第13話 バトル展開
当然、決闘なんてしたことのない僕は勝手がよくわからず、とりあえず果たし状を書いて間男野郎の机に置いておいた。たぶん名前書き忘れた。決して、土壇場でビビったときの逃げ道を用意しておいたわけではない。本当だ。
「おい、お前だよな、これの差出人」
放課後、華乃さんには京子を精神科に連れていってもらっているため、僕は一人、自分の席に座っていた。ちなみに午前中行った消化器内科の先生には怒られてた。胃潰瘍で吐血したから急遽診てもらったのに目の前でブラックサンダーバリボリしてたんだから当たり前だ。
「おいって。無視するな。確か……一太とかいったよな。あの女の彼氏の。お前だろ、これ書いたの」
後ろから肩を叩かれて、僕はその男を見上げる。無駄に大きな手と無駄に強い叩き方だった。普通に痛かった。そして見上げた先にいた男もやはり無駄に大きかった。無駄に顔が怖かった。
そんな喧嘩最強と噂の大男に、僕は堂々と言い返す。
「ち、違いますが? 名前でも書いてあったというんですか? 僕の名前をうろ覚えだということは僕の名前は書かれていなかったということですよね? あ、そういえばさっき文芸部の斉藤君が郷土君の机周りでウロウロしていた気が、」
「斉藤ならさっきまで俺とトイレ掃除の当番こなしてたんだが。ていうかお前が俺の机にこれを置くところ見てたからな、俺」
くそぉ、こいつ、見てたなら見てたと最初に言え、この卑怯者めが……!
最強の不良であり、僕の大事な彼女を寝取った間男――郷土豪樹は、今日も今日とてとても怖かった。近くに立たれるだけで手足が震えてくる。ちなみに今日は普通にワイシャツ姿だ。逆に僕がTシャツ姿である。幼なじみに血を吐かれたからだ。
「ま、まぁ、置いたといえば、置いたとも言えるかな。中身を書いたのが僕だという証拠はどこにもないわけだけど、」
「いい、恥ずかしがるな。名前書き忘れたんだろ」
淡々とした、しかし確かな迫力を孕んだ声で、郷土は僕の説明を遮ってくる。僕を見下ろすその顔は無表情のようでいて、しかし、鋭い双眸には、どこか楽しげな光が灯っていた。
「え、いや、書き忘れっていうか、」
「わかるぜ。果たし状なんざ、今どき書く機会もねぇしな。俺だって昔からさんざっぱら喧嘩はしてきたが、そんなもん書かれたことも、もちろん書いたこともねぇ。そもそもいつからか、闇討ち・不意討ち・複数での取り囲みみてぇな、ダセェ真似してくる連中を追い払うだけになってたしな。タイマン自体、久々だ」
経験自体はあるのかよ。普通の人間はまず怠慢以外の意味でタイマンなんて四文字を発声する機会すらないんだよ。ついでに言うと、闇討ち・不意討ち・複数での取り囲み、もな。
「だが、こういう筋を通したやり方は嫌いじゃねぇ。ま、名前どころか、呼び出し場所すら書いてねぇのは間抜けが過ぎるがな」
それは単に決闘なんてどこでするものなのか見当すらつかなかったからだ。あの体育館裏とか適当なところで待っておいて、誰も現れない時間を過ごし、「ふっ、僕にビビって逃げたか。これは僕の勝ちだな」って感じで自分を無理やり納得させる魂胆だったわけでは決してない。本当だ。
「ハッ、こんなドジ彼氏じゃ、彼女に軽く転がされちまってんのも当然だな。あの女のあの意地の悪ぃからかいは、お前が仕込んだってわけか」
「――――っ!? ……テ、テメェ……!」
強面に初めて浮かぶ、挑発的な笑み。その発言で、僕の頭に急激に血が上る。体の震えは止まらないが、その原動力は、恐怖から怒りに変わっていた。
こいつ、やっぱり……! 今の発言の「からかい」を適当なエロワードに置き換えれば、丸っきりNTR漫画の間男キャラのセリフみたいだ……! やはりこいつも華乃さんとの「からかい」をセックスと捉えた上で、それを意図的に僕から奪い取ったのだ……!
許せねぇ……! ビビってる場合じゃない……! 今すぐにでも、こいつをぶっ倒して、華乃さんを不良の魔の手から救い出すんだ!!
「お、いい目じゃねーか。お前に……いや、一太。一太に、場所の希望がねぇっていうんなら、俺に任せろ。この時間なら邪魔も入らねぇ、いい場所がある」
「お前を全力で殴れるんならどこでも構わない。ちなみに僕は徒歩通学で交通費に使えるお金も持ってないということは伝えておこう」
京子のタクシー代と診察代とブラックサンダー補充代で消えたからな。お薬代は前回処方された分を京子が全く飲んでいなかったおかげで必要なかったのが不幸中の幸いだった。めっちゃ怒られてた。なぜか僕まで怒られた。納得いかん。
結局、郷土のバーグマン400とかいう愛車に二人乗りさせてもらって目的地まで向かった。何だこれ。
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