第23話 復讐前夜
「お嬢様、無茶です。お嬢様は巫女でヒーラーです。お一人で賞金首らのパーティに戦いを挑むのは無謀すぎます!」
自室に戻ったエリザベスは、セリーナに必死の形相で止められていた。
「私だって攻撃用の光魔法を使えます。それに、今は一刻も早く動かなくてはいけません」
「ですが、お嬢様……」
エリザベスはセリーナの言葉を
「今、重臣会議で賞金首のKaitoをどう処理するか、議題に挙がっていることは知っています。それほどチャームの魔法やスキルは危険だからです。ですが、暗殺されそうになったKaitoらは急いでエルシオン王国から逃亡しようとするでしょう。会議の結果を待っていては、遅いのです」
と説いた。
「それでは、エリザベスお嬢様は、Kaitoらのおおよその現在地はわかっているのですか?」
「私は、アンナベルお姉様に送った封書に、精霊の粉をつけておきました。恐らくお姉様を拘束したときにお姉様の体に触れているKaitoたちにも精霊の粉が付いているはずです。その痕跡を辿れば……」
「Kaitoらの位置がわかると?」
「残念ながら、Kaitoらに付いた精霊の粉は微量です。簡単にはたどれません。しかし、アンナベルお姉様が拘束された現場まで行けば、きっと痕跡は見つかると思います」
「わかりました、エリザベスお嬢様。とりあえずその現場まで行ってみましょう。ただし、私と護衛の兵を連れて行くことが条件です」
エリザベスは厳しい表情をして
「護衛の兵を伴うのは不可能です。父上の外出禁止令が出ている以上、近衛隊の目をかいくぐって王宮を出るしかありません。」
と首を振った。
セリーナは覚悟を決め、
「せめて私が同伴します」
と告げた。
エリザベスはメイド服を借りてくるよう指示した。
メイド服にベールで顔を覆ったエリザベスは、セリーナと王宮の出口に向かって廊下をしずしずと歩いていていた。
だが、出口付近にまで来ると近衞隊のトーマス他3名の兵士が出口で待っていた。
これはもう外出は無理か、と諦めかけたエリザベスであったが、次の瞬間思いもよらない言葉をトーマスからかけられた。
「エリザベス王女様、お待ちしておりました。アンナベル様の敵討ちをするのなら、我らもその隊に加わらせて下さい。もとより処罰は覚悟の上です」
エリザベスは顔を覆っていたベールを外すと、
「本当ですか。本当に信用していいのですか」
キリッとした表情で問いただした。
トーマスらは中腰になって片膝を地面につけ、胸に手を当て頭を垂れると
「はい、近衛隊の名誉にかけて」
「わかりました。では皆にアンナベルお姉様の敵討ちを手伝ってもらいます。まずはKaitoらの居場所を探るために、アンナベルお姉様が拘束されていた場所まで行きます。馬は用意できますか」
「わかりました。しばしお待ち下さい」
トーマスらは厩舎に向かって小走りで去っていった。
セリーナはその間に部屋に戻り、エリザベスの杖を持ってきた。
馬上の人となったエリザベスたちは、アンナベルが拘束されていた双月亭へ急ぐ。到着すると、エリザベスは精霊の粉の痕跡を探り、Kaitoたちの進路を割り出した。
「Kaitoたちは西の方に向かって、ヴァルディス公国との国境の関所に向かう道筋にいます。恐らく、距離から考えて徒歩で向かっていると思われます。関所まで馬で先回りしますよ、トーマス!」
「わかりました、エリザベス様。よし、皆国境の関所まで最大速度で向かうぞ」
「おうっ」
「それとセリーナ。あなたは王宮に帰りなさい」
「……わかりました、エリザベスお嬢様。戦えない私は戦場では足手まといになる、と言うことですね」
「厳しい言い方になりますが、そういうことです。セリーナ、どうか私の帰ってくる場所を守っていて下さい」
「わかりました、エリザベスお嬢様。どうかご武運を」
祈るセリーナを尻目に、エリザベスを乗せたトーマスの騎馬および他三名の騎馬は、西の国境の関所に向けて走り始めた。
夜を徹して駆けつけたエリザベスたちは、関所近くのセルドラ平原で馬を降りた。冷たい朝の空気が漂い、東の空がオレンジ色に染まり始めている。やがて、陽を背に仮面をつけた男を先頭に4人の姿が現れた。
それはエリザベスが神託で見たKaitoらのパーティの姿、そのものであった。
「止まりなさい、そこのパーティ」
エリザベスの声は高らかにセルドラ平原に響いた。
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