第20話 魔王様、お注射の時間です


魔王の間。


魔王ラズルメルテが不敵な笑みを浮かべながら玉座に座っている。玉座の後ろには巨大な鳥籠があり、鳥籠の中にはノワールが囚われている。


友成は扉を押して入って来る。


「来たか。勇者よ」 


最初会った時と同じで威圧感あるな。まぁ、今はその威圧感も怖くない。


「倒しに来たぜ。魔王様よ」


友成は魔王と会話しながら、奥の鳥籠のノワールを確認する。鳥籠の中のノワールは眠っている。


魔法か何かで眠らされているんだな。


「戯言を。隠れて何も出来なかった愚か者の分際が」


「やっぱり、あの時気づいていたのか」


「当たり前だ。逃してやったのだ。惨めに生き逃れ、何も出来なかったと後悔したまま死んでもらう為にな」


「……性格悪すぎ。友達居ないだろ」 


煽るだけ煽ろう。隙が生み出せたら儲けもんだ。


「魔王は世界を統べる者だ。そんな低俗なもの必要ない」 

「友達が出来ないから一番偉くなってチヤホヤされたいんだろ」


「くだらん。聞くに耐えぬ」

「会話放棄したな。雑魚」


「貴様がどれだけ愚かなのか。身体に教えてやろう」


魔王ラズルメルテが玉座から立ち上がった。

魔王ラズルメルテの頭上のレベルは99と表示されている。


「出来れば言葉でご教授願いたんですがね」

どう攻撃してくる。集中しろ。集中すれば反応は出来る。


「それは出来ぬな」


魔王ラズルメルテの姿が消えた。


「ど、どこに行った?」


ちょっと待て。反応出来なかっただと。


「ここだ」


友成の背後から魔王ラズルメルテの声が聞こえる。

友成は振り返ろうとした。その瞬間、魔王ラズルメルテは友成を蹴り飛ばした。


友成は吹き飛ばされて、玉座に激突する。そして、その場に倒れる。 


身体中が痛ぇ。なんだよ、あれ。は、速すぎる。人間が反応出来る速度じゃねぇ。


「貴様がどれだけ愚かか理解出来たか?」


魔王ラズルメルテは玉座に座って訊ねる。


友成は顔を上げて、「すみませんね。まだ分かりませんね」と言い返す。

どうすればいいか考えろ。このままじゃ負けるぞ。


「そうか。それなら、貴様が理解出来るまで身体に教えてやろう」

「体罰は時代遅れだぜ」


「すまぬな。我は魔族だから関係ない」


魔王ラズルメルテは友成の顔面を蹴り上げた。

友成の身体は天井に向かって飛んでいく。

やばいやばいやばい。どうすりゃいい。何も策が思いつかない。


「我の指導は優しくないぞ」


魔王ラズルメルテは超高速スピードで天井近くまで飛び、空中で待機している。


「そんなのありかよ」


どう体勢を変えても次の攻撃は避けれない。それに体勢を変える余裕もない。


「人間には不可能でも魔族なら可能なのだ」

「インチキだ」


魔王ラズルメルテは自身に向かって来る友成の背中に踵落としをした。


「くそ。痛ぇ」

友成の身体は床に向かって落下していく。


このまま落ちたら大ダメージだ。どうにかして、落下を防がないと。


「誰がそのまま地面で這いつくばらせるか」


魔王ラズルメルテは超高速スピードで床に降りて、殴る構えをしている。

友成は必死に身体を丸めた。


きっと、壁に殴り飛ばされる。それなら、少しでもダメージを抑えないと。


「貴様、我が嘘をつかない勇者だとでも思っているのか?」


魔王ラズルメルテは言った。


「え?」

友成はそのまま床に激突した。


おい。おかしいだろ。ゲームのキャラクターが人間の心理まで読んで攻撃をわざとキャンセルするなんて。


「愉快愉快」


魔王ラズルメルテは笑いながら、友成の胸ぐらを掴んで、持ち上げる。


「卑怯者が」

「賛辞を感謝する。お礼にお前の望み通りにしてやろ」


魔王ラズルメルテは友成を投げ上げてから飛ぶ。そして、空中で友成を壁に向かって殴り飛ばす。


友成はなすすべなく壁に激突する。そして、そのまま床に倒れ込む。


勝てる気がしない。ここまで理不尽にやられた事は人生で初めてだ。どうすりゃいい。一人じゃどうにも出来る気がしない。


「グレイ、大丈夫か?」

友成の身体の中に居るヴァイルドが言う。


「見ての通り大丈夫じゃない」

「……グレイ、聞いてくれ。一つだけ、魔王ラズルメルテを倒す方法がある」


ヴァイルドは何かを決断したかのようだった。


「あるのか」

「あぁ、ある。その方法はインジェクションソードで俺をあいつの身体、いや、俺の身体に流し込んでくれ」


「インジェクションソードって、洞窟にあったあの剣か」


「そうだ。俺が自分の身体に戻り、身体からラズルメルテを追い出して霊体の状態にする。そうすれば今みたいな力は出せないはず」


「追い出せなかったら」

想像はしたくないけどヴァイルドが負ける可能性もある。


「追い出すさ。必ず」

「……ヴァイルド」


「負ける事を想像するな。勝つ事だけを想像しろ。魔王ラズルメルテに勝たないと世界を平和に出来ないし、ノワールを救い出す事は出来ないんだからな」


「……そうだな。そうだよな」


馬鹿だな、俺。ネガティブな事ばっかり考えてた。ポジティブな事を考えないと勝負は勝てるわけねぇ。


俺はいや、俺達は魔王ラズルメルテに勝てるはず。違う。絶対に勝つんだ。


「いけるか」

「あぁ、当たり前だ。俺は勇者だからな」


友成は立ち上がり、メニュー画面を開き、インジェクションソードに変更する。


「まだ戦う気か。愚かを通り越して哀れだ」

「うるせぇよ」

友成は目を閉じた。


魔王ラズルメルテの動きは目で見ても反応出来ない。だから、目を閉じて集中して、相手の気配を感じ取る方が反応出来る可能性はある。


それと、魔王ラズルメルテにインジェクションソードを刺さないといけない。だから、一瞬でも動きを止める必要がある。


一つだけ方法がある。タイミングが鍵になってくる。

「ヴァイルド、魔王ラズルメルテの攻撃か魔法なら教えてくれ」


「殴りや蹴りは?」

「大丈夫。反応出来る」

「……わかった」


友成は深呼吸をする。そして、さらに集中する。

「現実を直視するのが嫌になったか。それなら、我が残酷な現実を身体に叩き込んでやろう」


魔王ラズルメルテは友成に向かって、超高速で向かう。

友成は目を閉じたまま気配を感じ取っている。


大丈夫だ。上手くいく。


「死ねぇ」


魔王ラズルメルテは左拳で友成を殴りかかる。


「死なねぇよ」


友成は右手で魔王ラズルメルテの左拳を掴んだ。


「な、なんだと」


「魔王様。お注射の時間です。チクッとしますよ」

友成は魔王ラズルメルテのお腹にインジェクションソードを刺して、ヴァイルドを流し込む。


「貴様!」

「ヴァイルド、自分の身体を取り戻せ」


友成は魔王ラズルメルテのお腹からインジェクションソードを抜き、距離を取る。

ヴァイルド、お前なら大丈夫だ。

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