第59話 結衣
「……異界との壁を打ち破り、異界の扉を開放し、我らに異世界への新たなる道を示し給え!」
呪文の詠唱が終わると、謁見の間で異様な空気の圧迫を感じ、視界が歪んだ——ガラスの
エリザベスは、
「皆さん、床に伏せて下さい!」
と叫んだ。
全く何のことか理解できなかった衛兵たちは、たちまち穴の中に吸い込まれていった。幸い、早めに床に伏せた海斗たちに被害は出なかった。魔法は不完全だったのか、空間の穴はじわじわと縮小し、やがて完全に消滅した。巻き込まれた衛兵たちは初めから存在しなかったかのように、叫び声と共に消失した。カイアンは舌打ちをし、結衣は眼を丸くして、今起きたことが信じられない、といった表情だった。
「今だ、入ってきた扉から大聖堂を経由して、大聖堂の出口から逃げるぞ」
アリシアはそう叫ぶと、扉を開けて、謁見の間の外へと出た。武器を預かっていた衛兵は一人しかおらず、アリシアは一瞬で距離を詰めた。そして、鋭く踏み込むと全体重をのせたアッパーカットが衛兵の
「大聖堂の出口に向かうぞ」
と叫んだ。
海斗が
そして、余裕しゃくしゃくの表情のカイアンが中央出口から出てきて、こう言った。
「海斗、もう一度、先程の呪文を唱えろ。ただし今度は、私が君に貸した剣を媒体にしてな。どうやら剣なしでは、満足に魔法の一つも発動できないみたいだからな……私をこれ以上失望させるなよ、海斗」
海斗は
「カイアンさん、本当にあなたは、フェルノスの森で俺を助けてくれた、あのカイアンさんなのか?」と信じたくない、といった表情で尋ねた。
「そうだとしたら?」
「どうしてだ? どうしてこんなことをする! あの親切で優しかったカイアンさんと同一人物だとは思えない」
「ハハハ、海斗君、君はまだ青臭い子供だ。大人の事情はわかるまい」
「俺と結衣を賞金首にしたのも、カイアンさん、本当にあなたなのか?」
「もう隠していても仕方あるまい。その通り、君たちを賞金首にしたのは私だ!」
アンジェリカが、海斗とカイアンの会話に割って入って
「ほらね、私の言った通りでしょう」とドヤ顔で言った。
「カイアンさん、いやカイアン。俺たちは修道院で正気を失った巫女たちを見てきた。一体何が目的でこんなことをする?」
カイアンは
「そんなことは君が知る必要はない。知りたかったら、せいぜい実力で私に言わせるのだな、ハハハハ」と高らかに笑った。
「そうかよ」
海斗はそう言うと、エリザベスに目配せをした。エリザベスは詠唱する。
「全知全能なる神よ、敬虔なる者たちに
詠唱が終わると青白い光に包まれた海斗は、カイアンと海斗の間にいた衛兵たちを跳び越え、カイアンに一太刀浴びせようとした。
「どうしても言わないというのであれば、アンタの言うとおり実力で言わせてやる!」
しかし、海斗の背後から影が飛び出すと、その影はカイアンと海斗の間に割って入り、海斗の剣をダガーで受け止めた。その影とは結衣だった。
海斗は驚き、当初一体何が起きたのか全く理解できなかった。結衣は頭がおかしくなったのか、それとも錯乱の魔法でもかけられたのか。海斗は、
「結衣、どうした、結衣。どうして俺たちを賞金首にした奴をかばう?」と叫んだ。
カイアンは、
「結衣のことは、最後まで海斗には秘密にしておきたかったのだがな。しようがない、結衣、本当のことを言ってやれ」と言いながら不敵な笑いを浮かべた。
結衣は今まで見せたことがない、厳しい顔をして
「海斗、私はねカイアンの、いやあなたから見たら平行世界の海斗のスパイだったのよ」と答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます