1-2 聖堂にて
私は聖堂のある丘へと赴き、壮麗な扉を押し開いた。周りには参拝する者もいて、辺りには朝の穏やかな空気が満ちていた。私は聖堂に入り、席に着くと初老の男性に話しかけた。
「
「大儀なことだ。いよいよマティも十六才か」
リガル神告はそう云って私を見つめた。私は言葉を返した。
「何者になるのか、私はまだ自分の将来を決めかねております。ピアノと唄で生きて行こうと考えているのですが、世の中に通じるかどうか……」
私は不安げな心中と吐露した。
「大丈夫だよ、マティ。それを見極め、己を試し、自らを成長させることが、『旅人』の目的なのだよ」
私は頷いた。どこまで通じるかわからないが、それこそがレポク神の思うところなのだろう。
「リガル神告、私はこの旅でそれらを自らに問いかけたいと思います。己を試す旅なのですね」
リガル神告は、柔和な表情を浮かべ、ゆったりとした衣をさばいた。
「それこそが、旅人の努めなのだ。自らの生きる道を、しっかりと探してくると良い」
「ありがとうございます。旅立ちの前に、祭壇で祈りを捧げて参ります」
「御心のままに」
私は祭壇でレポク神に祈りを捧げようと席を立った。
「美と愛と芸術の女神、レポクさま。私の想いが唄に乗せて人々の心に届きますように。大勢の人々に、愛ある唄が届きますように」
私は祭壇の前で、目を瞑って祈った。心の中に一条の光が差し込み、あたたかな想いが溢れてきた。周りの一切の音が消し去られ、美しい旋律が心の中に響いた。
「それでは、私はこれにて。旅へと向かいます。神告さまに、レポク神の御加護がございますように……」
「ありがとう、マティ。レポク神のお導きが、マティにあらんことを」
私は聖堂を後にした。あたたかな光の感覚が、心を満たしていた。それは、美と愛の女神のエネルギーに違いなかった。
「これからの私に、どんな出逢いが待っているのだろうか」
私はそう、独り言をつぶやいた。
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