Episode6:図書館

幽立図書館、そこにはあの世で執筆されたありとあらゆる種類の書物が集められていた。

小説から歴史書、皇帝を称えた聖典にいたるまで、全てがその巨大なアーチ型の建造物に揃っていたのだ。優雅な弧は、まるで虹のようだったが、見た目は歴史を感じさせる、頑丈なレンガ造りであった。僕らは、幽霊ゲットーからプスンプスンという音を出すおんぼろバスに30分ほど揺られ、その図書館に着いた。最初に僕が見たのは、半径百メートルほどもあろうか、アーチによって形作られた半円の穴だった。その下には昔風の街が広がり、市場などが広がっていた。その光景は、まさにこの世ではあり得ない、驚異そのものだった。一体どんな仕組みでこの図書館は倒れずに、地と固定されているのだろうか?

きっと、あの世には相当優秀な大工がいるのだろう。


僕らは、アーチの右足部分から不思議なエレベーターに乗り(何しろ斜めに動くのだ。それは、観覧車のようだったし、暇をしないようにエレベーターの壁が本棚になっていた)、まずは図書館の中で運営されているカフェに立ち寄った。

僕はそこでカフェラテをたのみ、ミアは甘い紅茶フラペチーノ、ミホは苦いホットコーヒーを注文した。

「どんな本が読みたい?」

ミアはストローでクリームをかき混ぜながらそう聞いた。

僕はシロップを入れ、同じようにミルクとコーヒーを混ぜる。

「うーん。どんなジャンルでもいいけど、できれば小説がいいな。僕、物語が好きなんだ。」

ミアは頷く。

「じゃあ、よく読んでいたのはどういう物語なの?」

僕はカフェラテを少し口に含む。

「うん、僕がよく読んでいたのは、ちょっと不思議な海外の幻想小説が多かったよ。あと、日本の文学も斬新で好きだったな。」

「うーん。」

彼女は片手で緑色の下ろした髪をいじりながら、スマホで何かを検索する。

そして、僕にその画面を見せる。

「そういうのだったら、この階に行ってみて。一人の方が集中できると思うから、私とミホは別のところでそれぞれ過ごしてる。」

すると、ミホがミアの髪をいじり始める。

「ねぇねぇ。」

「ん?」

「ここって、漫画はないの?

私、小説があんまり得意じゃないんだけど...」

すると、ミアはグーサインをする。

「大丈夫、漫画もあるよ。

幽玄街道には、人気の漫画雑誌があるから、そこで連載されてるのを読めば?

まあ、ハズレはないわよ。」

「やった!」

ミホは嬉しそうに頷く。

ミアはしばらく美味しそうに混ぜ合わせたフラペチーノを飲み、やがて言った。

「私は屋上にある劇場で映画を見てるから。

みんな、キリが良くなったら集合ね。

まあ、何時間本を読んでてもいいけど。

この図書館、普通じゃないから。

読めるだけ読んで、満足したら出てきな。」

「うん。」

僕とミホは首を捻る。

普通じゃない?それはどういうことだろう。

僕はエレベーターに乗って、ミアが教えてくれた階に向かった。本棚に置いてあった本(全部難しそうな論文だった。他のエレベーターもみんなこうなのだろうか?)は読まずに、ガラス窓から外の景色を眺めた。どこまでも緑の芝が広がり、奥には青っぽい山脈が見える。あそこには、どんな景色が広がっているのだろう?果たして、この図書館は見えるのだろうか。僕はそんなことを思いながら、一人しかいないエレベーターの中で口笛を吹いた。

エレベーターを降りると、そこには長い廊下が伸びていた。天井からは橙色のランプが吊るされ、スピーカーから心地の良いクラシック音楽が流れていた。床には朱色の布製カーペットが惹かれ、遥か遠くが突き当たりになっていた。壁にはいくつもの扉が設置され、上には金属製のナンバープレート(おそらく部屋番号だ。どれも、てんでバラバラな番号だったが)が釘打ちされていた。そして、なぜかわからないが、各扉には様々な大きさ•形の時計が埋め込んであった。デジタル式のモニター時計もあれば、骨董品のような錆びれた振り子時計もあった。念の為、僕は近くにあった扉を全部確認してみたが、それらは全部同じ『11時20分』という時間を指し示していた。僕はスマホを開いて確認する。間違いない、確かに今現在の時刻だ。僕がドアノブに手を触れると、『スマートフォンの電源をお切りください。室内では、スマートフォンの使用が禁止されています。』というアナウンスが流れたので、僕はボタンを長押ししてスマホの電源を切った。すると、カチャっと鍵の開く合図がしたので、僕はドアを外側に開いて、部屋の中に入った。

ドアの先に広がっていたのは、天井が低く、広がりのある平らなフロアだった。それはもはや部屋という大きさではない。入り口の自動ドアの前には、本の貸し出しフロントがあり、モニターには、『これより先、私語厳禁』という文字が表示されていた。フロントのポニーテールの女性は、僕が来ても目も向けず、熱心に文庫本を読んでいた。自動ドアを通って中に入ると、驚くべきことに、天井、本棚、壁、床の至る所に本が並んでいた(床はガラス張りになっていて、かがめば好きなところから本が取り出せるようになっていた。)他にも、本棚の並んでいないスペースには、なぜか段ごとにライト付きのベッドが並べられており、そこに寝そべりながら本を読んでいる幽霊たちがいた。豪華なソファーがあったり、気温もちょうど良く、物音は一切しなかった。もちろん、フロアの隅には防音ガラスで区切られたレストランがあり、そこでは女性たちが紅茶とスープ、サンドウィッチを嗜んでいた。これじゃあまるで、小さなホテルだ。僕はそう思いながら、四方を囲む本の群れを眺めた。

そこには、実にたくさんの種類の文学作品が揃っていた。聞いたことのない題名の童話、ファンタジー、幻想文学がぎっしりと敷き詰められていた。作者の名前は全て、どこか聞き覚えのあるものばかりだった。僕は、空気の間を漂う本の匂いに酔しれながら、気になった本を次々と集めた。そして、空いていた二段目のベッドで寝そべりながら、時間も気にせずそれらを読んだ。やがて僕の体の中には読書中毒者だった頃のリズムが戻り始めた。僕の身は読書をするためだけに機能し、心は常に本の中の空想世界に飛び立っている。その世界で、僕は溢れんばかりの幸せを噛み締めていた。そして、気がつくと僕は眠ってしまっていた。きっと、本を読むのに疲れてしまったのだろう。数時間ほど眠っただろうか。そろそろ、読書を再開しよう。その時、僕は思い出す。そうだ、ミアたちと待ち合わせをしていたんだ!僕がずっと来ないから、二人は怒って帰ってしまったかもしれない。僕は急いで本の山を元あった場所に戻し、早歩きで自動ドアを潜り抜けた。フロントの女性はまだ文庫本を読んでいたが、僕は気にせず慌ててドアノブを回した。ドアを開くと、やはりそこには廊下が広がっていた。僕がしばらく呆然と立ち尽くしていると、フロントの女性が「早く閉めてくださーい!」と叫んだので、僕は驚いてドアをがしゃんと閉めた。ドアを閉めると、僕は目の前の時計を見た。相変わらず、余計な装飾のないシンプルな時計だった。しかし、それを見て、僕は冷や汗を垂らした。時計の針は、入る前と同じように『11時20分』を指し示していたのだ。僕には訳がわからなかった。一体、どういうことだ?僕が図書室の中にいる間、1分も時間が経過していないというのか?僕は首を振る。いやいや、そんなはずがない。きっと僕は、自分でも気づかないうちに多くの時間を読書に費やしてしまったのだろう。本を読んでいる時、僕にとって時間の流れは物語の中の世界に委ねられる。もちろん、その世界は現実とは時間の進み方が違う。ある時には、それは人の一生であったり、何年もの時間を跨いで交差するものであったり、あるいはほんの数分間の出来事だったりする。本の世界と現実の間には、時間のギャップがある。それはまるで相対性理論のように、感覚世界での時間の歪みをもたらすのだ。だから、僕が現実で流れていた予想以上の長い時間に気づけなかったのも、仕方がない。うん、仕方がない。あるいは、僕はぐっすりと眠りこけてしまったのかもしれない。僕が寝ていたのは、ほんの数時間ではなく、ちょうど12時間ほど、または丸一日だったのかもしれない。ガラス窓のない図書室からは、外の景色が見えなかったから、空の明るさで時間を判断することができなかった。でも、そうするとフロントの女性は1日ずっとあの文庫本を読み続けていたのだろうか?僕は再び首を振る。いやいや、そんなはずはない。きっと、僕の寝ている間に、一度家に帰って、また出勤してきたのだろう。

僕は、時間を確認するためにボタンを押して、スマホの電源をつけた。すると、明るいスマホの画面に表示されたのは、僕が入った時と同じ日付の、やはり『11時20分』だった。僕は訳がわからなくなって、頬に指を当てて考え込んだ。うーん。スマホが壊れてしまったのだろうか?僕はスマホの時間設定を見直してみたが、どうやらそこに異常はないようだった。僕は首を傾げたが、自分が急いでいたことを思い出し、到着したエレベーターに慌てて駆け込んだ。エレベーターの中で、僕はミアたちからのメッセージが届いているかどうかを確認した。でも、チャットアプリには何の通知も届いていなかった。いくら遅すぎる僕に呆れたのだとしても、普通、それまでにメッセージの一つくらいは寄越すはずではないか?僕は疑問に思いながら、窓の外の(来た時とほとんど変わらないように見える)風景を眺めた。

エレベーターの扉が開き、僕は前にみんなで来たカフェに戻ってきた。そこでは、相変わらず幽霊たちがコーヒーを飲んだり、菓子を食べたりしていた。僕は3人で座っていたテーブル席を確認してみたが、そこには誰も居なかった。僕はため息を吐く。はあ。きっと、僕が遅すぎるのを見兼ねて、二人は先に幽霊ゲットーに帰ってしまったのだ。僕はとりあえずアイスコーヒーを頼んで、ケースの中にあったプリンをとった。そして、窓の先に広がる山脈を眺めながら、それを食べた。

しばらくして、後ろから僕の背中を叩く手があった。振り向くと(最初は誰だか解らなかったが)そこには白いツインテールのミアがいた。彼女はフラペチーノを飲みながら、何気ない様子で僕に話しかけてきた。

「おはよう、待った?」

待った?僕にはその言葉の意味がわからなかった。なぜ、僕がミアのことを待たなきゃいけないのだ?

「待ったって、それはこっちのセリフだよ。

僕は何時間も図書室の中にいたんだよ。

ミアも僕と同じようにずっと映画を見ていたの?」

ミアは少し首を傾げたが、やがて何かを理解したという風にパチンと手を合わせた。

「そうか、キミはまだこの図書館の仕組みを知らないんだった!ごめんごめん。」

ミアは僕の隣に座って、フラペチーノをかき混ぜる。

「前も言ったと思うけど、この図書館はね、普通じゃないのよ。時間の流れ方が特殊なのね。あの時計付きの『扉』を通ると、そこから私たちは別の次元にワープするの。まるで、宇宙船が銀河を渡るようにね。だから、あの扉の中の部屋で私たちが何時間過ごしても、そもそも次元が違うから、現実では少しも時間が経っていない、ってことになるの。

どう?私の言ったこと、わかった?」

僕は感心して、頷く。

「なるほど、だから時計の示す時間は変わらなかったのか。スマホも壊れてなくてよかったよ。それにしても、すごい仕組みだなぁ。まるで、『浦島太郎』みたいだ。」

ミアは首を傾げる。

「なぁに、それ?」

僕は笑う。

「いや、何でもないんだ。」

やがて、すぐにミホもやってきた。

彼女は、夜も眠らず、すごい量の漫画を読んだらしく、目の下に黒いクマができていた。

彼女は興奮した様子で言った。

「すごい。ここは天国?あの部屋には私の知らない面白い漫画がたくさんあって、ハラハラしながらどっぷり王道の世界に浸かることができた。悲しいシーンで感情がぐちゃぐちゃになったり、敵を倒してまるで自分のことのように喜んだり、久しぶりに小学生の頃に戻ったような気がしたわ。」

彼女があまりにも楽しそうに話すので、僕も久しぶりに漫画が読みたくなってきた。

ミアは呆れたように、

「キミ、クマがすごいけど大丈夫?

漫画の読みすぎよ。苦いコーヒーなんか飲まず、ちょっとくらいここで寝たら?」

と言った。

すると、ミホは血走った目で「うん、そうする!」と言い、すぐにテーブルに突っ伏して眠り込んでしまった。

僕は苦笑いをしながら、ミアに尋ねる。

「そういえば、ミアはどんな映画を見ていたの?確か、劇場に行ってたんだよね?」

ミアは目をキラッと輝かせながら答える。

「うん、そうよ。私は映画においてはくだらないB級映画が大好きで、特にサメが空を飛んだり、トイレの中から出てきて人を襲ったりするのが好き!あと、安っぽい着ぐるみとCGを使ったゾンビ、宇宙SFモノもいいわね。ああいうのをみると、あの世にいて良かったー!っ思うのね。」

僕は反応に困ってしまい、ただ「へー、そうなんだ」と言うしかなかった。なるほど、あまりにも少女らしからぬ嗜好だ。

「でも、劇場って、映画だけが上映されてる訳じゃないよね?この世だと、演劇とか、オペラとかも催されたりするけど...」

ミアはにっこりと笑う。

「もちろん、どちらもたっぷりみてきたよ。

悲劇の恋物語を観て、自分ごとのように泣いちゃった。私もまだまだ、涙脆いわね。」

僕はコーヒーを啜る。やれやれ。ミアはやっぱり変わってるな。

それから、僕らは何度もその図書館に通うようになる。なにしろ、無限の時間を過ごせるのだから、自分の中でしっかりとけじめをつけておかないと、部屋から出られなくなってしまいそうだったが、幽霊たちは、みんな自由気ままにその図書館を利用しているようだった。

「ここは、貴族の中でもかなり良心的な慈善家が建てた図書館だから、貧民層の幽霊たちでも無料で利用することができるの。だから、幽立図書館は私たちにとって、生活の中でも唯一の気楽に行ける娯楽施設なの。私は、《メタファー》と戦えるから人間の世界を楽しむこともできるけど、普通の幽霊はみんなここの存在をモチベーションにして、毎日暮らしているわ。」

僕は聞いてみる。

「でも、こんなに楽しいところなら、みんなずっとここで暮らそうとするんじゃないかな。だって、わざわざ辛い現実に戻る必要ないじゃん。」

ミアは残念そうに首を振る。

「それはないわ。」

僕には理解ができない。

「なぜ?」

彼女は言う。

「なぜなら、ずっと現実から目を背けることはできないから。いくら時間が経たないと言っても、ずっと本や映画を見続ける暮らしなんて、それはそれで辛いものなのよ。きっと、キリがなくなっちゃうのね。永遠というのは、ある意味ではすごく恐ろしいものなの。だから、しばらくするとみんな自然にここを出てしまうのね。現実が辛いと分かっていても、ある時ふとそんな現実が恋しく思えてくる。だから、みんな時々ここに来るの。辛い現実に疲れた時とか、息抜きがしたくなった時に。」

なるほど、と言いたいところだったが、僕には彼女の言っていることが理解できなかった。ずっと本が読めるなら(空想の世界に閉じこもれるなら)、そんなに幸せなことはないじゃないか、僕はそう思わずにはいられなかった。

僕は、無限の時間の中で本を読み続けた。

本を読むのは楽しく、もはや僕は活字を見ただけで、物語の景色が心の中に思い浮かぶようになっていた。いっそのこと、このまま全ての現実を捨てて、この図書室に篭ってしまおうとも思った。読書中毒的思考。それは、今の僕にとって、何よりも正しい真理のように、啓示を与えてくれるものだった。

でも、ある時、僕はあの世について書かれた古い書物をみつけた。そこには、このように書いてあった。

『あの世に宇宙は存在しない。

あの世は、生命が存在してこそ(そして、肉体の消滅があればこそ)成り立っている世界である。しかし、現在まで「この世」では地球以外に生命の住む惑星は見つかっていない。したがって、あの世はこの地球上にしか存在しない。悲しきことに、あの世にロマンはないのだ。宇宙は、すべての存在にとってのあこがれであり、終わりであり、はじまりの場所だというのに。宇宙は未だ解明されない未知の世界であり、人間の作った宇宙船は今も太陽系のどこかを飛び続けている。』

それを読んだ時、僕の中で何かが押し留められた。まるで、巨大な河川が人間たちの造ったダムに、その流れを堰き止められるように。『何だ、これは?』

オーケー。もう一度自分の中で考えてみよう。どうせ時間はたっぷりあるんだ。

うん、本を読むのは確かに楽しい。物語の世界は僕にとっての楽園であり、そこでは永遠の幸せを享受できる。しかもここはあの世だ。寿命で死ぬことはない。『でも。』

でも、このままじゃキリがないじゃないか。僕は、このままここで本を読み続けるのか?

本の読み過ぎで容量オーバー、心が爆発するまで、あるいは狂気で頭がおかしくなるまで、僕はずっとここに籠るのか?

『違う。』

それは、何か『人として』おかしい、

そうだ、本を読むだけでは何も進歩しないじゃないか。僕は、既存の物語(世界)だけに浸っていたいのではない。自分だけの新しい物語に出会いたいのだ。僕にとっての未知、僕だけの宇宙、僕が生み出す始まりの小説。

人は、前に進まなくてはいけない。

そして、僕は覚醒する。

僕の心の中に眠っていた「何か」が、本を読みたいという欲望を凌駕し始めた。

そうだ。僕は目覚めなければいけない。

『僕は、小説を書かなくてはいけない。』

それからというもの、僕はものすごいスピードで小説を書き始めた。僕の心の中には、圧倒的なインスピレーションが次々と浮かび上がり、僕はそれらを確実にがっしりと捕まえた。世界は僕の周りで回転し、僕が全ての中心だった。僕は現実と空想を、まるでミキサーにかけるみたいにかき混ぜ、それらのジュースを全て飲み込んだ。仮想を事実に塗り替え、幻想を現実に変化させた。僕は、どこまでも書き続ける。僕の知らない物語が、僕の中から溢れ出る。そこには、真理があり、夢があり、背反と安寧が同時に存在している。

恋も、SFも、文学も、ファンタジーも、歴史もエンターテイメントも、全て取り込む。僕は、イデアの暴走だ。あるいは、メタファーとしての竜巻だ。そして、時間の感覚などとうに忘れ去ってしまった時、その小説は完成した。

「できたよ。」

僕はミアに、数千枚にも渡る原稿用紙をまとめて手渡した。ミアは、その膨大な厚みに少し驚いたようだったが、無言で頷くと、その原稿をバッグの中に丁寧にしまった。

ミホは

ずっと部屋にこもって漫画を読み続けた。

ミアは、映画館に篭ってその小説を読んだ。彼女は、映画館の暗闇が何よりも自分の想像力のスパイスになるのだと言った。

B級映画の騒音も気にせず、ミアは僕の小説を読み続けた。

「うん、これでいいよ。」

ミアはそれだけ言って、僕に小説を返してくれた。僕としては、彼女の感想を聞きたかったが、彼女は何も言わずに首を振った。

『そんなの、言葉で表現しちゃいけない。』

彼女はまるでそう言っているようだった。

ちなみに、

ここまで計五分間の出来事である。

やがて、ミホはげっそりとした顔で戻ってきた。彼女は言った。

「もう、漫画は懲り懲り。」

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