第6話『成長編』
第1話:研究発表
国際学会の控室で、青木理沙は原稿を見直していた。隣では村上咲が発表用スライドの最終確認を。
「大丈夫かな...」咲が不安そうに。
「落ち着いて」理沙が優しく微笑む。「二人でやれば...って、咲さん!」
咲がコーヒーをこぼしそうになり、理沙が慌てて受け止める。
「ごめんなさい」咲が申し訳なさそうに。「緊張で手が震えて」
「まったく」理沙が溜息をつく。「発表前に白衣を汚すところでした」
その時、中村翔子と山田健一が顔を出す。
「お二人さん、準備は?」
「翔子さん!山田君!」
「応援に来たよ」山田が笑顔で。「母校の誇りだからね」
「恋する研究者コンビの発表」翔子がにやり。「見逃せないわ」
「も、もう」理沙が赤面する。「そんな言い方...」
「でも」咲が嬉しそうに。「理沙さんと一緒だから、頑張れます!」
「咲さん...」
「青木・村上ペア」スタッフが声をかける。「間もなく発表です」
「はい!」二人が同時に立ち上がる。
「あ!」咲がつまずく。
「危ない!」理沙が支える。
「もう」翔子が呆れたように。「本番前に怪我したら大変よ」
「ご、ごめんなさい」咲が照れる。「でも理沙さんが、いつも守ってくれるから」
「そ、それは...」理沙が言葉に詰まる。
壇上に立つと、会場は満席。海外からの研究者も多い。
「次の発表は」司会者が告げる。「『論理と直感の融合—新しい研究アプローチの可能性』青木理沙氏、村上咲氏」
拍手が響く中、二人は視線を合わせる。
「では」理沙がマイクを取る。「発表を始めさせていただきます」
スライドが映し出される。が—
「あれ?」咲が焦る。「データが...」
画面が突然暗くなった。会場がざわつく。
「咲さん」理沙が囁く。「プレゼンの代わりに」
「はい」咲が頷く。「私たちの研究を、言葉で」
二人は息を合わせ、研究の本質を語り始める。理沙の論理的な説明と、咲の直感的な例え話が、見事に調和する。
「まさに」会場から声が上がる。「理論と実践の融合ですね」
質疑応答でも、二人の掛け合いは冴えわたる。
「素晴らしい」審査員が感心する。「お二人の関係性が、研究にも活きていますね」
「えっ!」理沙が慌てる。
「あの...」咲も真っ赤に。
会場から笑いが起こる。
「見事な発表でした」司会者が締めくくる。「特別賞をお二人に」
大きな拍手が響く。
「やった!」咲が思わず理沙に抱きつく。
「ちょ、ちょっと!」理沙が慌てる。「まだ壇上です!」
「おっと」翔子が観客席で。「愛の告白かしら?」
「青春っていいね」山田も微笑む。
控室に戻ると、二人は疲れて椅子に座り込む。
「信じられない」理沙が呟く。「機材トラブルまで乗り越えて」
「理沙さんがいたから」咲が笑顔で。「私、全然怖くなかった」
「私も」理沙が手を重ねる。「咲さんと一緒だから」
「あのね」咲が突然真剣な表情に。「発表が終わったら、言いたいことが」
その時、取材陣が押し寄せてくる。
「お二人の研究について!」
「素晴らしい発表でした!」
「えっと」理沙が咲を見る。「後で、ゆっくり」
咲は小さく頷き、理沙の手を握る。まだまだ、伝えたいことがある。でも今は—
「私たちの研究は」二人が声を揃える。「まだ始まったばかりです」
新しい扉が、二人の前に開かれていた。
第2話:外部からの評価
研究棟の前は、珍しく騒がしかった。テレビカメラやマイクを持ったマスコミが集まっている。
「困りましたね」青木理沙が窓から外を覗く。「まさか学会発表が、こんな騒ぎに」
「理沙さん!大変です!」村上咲が駆け込んでくる。「なんと、週刊誌の取材が...」
「またですか?」理沙が眼鏡を直す。「一体、何が面白いんでしょう」
「二人とも、見てよ!」中村翔子が雑誌を広げる。「『天才研究者カップル誕生!論理と直感が導く新しい科学』だって!」
「えっ!?」二人が覗き込む。
記事には、学会発表での写真が。壇上で咲が理沙に抱きつくシーン。
「な、なんてタイミングで...」理沙が真っ赤になる。
「わわ...」咲も顔を隠す。
「青木先輩!」後輩たちが駆け込んでくる。「テレビ局が、ラブラブ研究室特集をやりたいって!」
「らぶらぶ...」理沙が言葉を失う。
「研究室...」咲も固まる。
「あらあら」翔子がにやにや。「人気者は大変ね」
その時、藤田教授が現れる。
「お二人とも」教授が苦笑い。「予想外の反響でしたね」
「先生」理沙が助けを求めるように。「どうすれば...」
「そうですね」教授が考え込む。「取材は受けましょう。ただし」
「ただし?」
「研究の本質を伝える。それが一番です」
二人は顔を見合わせ、頷く。
記者会見場となった講堂。カメラのフラッシュが光る。
「では」司会が切り出す。「お二人の研究について」
理沙が論理的に説明を始める。咲は具体例を挙げながらサポート。
「素晴らしい」記者たちがメモを取る。「で、お二人の出会いは?」
「えっと」理沙が言葉に詰まる。
「実験失敗から始まりました!」咲が元気よく。
「咲さん!」理沙が制止しようとするが。
「理沙さんが私のミスをフォローしてくれて」咲が嬉しそうに。「その時の優しさに...あ」
会場が沸く。
「研究者として」記者が質問を。「お互いの印象は?」
「理沙さんの論理的な考え方が素敵で...」
「咲さんの直感的な閃きには驚かされて...」
二人の言葉が重なる。
「きゃー!」女性記者たちが歓声を上げる。
「次の目標は?」
「海外留学です」二人が同時に答える。
「一緒にですか?」
「はい」理沙が意を決して。「私たちは最高のパートナーですから」
「理沙さん...」咲が感動的な表情に。
「カメラ回してます!」スタッフの声。
「萌えシーン、撮れました!」カメラマンの声。
「もう!」理沙が我に返る。「こんな空気になるなんて」
帰り道、二人は疲れ果てていた。
「大丈夫?」理沙が心配そうに。
「うん」咲が笑顔で。「でも嬉しかった」
「え?」
「理沙さんが、みんなの前で」咲が照れながら。「パートナーって」
「そ、それは...」理沙も赤面。「事実ですから」
その時、携帯が鳴る。
「あ」理沙が画面を見て。「母さんから」
メッセージには:
『テレビ見たわよ!素敵な二人で安心しました。早く孫の顔が...』
「うわっ!」理沙が慌てて携帯を隠す。
「どうしました?」
「な、なんでもありません!」
帰宅途中の夕陽が、二人の赤い顔を優しく照らしていた。
第3話:新たな挑戦
青木理沙のアパートは、段ボール箱だらけだった。村上咲が荷物の整理を手伝っている。
「理沙さん、この本は...」
「あ、それは持っていきます」
「もう」咲が笑う。「研究書だけで一箱分ですよ」
「だって」理沙が真面目な顔で。「海外の研究所で恥ずかしい思いは...」
「きゃっ!」咲がバランスを崩す。
「危ない!」理沙が咲を支えるが、共に倒れ込む。
「ご、ごめんなさい」咲が理沙の胸の上で。
「大丈夫です」理沙の声が優しい。「いつものことですから」
「まったく」ドアから中村翔子の声。「留学前から二人きりで何してるの?」
「違います!」二人が慌てて起き上がる。
「それより」翔子が大きな箱を持って入ってくる。「これ、みんなからのプレゼント」
「みんな?」
箱の中には、研究室メンバーからの贈り物。そして—
「これは」理沙が一冊のアルバムを取り出す。
「二人の思い出集」翔子が説明する。「みんなで作ったの」
アルバムには、初めて出会った日の写真から、学会発表の様子まで。
「あ!」咲が指さす。「温室での告白の時!」
「よく撮れてたでしょ?」翔子が得意げに。
「まさか、あの時から...」理沙が眼鏡を直す。
「もちろん」翔子がウインク。「私たち、ずっと応援してたもの」
二人の目が潤む。
その時、玄関のチャイムが。
「はーい」翔子が開ける。「あら、山田君」
「お邪魔します」山田健一が大きな紙袋を抱えて。「母さんが、餃子作ってくれて」
「まあ!」咲が飛びつく。「おばさんの餃子!」
「あ」山田が困った顔。「でも賞味期限が今日までで...」
「じゃあ」翔子が決めるように。「今夜は送別会よ!」
「えっ」理沙が慌てる。「でも片付けが...」
「いいの、いいの」翔子が荷物を脇に寄せ始める。「思い出作りが大切!」
結局、理沙のアパートは急遽パーティー会場に。
「乾杯!」
「かんぱーい!」
「美味しい!」咲が餃子を頬張る。
「ほら」理沙が咲の口元を拭う。「sauce が...」
「あらあら」翔子がからかう。「もう奥様みたい」
「もう!」理沙が真っ赤に。
「でも」山田が静かに。「寂しくなるな」
空気が少し重くなる。
「あの」咲が立ち上がる。「私、言いたいことが」
「咲さん?」
「理沙さんと出会えて、研究して、恋をして」咲の声が震える。「私、本当に幸せです。だから...」
「だから?」
「海外でも」咲が決意を込めて。「理沙さんを幸せにします!」
「きゃー!」翔子が歓声を上げる。
「プロポーズ?」山田も驚く。
「ち、違います!」理沙が慌てる。「まだ...その...」
「まだ?」全員の視線が集中。
「と、とにかく!」理沙が話題を変えようと。「餃子が冷めちゃいます!」
笑い声が部屋に響く。
夜が更けていく中、思い出話に花が咲く。
「ねえ」咲が理沙に寄り添う。「私たち、大丈夫かな」
「ええ」理沙が咲の手を握る。「だって、二人だから」
翔子と山田は、そんな二人を温かく見守る。
「青春っていいわね」翔子が感慨深げに。
「うん」山田も笑顔。「二人なら、きっと大丈夫」
窓の外では、満月が優しく輝いていた。新しい冒険を前に、二人の心は不安と期待で一杯。でも—
「理沙さん」
「はい?」
「やっぱり」咲が笑顔で。「一緒で良かった」
理沙は何も言わず、ただ強く頷いた。
第4話:二人の夢
イギリスの研究所近くにある小さなアパート。青木理沙は朝食の準備をしていた。
「おはようございます」村上咲が寝ぼけ眼で現れる。
「あ、咲さん」理沙が振り返る。「まだ髪が...」
「えっ!」咲が鏡を見て慌てる。「もう、研究所の時間!」
「大丈夫です」理沙が微笑む。「まだ一時間あります」
「理沙さんったら」咲が安堵の表情。「いつも早起きで」
「誰かさんが寝坊魔だから」理沙が冗談っぽく。
「もう!」咲が理沙に抱きつく。「でも、朝ごはんの匂い美味しい」
イギリスでの生活も一ヶ月。最初は言葉も生活も戸惑ったが、二人でいるからこそ乗り越えられた。
「あ」咲がトーストを食べながら。「今日、新しい実験始まりますよね」
「ええ」理沙も珈琲を飲みながら。「でも、英語での発表が...」
「大丈夫!」咲が元気よく。「理沙さんの英語、すっごく上手いです」
「咲さんこそ」理沙が嬉しそうに。「現地の研究者と仲良くて」
「えへへ」咲が照れる。「私の直感、英語でも通じるみたい」
その時、スカイプの着信音が。
「あ!翔子さんから」
画面には中村翔子の笑顔が。
「お二人さん、元気?」
「翔子さん!」二人が声を揃える。
「まあまあ」翔子がにやり。「朝から仲良し?」
「そ、その...」理沙が赤面する。
「研究の打ち合わせです!」咲も慌てて。
「はいはい」翔子が楽しそう。「で、新しい研究は?」
二人は目を輝かせながら説明を始める。理沙の論理的な解説に、咲が具体例を交えて。
「素晴らしいわ」翔子が感心する。「二人の研究、進化してるわね」
「実は」咲が嬉しそうに。「理沙さんが夜遅くまで...」
「咲さんだって」理沙が遮る。「実験のアイデアを」
「あらあら」翔子が笑う。「相変わらずね」
通話が終わると、出発の時間。
「行きましょう」理沙が白衣を手に取る。
「はい!」咲も準備を。
研究所までの道すがら、咲が突然立ち止まる。
「どうしました?」
「見て!」咲が空を指さす。「虹!」
確かに、朝日に照らされた空に、大きな虹がかかっていた。
「きれい...」理沙も見とれる。
「ねえ」咲が理沙の手を握る。「私たち、夢叶えられそう?」
「ええ」理沙も強く握り返す。「必ず」
研究所に着くと、同僚たちが笑顔で迎えてくれる。
「Good morning, Risa, Saki!」
「新実験、楽しみです!」
「はい!」二人が元気よく返事。
実験室で、理沙が資料を確認していると、咲が後ろから覗き込む。
「理沙さん」
「なんですか?」
「幸せです」咲が小さく呟く。
理沙は振り返り、咲の額に軽くキスを。
「きゃっ!」咲が真っ赤に。「急に...」
「I love you」理沙が英語で。
「もう」咲が嬉しそうに。「それなら...I love you too!」
実験室に二人の笑い声が響く。窓の外では、まだ虹が輝いていた。
第5話:将来への不安
夜遅い研究所の実験室。青木理沙は何度目かのデータを確認していた。
「また失敗...」
「理沙さん」村上咲が心配そうに。「もう夜中ですよ」
「でも」理沙が疲れた顔で。「このままでは...」
最近、研究が思うように進まない。現地の研究者たちとの考え方の違いも大きく。
「帰りましょう」咲が優しく。「明日また」
「咲さんは」理沙が諦めたように。「なんでそんなに前向きでいられるんですか」
「え?」
「私なんて」理沙の声が震える。「日本での評価に見合う成果も出せないのに」
その時、実験装置から警告音が。
「あっ!」咲が慌てて確認する。
「大丈夫ですか!?」理沙も立ち上がる。
「はい、でも...」咲が申し訳なさそうに。「私のミスで、また実験やり直しです」
「そう...」理沙が溜息をつく。
静寂が流れる。
「ごめんなさい」咲が小さな声で。「私、理沙さんの足を引っ張ってばかり」
「え?」
「英語も研究も、理沙さんの方が上手なのに」咲が涙をこらえる。「私なんかと一緒に来て...」
「違います!」
理沙が咲の肩を掴む。
「理沙さん...」
「咲さんがいなかったら」理沙の目も潤む。「私、とっくに諦めてた」
「でも...」
「咲さんの笑顔が」理沙が真剣な表情で。「私の希望なんです」
二人の目が合う。
「あのね」咲が意を決したように。「実は、新しいアイデアが」
「アイデア?」
「はい!」咲が実験ノートを開く。「理沙さんの理論と、私の直感を、こんな風に...」
説明を聞くうちに、理沙の目が輝き始める。
「これは...」
「駄目でした?」咲が不安そうに。
「むしろ」理沙が興奮気味に。「今までの壁を突破できるかも!」
「本当ですか!」
その時、警備員が巡回に。
「まだ残ってたのか」警備員が英語で。「若い研究者は情熱的だね」
「あ、すみません」二人が慌てて片付け始める。
深夜のロンドンの街。二人は肩を寄せ合って歩く。
「理沙さん」咲が夜空を見上げる。「私たち、これからどうなるんでしょう」
「それは...」
その時、小雨が降り出す。
「きゃっ!」咲が理沙に寄り添う。
「ほら」理沙が傘を広げる。「いつも一緒です」
「理沙さん...」
「咲さんと出会えて」理沙が優しく微笑む。「私の人生は変わりました」
「私も!」咲が理沙の腕にしがみつく。「理沙さんと一緒なら、どんな困難も...」
「ええ」理沙が頷く。「論理と直感で、道を切り開きましょう」
雨の向こうに、街灯が優しく輝く。
「あ!」咲が指さす。「カフェまだ開いてる!」
「こんな時間に...」
「ねえ」咲が理沙の手を引く。「新しいアイデア、もっと話し合いましょ?」
「まったく」理沙が呆れたような、でも優しい表情。「咲さんは...」
カフェの温かな明かりの中、二人は夜更けまで語り合った。不安は消えていないけれど、二人なら、きっと—。
第6話:互いの決意
イギリスの研究所は、春の陽射しに包まれていた。実験室で青木理沙と村上咲は、データの最終確認をしている。
「信じられない」理沙が感動的な表情で。「咲さんのアイデアが、こんな結果を...」
「理沙さんの理論があったから」咲も嬉しそう。「二人の力が重なって...」
データは、彼女たちの新しい研究手法の有効性を示していた。
「発表の準備をしましょう」理沙が意気込む。
「はい!」咲も元気よく。「プレゼンは私が...って、わっ!」
資料を取ろうとして、咲がバランスを崩す。
「気をつけて...」理沙が咲を支える。
二人の距離が近い。
「ごめんなさい」咲の頬が赤くなる。「いつも理沙さんに助けられて」
「いいえ」理沙も顔を赤らめる。「むしろ、感謝してます」
「感謝?」
「咲さんと出会って、研究も、人生も、すべてが...」
その時、同僚のジェーンが入ってくる。
「おはよう!」ジェーンが明るく。「あら、邪魔しちゃった?」
「え?あ、いえ...」二人が慌てて離れる。
「ふふ」ジェーンが微笑む。「二人とも可愛いわ。そうそう、所長が呼んでるわよ」
「所長が?」
緊張しながら所長室へ向かう二人。
「Congratulations!」所長が二人を迎える。「素晴らしい研究成果です」
「ありがとうございます」二人が同時に頭を下げる。
「それで」所長が意味深に。「次の提案があるのですが」
所長の提案は、研究所の正式な研究員としての採用。しかも、独立した研究チームとして。
「本当ですか!」咲が飛び上がりそうに。
「これは...」理沙も感激で。
「二人の研究スタイルに期待しています」所長が優しく。「もちろん、個人の生活も大切にしてください」
「個人の...」理沙が首を傾げる。
「そう」所長がウインクする。「研究所の寮に、二人用の部屋も用意してありますよ」
「えっ!」二人の顔が真っ赤に。
所長室を出た後、二人は研究所の屋上へ。
「理沙さん」咲が夕暮れの空を見上げる。「私たち、ずっとここで...」
「ええ」理沙も空を見る。「でも少し不安で」
「私も」咲が理沙の手を握る。「でも、理沙さんと一緒なら」
理沙はポケットに手を入れる。そこには、昨日購入したリングケースが。
「咲さん」理沙が真剣な表情で。「実は...」
「あ!流れ星!」咲が空を指さす。
「もう」理沙が苦笑い。「大切な場面なのに」
「えっ?」
「咲さん」理沙がリングを取り出す。「私と、ずっと...」
「理沙さん...」咲の目が潤む。
その時、実験室から警報音が。
「また装置が!」二人が慌てて駆け出す。
階段を駆け下りながら、理沙が咲の手を強く握る。
「プロポーズの続き」理沙が真剣に。「後でいいですか?」
「はい!」咲が満面の笑顔。「だってこれから、ずっと一緒ですから」
研究所に響く警報音も、この瞬間は二人にとって最高のBGMに聞こえた。
第7話:成長の証
イギリスでの研究生活も1年。青木理沙と村上咲は、久しぶりの帰国発表を控えていた。
「緊張します」咲が会場の椅子で落ち着かない様子。
「大丈夫ですよ」理沙が咲の手を握る。「私たちの研究ですから」
その時、懐かしい声が。
「お帰りなさーい!」
振り返ると、中村翔子と山田健一が走ってくる。
「翔子さん!山田君!」
「まあまあ」翔子が二人の左手を見る。「お揃いの指輪、素敵ね」
「そ、それは...」理沙が赤面する。
「プロポーズ、大変だったでしょ?」山田が笑う。「理沙さんから聞いてます」
「えっ!」咲が理沙を見る。「どこまで...」
「実は」翔子がにやり。「警報で中断した後、三回も失敗したって」
「もう!」理沙が顔を隠す。「そんな細かいことまで」
「でも」咲が嬉しそうに。「四回目は完璧でした」
「咲さん!」
会場が二人の笑い声で温かくなる。
「あら」藤田教授が現れる。「皆さん、揃ってますね」
「先生!」
「発表の準備は?」教授が優しく尋ねる。
「はい!」咲が元気よく。「理沙さんと一緒に...」
その時、咲が資料を落とす。
「あ!」
「もう」理沙が拾い上げる。「緊張のせいですか?」
「ごめんなさい」咲が申し訳なさそうに。
「いいえ」理沙が微笑む。「これも咲さんらしくて」
「二人とも」教授が感慨深げに。「随分と成長しましたね」
発表が始まる。会場は満席。
「それでは」理沙が口を開く。「私たちの研究『論理と直感の融合—新たな研究アプローチの実践』について発表させていただきます」
咲との二人三脚の研究。海外での苦労と発見。そして—
「この研究は」咲が締めくくる。「人生最高の贈り物をくれました」
会場から温かな拍手が。
「素晴らしい」審査員が立ち上がる。「お二人の研究は、学術的価値だけでなく、研究者としての在り方にも一石を投じています」
質疑応答でも、二人の息は完璧に。
「まるでダンスみたい」翔子が囁く。
「研究者の夫婦漫才?」山田も小声で。
発表後、みんなで祝賀会。
「乾杯!」
「かんぱーい!」
「ねえ」咲が理沙に寄り添う。「私たち、これからどうなるんでしょう」
「それは」理沙が指輪に触れる。「一緒に見つけていきましょう」
「でも」咲が不安そう。「私、まだまだドジで」
「それがいいんです」理沙が断言。「咲さんは咲さんのままで」
「理沙さん...」
「ほら」翔子が二人の背中を押す。「新婚旅行は研究出張って手もあるわよ」
「翔子さん!」二人が真っ赤に。
「そうそう」教授も加わる。「ハネムーンで新理論なんて、素敵じゃないですか」
「先生まで...」
笑い声が響く中、窓の外ではサンセットが街を染めていく。
「ねえ」咲が理沙の耳元で。「やっぱり理沙さんと研究して、良かった」
「私も」理沙が咲を抱きしめる。「最高の研究パートナーに出会えて」
「研究だけ?」咲が意地悪く。
「もう」理沙が頬を赤らめる。「言わせないでください」
「だって」咲がくすくす笑う。「照れ屋な理沙さん、可愛いんです」
研究者として、そしてパートナーとして。二人の新しい物語は、まだ始まったばかり—。
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