第19話 魔王は罠だらけの城で普段どう生活をしているのだろうか
アルブルシャルト城内。
高級な赤絨毯が床に敷かれ、壁には絵画が飾られ、オブジェなどが置かれている。
上階に行く為には螺旋階段を上らないといけない造りになっている。
THE・お城って感じだな。この上階に魔王ラズルメルテが居るんだな。気合い入れていかないと。
友成は上階へ行く為に螺旋階段を上ろうとする。
「罠の事は知っているのか?」
友成の身体の中に居るヴァイルドが訊ねた。
「罠でございますか?」
友成は螺旋階段の1段目に足をついた。その瞬間、弓矢が飛んできたり、刀が落ちてきたり、巨大な丸い岩の塊が階段の上から落ちてきた。
友成は俊敏な動きで避けて、入口に急いで向かう。
「死ぬかと思った」
よく避け切ったよ、俺。ここ最近で1番焦った。
「大丈夫か?」
ヴァイルドは心配そうに言う。
「先に言ってくれない。死んじゃうから。マジで」
「すまない。聞かれなかったから」
「そ、そうでしたね」
言い返せない。確かにお城に入る前に聞くべきだった。でも、ちょっとは気を遣っていただけないかね。ヴァイルド殿。
「今度から何かあれば教える」
「お願いします」
もうラストダンジョンだけどね。ほぼ次はないのよ。まぁ、自分が悪いのもあるから反省はしないと。
「ちょっと神様に確認したい事があるから話します」
ヴァイルドに一応報告する。流石にいきなり話すのは良くないよな。
「あぁ、してくれ。バチは当たりたくないからな」
バチは当たらないよ。だって、幼馴染の高校一年生の女子だから。
「ありがとう」
「どうかしたのか? 迷える子羊よ」
「ふざけん。おふざけはよくないよ。神様」
一応、フレンドな神様とは言ったけどあまりにはきつい言葉を言うとヴァイルドが怒りそうだ。だから少し丁寧に言ってみた。
「そうであったな。で、なに?」
「あのさ、裏口とかないの?」
魔王達はどう生活してるんだよ。自分が居る部屋から出れないだろ。出たら罠罠罠なのに。裏口とかないとおかしい。
「ないね。調べたけど」
「マジかよ。罠避けながら行くしかないのかよ」
気合い入れていくしかないのか。それしかないよな。
「裏口はないけど罠の停止ボタンがある場所なら発見済みだよ」
「流石天才。やっぱり神だわ」
和紗ってすげぇわ。欲しい情報を先に予測して調べてるんだもん。
「汝ほどではないがな」
千戸浦はゲームで出て来る神様のような話し方をしている。
「恐縮です。で、どこ?」
「えっとね。絵画の後ろの壁」
「了解。絵画の後ろの壁ね」
友成は壁に飾られている絵画を外した。
「なぎ、いや、神様。マジであったわ」
壁には停止ボタンが付いていた。
「でしょ。押すのだ」
「おう。ポチッとな」
友成は停止ボタンを押した。すると、城内の至る所から機械が動いている音がした。
なんか動いてる。すげぇ。
城内の至る所で鳴っていた機械の音が止まる。
「それで大丈夫だと思う」
「わかった。ありがとう、神様」
「礼には及ばんよ」
「じゃあ、上に向かうわ」
「頑張ファイト」
千戸浦はキャピキャピした声で言う。
そう言うキャラじゃないだろ。お前は。
友成は螺旋階段へ向かう。
「さっきのボタンはなんだ?」
友成の身体の中に居るヴァイルドが訊ねる。
「城の中の罠を停止させるボタンだよ」
「なんだと。そんな、ボタンがあったのか」
ヴァイルドは驚きを隠せないようだ。
「おう。そうだ。前回はどう攻略したんだ?」
「聞くな。思い出したくない」
ヴァイルドは取り乱しているようだ。
「なんで?」
何か嫌な思い出でもあったのか。珍しく取り乱してるし。
「……恥ずかしいからだ」
「恥ずかしい? どう言う事?」
なんか、申し訳ないけど面白そうだ。
「罠を回避する為に手摺にひっついてよじ登ったんだ。それは情けない姿だったと思うからだ」
「なるほど。たしかに」
友成は手摺にひっついてよじ登るヴァイルドを想像して吹いてしまった。
情けないと言うよりダサい。勇者が見せていい姿ではないな。
「笑うな。お前も同じ事をしたんだからな」
「記憶にないから別に平気」
「ず、ずるいぞ。グレイ」
「ずるくねぇよ。笑った事は謝るよ。ごめん。でも、それでノワールを助けたんだろ」
「まぁ、そうだな」
「ならいいじゃんか。カッコつけて人を助けられないよりダサくても人を助けた方が最終的にはカッコいいじゃんか」
誰かの為に必死に頑張れる事がカッコいいんだと思う。
「……そ、そうか」
「そうだよ」
ヴァイルドは納得してくれたようだ。
友成は螺旋階段の前に着いた。そして、恐る恐る段差の上に足を置いた。
弓矢は飛んでこない、刀も降って来ない、丸い岩の塊は落とされてこない。どうやら、罠は本当に停止したようだ。
ほ、ホッとした。これで何も気にせず上に行ける。
友成は螺旋階段を上る。
それにしても、一つ気になる事がある。どうやって、ノワールはこの罠だらけの城から出れたんだ。
雪の中で倒れていたけど傷はなかったような気がするけど。
俺の気にしすぎなのか。まぁ、今は魔王ラズルメルテを倒して、ノワールを救い出す事が優先だ。
友成は螺旋階段を上り終え、最上階に着いた。
最上階は巨大な扉の部屋に続く一本道のみ。道には豪奢な赤い絨毯が敷かれている。そして、道の両側には禍々しいオブジェが等間隔で並べられている。
「あの扉の向こうに魔王ラズルメルテとノワール姫がいるはずだ」
友成の身体の中に居るヴァイルドが言う。
「了解。あのさ、質問していい?」
「なんだ?」
「あのオブジェ達はモンスターとかにならない。ガーゴイル達みたいに」
「それは大丈夫だ。魔力はまったく感じない。ただのオブジェだ」
「そうか。それなら安心した」
よかった。ただのオブジェでよかった。ここまで来て、魔王ラズルメルテ以外とは戦いたくない。
「魔王ラズルメルテを倒して、ノワール姫を救い出すぞ。絶対に」
ヴァイルドは力強い声で友成を鼓舞する。
「あぁ、絶対に救うさ。勇者だからな」
友成は両頬を叩いて、気合いを入れて、扉へ向かう。
魔王ラズルメルテを倒せば、現実に戻れるんだ。勝つぞ。絶対に勝つ。
友成は扉の前に着いた。
この扉を開けたら、最終戦だ。
「遊ちゃん。ちょっといい?」
友成の耳に千戸浦の声が直接届く。
「なんだ?」
「魔王ラズルメルテも守護獣同様元のデータより強くなってる」
「了解。大丈夫。倒せばいいだけだ」
「倒して現実に戻って来てね」
「当たり前だ。絶対に戻る」
友成は扉を押した。
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