ジキタリスの花──ずっとあなたが好きでした──

華周夏

第1話 出来損ない

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ずっとあの日の先輩を胸にしまって生きてきた。初めて誰かの前で泣いたあの日。誰かの胸の中で泣いたあの日。


夏が近くて入道雲が出ていた。陽の光を受け、パールのようにきらきらと反射していた。あまりにも眩しく光っていて、少しだけ、怖かった。


そして、高原での約束。ニッコウキスゲが揺れていた。眩しい黄色い花は先輩と僕をじっと見ていた。


──────────

 

僕は出来損ないだった。勉強は出来ないし、運動も出来なかった。でも、かけっこだけは速かった。


運動会の日、母さんは甘い厚焼き玉子と鮭のおにぎりを必ず作ってくれた。こんな自分が一番になれる一年で一番幸せな日だった。


  ***


中学一年になった頃、母さんに連れられて『豪邸』と呼ばれるその家に来たときは全てが輝いて見えた。


「新しくお兄ちゃんとお姉ちゃんができるのよ」


そう母さんに言われ胸が高鳴った。新しい『兄と姉』義兄は有名大学の一年、義姉は名門女子中の三年だった。とにかく大きくて綺麗な家。前に住んでいた所とは大違いだった。


前のお家は狭くて、暗くて、下水の臭いがした。あの家には戻りたくない。小学生の頃散々言われた。


「何で相模くんはいつも運動着なの?」


ニヤニヤしながら蝿のように寄ってくるクラスメイト。


「寒いからだよ。皆が着ているフリースよりジャージの方があったかいよ」


無邪気を装い笑う自分が、何よりも嫌いだった。悪意をもった言葉たちにも、解らないふりを決めこんでニコニコしていた。


影で女子には『可哀想』と嘲笑を潜めて言われ、男子には『馬鹿で汚いもの』だからどう扱っても良いと思われていた。


僕のあだ名は『ジャージ君』だった。



──────────《続》 

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