事に役立つ」と女性アナウンサーを諭し、対象者と二人っきりにする状況に追い込んだ。要求を断れば、BS降格の不利益が待っていた。蛆tv.は女性アナウンサーをタレント化し、接待要員に育て上げるのが常習化していた。悪代官は彼女たちの仕事場を選択できる立場にあった。虎の威を借りる狐。背後に殿さまのお気に入りの太鼓持ちの姿が悪代官の発言に強制力を持たせていた。殿さまとの茶会に呼ばれることは、社の要請に応える将来有望な者であることを意味していた。

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