第2話 誰にも、言えない

ああ、僕は生ゴミなんだ。だから蝿が寄ってくる。蝿はただの蝿ではなく教科書やノートを破いたり、上履きに油性マジックで落書きをしたりした。


でも、生ゴミは母の再婚を境に、ただのゴミになった。誰も話しかけない。誰もいない。毎日独り、非常階段で泣いていた。泣いて、泣いて、でも誰にもばれないように。

本当は『僕はここにいるのに』と誰かに叫びたかったけれど。


 その時も僕はジャージだった。だって、ジャージの方があったかいから。


──────────


入学式から一ヶ月しないうちに制服のブレザーは、体育の授業の合間になくなってしまった。ゴミ箱から見つかった制服は鋏で切り刻まれていた。


教師は見て見ぬふりを決め込んだ。誰も信じられない。保健室に行っても意図を汲んでくれる筈もなく


「熱はないから教室へ帰りなさい」


そう言われる有り様だった。


母さんには絶対に言えなかった。言いたくなかった。僕がいじめられていると知ったら絶対に悲しくてつらい思いをする。


そう思っていた。子供にもプライドはある。それに、もし僕のことを『恥ずかしい』と、友達も誰もいないなんて、と思われたらどうしようとも思った。そんな倦んだ毎日を過ごしていた。


僕が制服を着ないと訝しむ母に、前の制服は、友達と遊んでいたらボロボロになってしまい、怒られると思い内緒で捨てたと嘘をついた。


そして新しい制服や上履きを買って貰った。でも、考えもしないことが待っていた。

  

新しい家において自分はゴミで、生ゴミでもあった。義兄はお小遣いを渡せと要求し、義姉は存在を無視した。しかし、両親が揃うと『優しい兄と姉』に姿を変える。


母さんも義父も気づかない。自然と暗黙の了解のように僕の話題は出ることはなく、次第に僕の存在は、この家から忘れ去られていった。


一度だけ勇気を出して母さんに相談してみたら、散々怒られた挙げ句、


「新しい環境でストレスがかかったのね、被害妄想かしら──私の育て方が悪かったのね」


そう言い泣き出す始末だった。芝居じみていて、その時、猛烈に腹が立ち、虚しくなった。


この人は、全部解っていた。僕がこの人を守ろうと必死で嘘をつき、取り繕った歳月は何だったんだろう。



──────────《続》

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