治癒術士のボクがダンジョンから脱出を目指す、だが仲間がなんかおかしいし、気がつけば世界は救われる?

KaZuKiNa

ダンジョンを脱出出来るだろうか

第1ターン目 治癒術士は逃げ出した しかし 回り込まれた 

 どうしてこうなったんだろう?

 泣き叫ぶのは簡単だ。でもそれで現状はなにも変わらない。

 時として神は人に困難を与えると仰った。

 ボクの前に立つこれも神の与えたもうた【困難クエスト】なのでしょうか?


 「ギャオオオオオオオオオオオン!!」

 「ド、ドラゴン……!?」


 ――ダンジョン第四層、本来ならばそこに【レッドドラゴン】などいる筈がない。

 その日治癒術士ヒーラーのボクは仲間と一緒にダンジョンへと挑んでいた。

 ダンジョンには、ここでしか産出しない貴重な魔石や回復薬などの材料になる魔草まそうなどの恵みがある。

 それらを採取し、時に危険な魔物モンスターと戦うのが、ボク達冒険者だ。

 

 今日も途中まではダンジョン探索も順調で、無事終わる筈だった。

 なのに……!

 

 「ギャオオオオンッ!」

 「て、撤退だ撤退ーっ!」


 視界が煌々こうこうと赤く染まる。

 せ返るような刺激臭、レッドドラゴンが放つ《炎の息吹ファイアブレス》は粘性を持ち、ダンジョン内を焼き尽くす。

 ボクはそれだけでむせて咳き込み、目の前の恐怖に足は震え竦んでいた。

 レッドドラゴンは大きなマグマ石を思わせる巨体で動く、鋭いつめが振り上げると、パーティーのリーダーである戦士が号令を出し、仲間達は一斉に逃げ出す。

 ボクも当然、背中を向けて逃げ出した……でも。


 「グオオオオオオオン!」

 「う、うわぁぁあ!?」


 レッドドラゴンの振り下ろした爪が、ボクの横を砕き割る。

 ボクは衝撃に怯むと、前のめりに転んでしまう。

 ズシン、ズシン。その赤い巨躯は酷くゆっくり動いているように思えた。

 でもそれは、走馬灯の前の光景だろうか。

 あまりの死への恐怖が感覚を鈍化させているのだろうか。


 「いかん治癒術士殿が!」

 「駄目だ行くな! お前まで巻き込まれるぞ!」


 森人エルフ斥候スカウトが足を止める。

 でも戦士はその手を掴むと、引っ張った。


 「ええい離せ! 仲間を見殺しにする気か!?」

 「だからってどうにもならないでしょ!?」


 エルフに意見したのは魔法使いの少女だ。

 しかり、弱小に過ぎないこのパーティーではレッドドラゴンに挑むなど愚の骨頂。

 当然彼らの選択は正しい。

 ボクという犠牲さえ無視すれば、だけれど。


 「あ、ああ、あ……」


 巨大な影がボクの頭上から覆い被さる。

 レッドドラゴンは丸太のような腕をボクに向かって振り下ろした。

 ボクは必死にあらがうように錫杖しゃくじょうを盾に構える……が。

 ズガァァン! 土煙が昇る。視界が一瞬で奪われた。

 直後、足元が大きく揺れる。

 逃げることもままならないまま、ボクはただ最悪の結果にみっともなく泣き喚くしかなかった。


 「うわあああああっ!?」

 「治癒術士殿ーっ!」

 「にゃん!」


 黒猫が一匹こちらへと疾駆する。

 【使い魔】はもう見てられないと、主人であるボクの下へと駆けてきた。


 「もう本当に、世話がける主人だにゃ!」

 「クロッ、助け――え?」


 直後、ボクの周囲が地鳴りをあげながら崩れる。

 ここはダンジョン、なにがあるかもわからない未知なる場所。

 人々はダンジョンから這い出る魔物モンスターの脅威に晒されながら、ダンジョンがもたらす富に預かり、冒険を繰り替えす。


 うだつの上がらない治癒術士ヒーラーのボクもまた、大きな夢がある訳じゃないけれど、ダンジョンに挑んだ冒険者の一人だ。


 「うわ、落ち……わあああああ―――――!」


 レッドドラゴンが粉砕した床に出来た大穴、奇しくもボクはその大穴に落ちてしまう。

 真っ逆さまになりながら、ボクは真っ黒でなにも見えない底を見つめる。

 あぁなんて呆気ない最期だろうか。

 最期なんだから落ち着けというのに、ボクはみっともない命乞いばかりしていた。


 「死にたくない! 誰か助けてーーー!?」




          §




 薄暗い洞窟の中、ダンジョンの中はほのかに青く発光している。

 多数の魔物が徘徊する中、遠くから人の悲鳴が聞こえたのだろうか。

 そしてその声に一匹のが反応した。

 ガション、ガション。

 全身を古臭い鎧で身を包んだ【彷徨う鎧リビングアーマー】が音のする方へと駆けていった。


 「ふんふんふーん」


 中身の無い内側から鼻歌を歌いながら。

 なんとも呑気な雰囲気、しかし悲鳴は急速に近づいていた。


 「――ぁぁぁぁあああああ!? ぱぎゅ!?」

 「うわあ……」


 随分と情けない悲鳴を上げた白い法衣ローブを纏った少女のような少年(?)が降ってきた。

 リビングアーマーは思わず頭上を見上げる。

 大穴が空いており、運悪く冒険者が一人危険なダンジョンの深層へと落ちてきたのだ。

 少年はつぶされた蛙のようになって動かない。


 「……ちょんちょん」


 リビングアーマーは落下の衝撃で仰向けに倒れた少年を指で突く。

 生存確認だ、勿論罠の可能性もあるが。


 「生きてる。良かったー、でもよく無事だったねー」


 少年は恐怖のあまり気絶しているだけだった。

 無理もないが、しかしどうして無事なのだろう。

 その疑問は、少年の下にあった。


 「ふにゃあああ……」


 黒猫だ。ダンジョンには似つかわしくない黒猫が少年の下敷きになっていた。


 「使い魔?」


 きっと使い魔が主人を守るために力を使ったのだろう。

 だが力及ばず、二人してノックダウンだ。

 リビングアーマーはやさしく少年を仰向けにすると、そのあどけない顔を見た。


 「この子……ううん」

 「グルルルルル」


 少年の顔になにかあったのだろうか、しかしリビングアーマーは首を横に振った。

 熊のようなモンスター【グリズリー】が近づいてくるからか。

 リビングアーマーは後ろを振り返ると、グリズリーの後ろには巨大なカマキリの魔物や、巨大粘液の怪物までいた。

 獲物を求めて危険な魔物が集まりつつあるようだ。

 リビングアーマーはさやに挿していた剣を抜く。


 「食べちゃいたいくらい可愛いっていうのは分かるんだけどねー?」


 どうやら、リビングアーマーは気絶した少年と黒猫を守るつもりのようだ。

 彼は剣を構える、直後魔物が一斉に襲いかかった。

 先ずはグリズリー、巨大な爪を振り下ろすが、リビングアーマーはそれを巧みに回避。

 そのまま袈裟斬りでグリズリーの胴を切り裂いた。


 「さぁさ、が相手だよー!」


 勇者と名乗る薄汚れた動く鎧、彼の技は見事であった。

 迫りくる巨大カマキリ【ジャイアントマンティス】をバラバラに切り裂き、巨大粘液【スライム】も瞬殺。

 だが、気絶していたあの憐れな獲物は、魔物にとって余程の極上らしく、魔物は次から次へと迫っている。


 「これは正念場、かなー?」

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