第3話 派手下着もいいけどカルバンクラインの下着も良いよな!!!

 外ヶ浜さんが痴女犯の腕を掴むやいなや、あからさまに犯人は動揺して暴れ始めた。

 

 すると外ヶ浜さんの行動を見た人たちがすかさず犯人を抑え込む。さすがにこれでは多勢に無勢。あっという間に暴れていた犯人はおとなしくなった。


 しばらくして駅員や鉄道警備隊が来て犯人を連行していった。

 一方で一応被害者である俺は、軽く警察から事情聴取をされることになった。


 十五分くらい色々聞かれ、やっと警察から解放された。

 

 これは遅刻してしまうなあと呑気なことを考えていると、同じく事情聴取から解放されたばかりの外ヶ浜さんと目があった。


「大丈夫? 平くん、怪我とかしてない?」

「ああいえ、大丈夫……ってか、平山じゃなくて平川です」

「えっ、うそ、平山だと思ってた。間違えちゃうとか同じクラスなのに恥ずかしー……」

「まあ俺、クラスでもかなり地味な自覚あるから、気にしなくていいよ。むしろ俺のこと知ってたんだね、外ヶ浜さん」

「そりゃあもちろん、クラスの男子は全員名前覚えてるし」

「……早速間違えてたけどね」

「あはは……それはごめんごめん。もう間違えないから安心して、平川くん」


 外ヶ浜さんは両手を合わせ、おどけた様子で謝ってきた。

 

 ちょっとウインクしながらテヘペロというあざとさを見せるあたり、彼女は自分の容姿の良さをわかっている。

 元の世界でいうとルックスのいい男子がええ格好しいでキザな振る舞いをしている――ということになるのだろう。

 

 同じクラスとはいえ、あまりにも俺と外ヶ浜さんではカーストが違うので、お互いに言葉を交わすのは初めてだ。

 

 それなのにとてもフレンドリーに話してくる外ヶ浜さんの陽キャ特有のコミュ力というのは、さすがに俺も驚いた。不思議なことに、話していて壁を感じないのだ。


 男女の貞操観念が逆転したとはいえ、外ヶ浜さんはモテるのだろう。ルックスもコミュ力も圧倒的過ぎる。


 そんな外ヶ浜さんの姿に思わず俺は見惚れてしまっていると、左手首に身に着けていたスマートウォッチがブルルと震えた。


 何かメッセージでも来たのかと思い、すぐさま通知を確認する。するとそれは、クラスメイトで仲のいい友人である、藤崎ふじさき晴人はるとからのショートメッセージだった。


『朝陽、今どこにいる? そろそろホームルーム始まるけど、もしかしてまだ体調悪い?』


 俺は通知を消してスマートウォッチで時刻を確認すると、もう遅刻十分前――すなわち、徒歩ではほぼ間に合わない状態になっていることに気がついた。


 とりあえず晴人には「色々あって遅れる」とだけ返し、お叱りを受けることを覚悟して学校へダッシュで走ることにした。

 すると、慌てて走りだそうとする俺を見た外ヶ浜さんが声をかけてくる。

 

「平川くん、これに乗ってく?」

「えっ、外ヶ浜さんそれって……自転車じゃ……」

「うん。二人乗りしない? これならギリギリ間に合うっしょ」

「だ、だけどそれは……」

「いいからいいから、痴女被害にあったのに遅刻で怒られるとか最悪じゃん? だから乗ってきなよ、ほら早く早く」


 そう言われてしまうと断る理由もないなと思い、俺は外ヶ浜さんの自転車の荷台に乗ることにした。


「ちゃんと掴まっててねー。振り落とされたら怪我するから」

「わ、わかった」


 掴まるために外ヶ浜さんの腰に手を回そうとしたところで思いとどまる。 

 貞操逆転世界とはいえ、自分は元の世界の住人。女子の細い腰を持つというのはやはり抵抗がある。

 

 しかし掴まらないのは危険なので(そもそも二ケツの時点で危険なので皆は真似しちゃダメだぞ)、自分が腰掛けている自転車の荷台を掴んだ。

 なんだかその瞬間、外ヶ浜さんから残念そうなため息が聞こえたような気がしないでもなかったが、俺は何も聞かなかったことにした。

 

 俺が乗ったらかなり漕ぐのが大変になるはずなのに、外ヶ浜さんは軽々と漕いでいく。

 陽キャラ一軍女子は脚力もあって運動神経もいいのだなあと、彼女のスペックの高さを羨んだ。

 

 途中、やや坂がきつくなるところがあったが、外ヶ浜さんはギアを軽くして、さらに立ち漕ぎをすることで難なく進んでいく。


 だがその立ち漕ぎをした瞬間、彼女のスカートがふわりと翻ってしまう。


 その布切れの向こうには、外ヶ浜さんのお尻が見える。

 ちょうど俺の視界に彼女のパンツが入るという状態になってしまったのだ。

 

 外ヶ浜さんの今日のパンツは案外地味なものだった。

 色はグレー、ウエスト部分にブランドのロゴがあって、綿で出来た肌触りが良さそうなやつ。

 後で知ったが、『ロゴテープショーツ』とか言うらしい。カルバンクラインのやつ。


 元の世界でも外ヶ浜さんがこういう下着を好むのか、それとも貞操逆転して下着に執着がないことが女子の当たり前なのか、どちらかはわからない。

 ただ、俺にとっては美味しい状況であることに変わりはない。


 派手でエロティックな下着ももちろん良いが、実はこういう地味で生活感のあるものも俺の男心に刺さってくる。

 外ヶ浜さんのお尻から太ももにかけてのボディラインや肌もかなりきれいで、まるでモデルさんのようだ。


 うわぁ……こ、これは……見ちゃってもいいものなのか……?


 少し罪悪感が湧き、俺はパンツが見えていることを外ヶ浜さんに指摘しようか迷った。しかしここは貞操逆転世界だということで、黙ってありがたく拝見させてもらうことにした。


 特に彼女は見えていることに対して気にしていないようだ。それなら存分に見ておいたほうがいい。

 元の世界だったらこんなスクールカーストの高い女子のパンツなど絶対に拝めなかったのだ。見ておかなければ勿体ない。


 ふと、自転車がよろめきそうになる。

 荷台に捕まっていた俺は、さすがにこれだけでは揺れに耐えきれず倒れてしまうと思い、無意識のうちに外ヶ浜さんの腰を抱えてしまった。


 ……うっわ、外ヶ浜さんの腰、細っ! 


「ご、ごめんごめん、ちょっとハンドル取られちゃった。だ、大丈夫?」

「うん、大丈夫。こっちこそ突然掴まってごめん」

「だっ、大丈夫ならいいんだ。もうちょっとで着くからさ」


 なぜか外ヶ浜さんは申し訳ないというよりかは恥ずかしさが勝っている感じだった。


 元の世界で考えてみたら、自転車の後ろに座る女子が漕いでいる男子の腰に捕まるようなもの。

 それを想像すると、ちょっと青春っぽくて気恥ずかしくなる気持ちは俺も理解できる。


 ……にしたって、やけに外ヶ浜さんが挙動不審なのは気になるが。


 気を取り直して凛々亜は自転車を漕ぎすすめる。

 俺は結局最後まで視線が外ヶ浜さんのお尻に釘付けになったまま、遅刻寸前ギリギリで学校に間に合った。


「はぁっ……はあっ……なんとか間に合ったね」

「だ、大丈夫? 外ヶ浜さん」

「これくらいヘーキヘーキ。い、一度男子を自転車の後ろに乗せてみたかったから、ちょうどいいよ。あはははははは」

「そ、そう? それならいいんだけど……」


 外ヶ浜さんは息を切らしながら、嬉しそうに笑顔を見せる。しかしやはりちょっと挙動不審なのが怪しいが。

 彼女なら男子との二人乗りくらい何度も経験ありそうなものだが、まあ危険な運転でもあるので普段はやらないのであろう。

 

「そうだ、色々助けてもらったし、外ヶ浜さんに何かお礼をさせてよ」


 俺は感謝の気持ちを込めて、外ヶ浜さんにお礼がしたいと意思を伝えた。

 しかし彼女はそんなことを言われると思っていなかったのか、さらに動揺していた。


「い、いやいや、全然気にしなくていいって。そ、それにお礼って言われてもそんな大したことしてないし?」

「ううん、外ヶ浜さんがいなかったら俺どうなってたかわかんないしさ。お礼のこと、何か思いついてからでいいから、させてほしい」

「わ……わかった、覚えとくね……。そ、それじゃお先にっ……!」


 なぜか外ヶ浜さんはとても恥ずかしがった様子を見せて、そそくさと教室へ駆けていった。やっぱりどこか挙動不審だ。

 まあ、カースト上位の女子のことなど考えても仕方がない。

 

 そう思い、俺は遅刻しないよう彼女のあとを追いかける。

 

 外ヶ浜さんの頑張りもあって、なんとかホームルーム開始のチャイムが鳴る前には席につくことができた。

 俺の後ろの席に座っている親友の晴人も、ギリギリ間に合ったことに安心していた様子。


 朝から色々あったけれども、気を取り直して今日も頑張ろう。

 何事もなかったように今日の授業が始まる。

 

 しかしこのときの俺は、外ヶ浜凛々亜から熱っぽい視線を向け続けられていたことにまだ気づいていなかった。

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