第4話 疑念(再改稿後)
結衣はついでとばかりに、アリシアに聞いた。
「それで、どういう理由で私たちが賞金首になったのか、理由は知っているの?」
アリシアは少し
「それを私に聞く? あんたの薄い胸に手を当てて、よーく考えた方が早いんじゃないの?」
と結衣の胸を見ながら言った。
「あんたじゃなくて、結衣よ、結衣。それに私は成長期でこれから大きくなるんだからね!」
結衣はぷりぷりと怒った。
「いや、本当に俺たちに心当たりがないんだ、アリシア。もし理由を知っているのなら教えてくれないか?」
アリシアは海斗の方を振り返ると、優しいまなざしで
「そうなのダーリン? 私も知っているなら教えてあげたいんだけどね。ダーリンたちがローレンシア教の宗教異端者として賞金首になっていること以外、何も知らないんだ。教会から依頼を受けた冒険者ギルドも詳しい事情は知らないようだった。要は手配書以上のことは知らないんだ。ごめんね、ダーリン」
と、すまなそうに言った。
アリシアの露骨な態度の違いに、結衣はますますおもしろくなさそうな顔をした。
「宗教異端者? 悪魔や他の宗教を信仰しているとか、ローレンシア教の教えに反している言動を私たちがしているということ?」
と、結衣は信じられないといった表情をした。
「アリシア、事情があって詳しく言えないのだけれども、俺たちついさっき、この国に入ったばかりなんだ。仮に俺たちが異端者扱いされるような言動をしていたとしても、情報がまわるのが早すぎる。まるで俺たちがこの国に入る前から、賞金首の手配を終えていたかのように俺には思える」
アリシアは海斗の腕をさらに強く抱きしめながら、結衣に不憫そうな目を向けて
「かわいそうなダーリン。私がダーリンのことを守ってあげる。あの薄い胸の、お邪魔虫女はともかく」
と言った。
「だから、結衣よ、結衣。それに今度胸が薄いって言ったら承知しないんだから!」
結衣も段々遠慮なく声を張り上げ始めていた。
海斗はこのやりとりを意図的にスルーして、二人に意見を尋ねた。
「さて、これからどうしたものか。これから刺客にびくびく怯えながら、ずっと逃げ回らなければいけないのか」
「本当は賞金首になった理由を調べて、ローレンシア教の偉い人の誤解を解くのが一番いいのだけれどもね」
その言葉を聞いてアリシアは、
「もしお邪魔虫が言った通りにするのなら、最終的にはローレンシア教皇国に行くことになるかもしれないな……」と付け加えた。
「うーん、とりあえずは結衣の言う方針でいくとして……それにしても賞金首になった理由がわからないと弁明のしようもないからな。とにかく
「それなら、いい仮面がある。私の行きつけの道具屋に、着けても人の注意を惹かない魔法が施された仮面を売っている。そこで仮面を買えばいい」
海斗はなるほど、と言う顔をして、
「そうか、それはいい。だけども、訳あって今俺たち手持ちの金がないんだ。もし可能なら、後から必ず返すから仮面の代金を貸しといてくれないか?」
と少しばつが悪そうに言った。
「いいよ、二人の出会いを祝して、私がダーリンにプレゼントしようじゃないか」
と言って、アリシアは、まかせとけといった顔で海斗に対して親指を立てた。
「それは助かるわ」
結衣はアリシアと会って、初めてうれしそうな顔をした。しかし、次の瞬間アリシアはにべもなく、
「あんたには貸しだからね、貸し。利息をつけて返してもらうからな」
とつきはなした。
もはやアリシアには結衣と呼ぶ気もなければ、仲良くしようとする気もさらさらないことを悟ったのだろう。結衣はそれ以上何も言わなかった。
「じゃあ、ダーリン、道具屋に行ってくるから戻ってくるまで、冒険者たちに殺されずにいろよ~」
ガレアに通じる森の細道をアリシアは歩きながら、海斗たちの方を振り返って、冗談とも本気とも取れる調子で言った。
「ハハハ、せいぜい殺されないように努力するよ」
その後のアリシアの行動を見ていると、細道を歩きながら道の途中の木の幹にナイフで何か刻んでいた。
「一体、何をしているのかしら?」
「さあ、多分ココに帰ってくる時に道に迷わないために、
「そうね。細道があると言っても、これぐらいの道、森の中にいくつでもありそうだもんね」
海斗は本当にアリシア以外の冒険者が、ガレアの街中を歩いていた結衣の後をつけてきて、ココに来ることはないのだろうか、と不安になりながら、アリシアの帰りを待った。
そして海斗たちの世界の時間でおそらく4時間ぐらい待ったが、アリシアが戻ってくる様子はなかった。
「結衣、ガレアの町って、ココから遠いのか?」
「ううん、そんなに遠くはない、と思う。時計がないから正確な時間はわからないけれども、歩いて20分ぐらいじゃないかな」
「それにしては、ちょっと帰ってくるのが遅いと思わないか? 仮面を買ってくるだけだろう?」
「そうねぇ、確かに。他に何か用事があったのかしら」
そう言い終わると、結衣は何かを思い出した様子で
「ところで海斗、チャームのスキルってね、限界があるらしいの。神様によると『海斗の顔を1週間以上見なければ海斗の存在や海斗との思い出を忘れてしまう』って言ってた」
と言った。
海斗は深いため息をつきながら言った。
「また神様かよ。……ところでさ、その神様、どうやったら俺たちが元いた世界に戻れるか、言っていたか?」
「ううん、そのことに関しては何も言っていなかった」
「って言うか、普通聞かないか? そういう大事なこと?」
海斗は信じられないと言った口調だ。
「そんなこと言われたって、変なこと聞いて神様のご機嫌を損ねたら、後が怖いでしょ? それにその時は、まさか自分が賞金首になっているなんて、思いもしなかったもの」
「まあ、それはそうかもしれないけど、さ。」
言葉ではそう言ったが、海斗はかなり不満げな表情だった。
「言い忘れてたと言えば、海斗、めったやたらとチャームのスキルを使うのやめた方が良いわよ」
「別に乱用するつもりはないけど、自分や結衣たちを守るために使う分には仕方がないだろう?」
「それはそうだけど、恋人が大勢できたら、その中にはそれに怒って海斗のことを刺そうとする女性だって出てこないとは限らないわ」
「……まあ、そうかもな。考えておく」
刺客やアリシアのことでの不安や元いた世界に帰る方法がわからないいらだちで海斗は、心ここにあらずと言った感じだ。
「何よ、人が親切にアドバイスしてあげているんじゃない」
結衣は少し不服そうな顔をした。
「……」
「……」
結衣との会話が続かなくなると、森の奥の方から聞き慣れない鳥の鳴き声らしきものが聞こえてくる。
「本当にガレアの町に買い物に行っただけなんだよな?」
「そんなこと、私に聞かれたってわかるはずないじゃない!」
何を言っているのよ、といった顔の結衣。
不安に苛まされた海斗は、ついにアリシアを疑うような言動をし始めた。
「多分そんなことはないだろうと思うけど、俺たちを裏切って冒険者ギルドに俺たちの居場所の情報を売ったり、他の冒険者たちに助太刀を頼んで俺たちを狩りに来る、ってことはないんだろうか、・・・・・・ないですよね?」
結衣も少し不安なのか、苛立った様子で強い口調で言った。
「だから、そんなこと聞かれても私もわからないって!」
「あの木の幹に刻んだ印も自分が帰ってくるためじゃなくて、他の冒険者が迷わずにココに来るため、ってことはないのだろうか?」
結衣は、いい加減不安を増長させる海斗の発言に飽き飽きしてきたのか、淡々と
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないかもしれないわね」
と答えた。
「ちなみに、聞くけどさ、結衣」
「何よ」
「俺のチャームのスキルって、本当に効力が一週間は続くんだよな?」
結衣もそのことについては少し自信がないのか、幾分小声で
「そういうふうに、神様が言ってたのよ」
とつぶやくように言った。
「うーん」
心細い海斗は、唸りながらアリシアの帰りを待つことぐらいしかやることはなかった。
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