第3話 竜種との戦い
竜種が居る、そんな話はこの場所に近い村でも聞かなかった。
一体なぜ、こんなところで。
「リリアちゃん、来るよ!」
理由を考える時間はない、目の前のドラゴンはこちらへ向けた口を大きく開いた。
それはブレスの前兆で……纏っている黒い気配に影響されているのか、バチバチと黒く光る何かが口に溜まっていく。
「やばっ――」
それがかなり危険なものだと判断した私は、すぐさま眼前の森の中に身を隠す。
そのすぐ後に口から放たれたブレスは、放った直線状に小爆発を起こしながら森を破壊していく。
もはやビームとも呼べるそれは間違いなく即死級の攻撃だった。
「流石の私もあんなの見たこと無いんだけど!」
「クレスさんが見たことないなら私にも無いです!」
そもそも竜種なんて相手したことない。冒険者協会に記録されていた情報は見た事があっても、その中にこんなのは居なかったと思う。
ドラゴンは再び口を開き、ブレスの準備をし始めた。
「【
顎へ向けて放ったのはいつもよりも多めに魔力を込めた風の弾丸。
ブレスを妨害するつもりで放った弾丸は……
「嘘でしょ……っ!」
一切のダメージが通ってないように見えた、開き続けた口が再びバチバチと黒く光り始める。
私は再び森の中に入り、先ほどと同じようにブレスを回避した。
小爆発と共に地形が抉れる。
「リリアちゃん、どうする?」
「何とかしたいけど、攻撃手段が無いです!」
あれ以上の魔力を込めた魔法を放っても全然効かない未来が見える。
しかし竜は飛行を辞めないためそれ以外での攻撃は届かない。
「なら、足場を作って上るしかないね」
「上る?」
とはいっても、山の斜面から飛び掛かるのは流石に遠すぎる。
空をこっそり見上げればドラゴンは私を探して空を旋回していた。
「リリアちゃんも無魔法が使えるなら出来ると思うよ?」
「無魔法って強化魔法とかですよね? どれだけ強化してもさすがに……」
「ふっふっふっ、甘いよリリアちゃん」
姿は見えないが、どや顔でこちらに語り掛けている様子が目に浮かんだ、ちょっとムカつく。
しかし、私の知る限り無属性の魔法はそれだけなのも事実だ。
「そもそもね、無魔法っていうのは純粋な魔力を動かす魔法なんだよ」
「それは知っています、魔法の属性は魔力の色を変えることで変わるんですよね?」
魔力の色が赤だったら火魔法、緑だったら風魔法といった具合らしい。
そして、変えられる色はその人の魂の性質に依存する。
「無魔法は無色透明、ただの魔力の塊だとマスターが言っていました」
だから魔力を使って体を強化するような強化魔法や逆に魔力を滞らせるような弱体魔法が無属性に含まれ、それ以外の事はなかなかできないと言われている。
「うん、だから……その魔力の塊を空気に使うの。とりあえずジャンプしてみて」
「え、でも今は――」
「そうやってもたついてる方が危険だから!」
そう言われるがまま、その場でジャンプする。
「【
カツンと、足は地面に着く前に何かに当たった。足元を見れば、私は見えない何かの上に立っている。
これは、空中に足場を作る魔法のようだ。
「これ……」
「ふふん、凄いでしょ」
「そうですね、これなら……【空間凝固】」
魔力を加え、空気を固める。
今の足場の先へ階段の様なイメージで魔法を使ってみる。
恐る恐る足をのばすと、再びカツンと音が鳴ってしっかりとした感覚が足に伝わってきた。
「よし、ここからは攻勢に出よっか!」
「はい……行きます」
再び【
「そして……【空間凝固】!」
着地したい場所に足場を作り、その足場を蹴って更に上へ飛ぶ。
見えない所に飛ぶよりは、ジャンプした一番高い所で足場を作るイメージだ。
「まだちょっと不慣れだけど、行ける!」
数回それを繰り返しながら、ついにドラゴンと同じくらいの高さまでたどり着く。
森の中を探していたドラゴンもさすがにこちらに気が付いたようで、こちらに向けて勢いよく羽ばたきながら突進してきた。
「危なっ……」
すぐさま飛びのき、足場を作りながら空中で攻撃をかわす。
通り過ぎたドラゴンは大きく旋回しながら再びこちらへ向けて攻撃を繰り出した。
鋭そうな鉤爪のひっかきをかわし、すれ違いざまに魔剣でカウンターを仕掛け……たが、キィンと甲高い音が響いた。
「かった……」
全然手ごたえがない、どうやらこのドラゴンの鱗は相当に固いらしい。
足場に着地しながら私はドラゴンへと向き直る。どんな竜種でも、鱗の少ない部分は確実に存在するはずだ。
まずはそれを見つけ出す。
「はぁっ!」
空気を踏みながら、ドラゴンへと肉薄していく。
もちろんドラゴンだってそれを素直に許すはずがない。今度はこちらに大口を開け食らいついて来た。
しっかり空中で方向転換しながら、攻撃をギリギリで回避して剣を振るう。
「狙うは……眼!」
しかし、ドラゴンは顔をずらし上手いこと剣を避けた。
先端を掠めただけでは大したダメージにはならない。
軽く距離を取りつつ、再び接近する。だんだんとこの戦い方にも慣れてきて、足場の応用も可能になってきた。
「ここっ!」
前腕の叩きつけを回避しながら足場を消す。叩く足場が無いせいでドラゴンは少しだけ体勢を崩し――その隙に今度は翼を狙って攻撃する。
流石に飛膜の部分までは鱗が無いようで、放った斬撃は初めてまともにドラゴンに傷をつけた。
「よし、このまま!」
翼を狙い続ければドラゴンの機動力も落ちるはず、向こうの攻撃には対応できてるからこのままなら大丈夫。
魔力も足場を作るだけなら消費は少ないし、持久戦になっても暫く耐えられる。
翼を狙える位置を取り続けながら、ドラゴンの攻撃にカウンターの一撃を合わせていく。
「リリアちゃんって、思った以上に強いんだね」
「クレスと比べたら弱いと思います……よっ!」
再び翼に攻撃が入る、目に見えて翼の傷が増えてきた。着実にダメージは入っているだろう。
そんな中、突如ドラゴンが乱暴に翼を振り始めた。
「あ――」
吹き荒れる風に小さな足場だけでは耐えられず、きりもみ状態で体が宙へと舞う。
視界が目まぐるしく回る中、何度も聞いたバチバチという音が聞こえた。
――まずい、そう直感する。
「【
私はすぐさま魔法を放つ。
出来る限り威力は調整して風の爆弾を自分のすぐ近くで爆破させた。
「ぐっ……」
「リリアちゃん!」
すぐ横をドラゴンの放ったブレスが通り過ぎる。
【風爆弾】で無理やり避けたそれは、山に当たりその斜面を削り取る。
まさか、あんな強硬策で追い込まれるとは思わなかった。
「【空間凝固】! ごめん、私光魔法が使えないから――」
「【
「無理しないで!」
「でもっ――」
ここで逃げたら、一体どうなる。
先の洞窟の揺れは、多分このドラゴンが目覚めたときのものだろう。
どんな生き物であれ目覚めたてなら腹が空いているはずだ、まずはこの森の魔物達が餌になるだろう。
その次は人々が住んでる村だろう。
小さな村にこんな竜種を何とか出来るはずがない、王都の軍勢ならまだ相手が出来るだろうが……それまでに、どれだけの人が死ぬだろうか。
「――引けない、こいつは今ここで止める」
「リリアちゃん……」
「大丈夫です。このドラゴンは技量と知識以外の全てが過去類を見ない強さなだけだと思います」
「それ、本当に大丈夫だと思って言ってる?!」
「思ってますよ」
実際に、ドラゴンが繰り返していたのは無鉄砲な攻撃で私からのカウンターを受け続けていた。
対抗するために暴風を叩きつけてきたが、結局それも力技だ。
「――なら、このドラゴンは今のうちに討伐しなきゃ。放置したらもっと強くなる」
【治癒】の光が消え、私は再び剣を構えなおす。
ドラゴンは大きく羽ばたきながらこちらの様子を窺っているようだった。
「そっか、リリアちゃんはそういう子なんだね」
そんな言葉が聞こえたのと同時に、魔剣が仄かに光を帯びる。
「ごめんね、ここまで一人で戦わせて。ここからは私も援護する」
「クレス……」
「牽制と足場の生成は私がやるから、リリアは倒すことだけに集中して」
「……出来るんですか?」
「さっきまでずっと、リリアの動きを見てたんだよ? 完璧に合わせてみせるから」
その声と共に、私の周囲に小さな石粒が生成された。
「【
「うん!」
空気の足場を蹴り、私は再び空へと飛び出した。
それと同時にドラゴンも動き出すが、ドラゴンに向けて土魔法の弾幕が放たれる。
一つ一つが鋭く尖っており、鱗に当たっても大したダメージにはならないだろうが翼に当たればかなりの痛手だ。
「攻撃が通るのはやっぱり翼と目の周り、関節部分は鱗がないけど骨が固いからあまり狙わない方が良いかも!」
「わかってる!」
クレスが作ってくれる足場は、私が動こうと思った位置に出現してくれる。
弾幕に遮られ動きを制限されたドラゴンは、三度私の接近を許す事になった。
相変わらず力任せに振り抜かれる鉤爪には当たるわけがない。
「舐めるなぁ!」
足場を使って回避したとき、既に周囲には様々なものが浮いていた。
牽制・攻撃用の【土散弾】に加え、同じく土魔法で作られたであろう足場が複数見える。
「これだけの魔法の同時制御を……」
「発射!」
攻撃の後隙に向けてクレスの魔法が放たれる。それによって翼には沢山の石片が刺さり、ドラゴンは空中で姿勢を崩した。
先ほどと同じような状況だが、先ほどと同じ攻撃は繰り出さない。
既にある土魔法の足場を使いながら、私はドラゴンの顔を目がけて走り抜ける。
それを見たドラゴンはもちろん回避を試みるが……私が蹴り終えた足場がドラゴン目がけて飛んでいき、その動きを妨げる。
「取った!」
眼前にドラゴンの頭が迫り、私は剣を大きく振り上げる。
しかし、ドラゴンはそこで大きく口を開く、その内で再び黒いものが弾けた。
ブレスの前兆、この至近距離ではまず直撃は避けられない。
――なら。
すぐさま振り上げた剣を逆手に持ち替え、両手でその刃をドラゴンの口の中へと突き立てる。
「クレス!」
「頼まれたっ!」
私は魔剣を手放し、ドラゴンの体を蹴って全力で後ろに飛ぶ。
「文字通り喰らえ! 【
ドラゴンの体内で発生したその魔法は、轟音と共にその巨体を叩き落した。
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