第16話 私たちだけのアプローチ

 機材、アカウント、投稿態勢は整い、ゴースト・メリィは二戸坂家スタジオで早速新曲会議に取り掛かっていた。


 が、最中に運ばれてきた鯛の刺身盛り合わせ、活け造り振る舞いが出されて見事中断した。



「よ、良かったらみんな食べて……」


「わぁ〜お刺身だぁ!」


「はっちょっ、二戸坂流石に悪いってこんな」


「あ、気にしないで全然」


「気にするだろ! スナック菓子感覚で活け造り出てきたら」


「これ、今朝お母さんが釣って捌いたやつなの」


「釣って、さばっ、えっ……は?」



 ただ一人、女ヶ沢だけが常軌を逸した情報に当惑していた。



「ニコちゃんのお母さん、すっごい多趣味でね。色んな資格取って全部一人でやれちゃうの!」


「昨日は夜に衝動で家飛び出して、自分の漁船乗って沖まで……それを捌いて、今は残りを近所におすそ分け中」


「どんだけバイタリティ溢れてんだよ!」


「家計はほとんどお母さんが支えてるから」


「あれ、二戸坂の家ってお母さんだけだったのか?」


「いや、お父さんが写真家で。普段は家にいないんだ」



 身内の話を恥ずかしそうにしながら、女ヶ沢に問い詰められるまま二戸坂は答えた。



「お父さんもカメラマンで普通の収入ぐらい稼いでくれてるんだけど、お母さんの趣味でお金が何倍も増えちゃって」


「この文脈で資産増やしてるってことあるか?」


「お父さんが若手時代から家計支えてたらしくて。親戚全員を結婚納得させるために稼いだり、お父さんの仕事取ってきたり、なんかえげつなかったって」


「両親の馴れ初めから『えげつない』って言葉初めて聞いたぞ」



 衝撃的な二戸坂家のエピソードに盛り上がりながら、四人は口をパクパクさせる鯛から身をさらっていった。



 ※



「じ、じゃあ新曲の話すっか」



 二戸坂と広世は女ヶ沢の方に膝を揃え、笹佐間は床に寝転がりながら顔だけ向けた。



「今はお互い練習あるのみって感じだが、問題は二戸坂と広世が人前出るのに慣れてないことだ」


「うん。吐きます」


「右に同じく。マーライオン化する」


「ネガティブなことで意気投合すんな」



 相変わらず陰組二人の度胸はチキンであった。



「まあ、ライブは追々として、どんな曲作るかが問題だな」


「作るってことはー、まずはニッキーが考えるんだよね~?」


「うう、責任重大……けど実際、どんな曲にしようか迷ってて。ボカロとバンドはジャンルも違うし、バンドの雰囲気とかも大切だし……このバンドの雰囲気って何?」



 これまでの『笑う七面鳥P』とは違い、バンドは四人全ての特徴を活かした音楽でなくてはならない。

 仮とはいえバンドリーダーとしても、二戸坂は新曲の方向性を決めかねていた。


 そこへ女ヶ沢が正面からの意見を出す。



「このバンドの強みは他でもない、二戸坂のボカロ作曲の経験になる。自分達の色探すまでは、コイツを軸にしていくしかない」


「そうだねー! さささちゃんはニッキーの曲好きだから、どんな曲きても頑張るよ~!」


「ありがと! ただ、ジャンルはどうする? ポップ風とか、ハードロックとか……」


「ウチも実際悩んでる。機械音やボカロの経験がストレートに活かせそうなのは……って広世、真っ先に手ぇ上がったな」



 ピンと腕を天井へ掲げた広世はタブレットのメモ帳を起動する。



「実はこのミミちゃん、ちょっと前から考えてた案があるんだ~♪」



 画面を三人に向け、広世は最高に瞳を輝かせて見せる。


 そこには男性キャラクターと校舎のイラスト、作品ロゴの下に『はじめる』と『つづきから』のボタンが表示されていた。



「――ゲーム音楽、ってのはどうでしょうっ!」

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