第21話 私の推しはアビス様

 唐突ですが、ここで、ライカンスロープのお兄さんアビス・ダークオブダークの……大ファンである一人の学生の視点に……一旦、チェンジ。


――闘技場


 闘技場の観客席に友人と共に座る若い女がいた。その名はミリ・クランベリ。


 異世界『ワリアルカンデ』特有のオレンジ色の髪はセミロングで、少しだけ外向きにハネている(クセ毛)。


 彼女はゴーストビレッジの近郊にある『ウズラスの町』に住む学生だ。


 一見、大人しい性格に見える彼女だが、実は好奇心が旺盛である。


 ちょうど一ヶ月前、彼女は友人のリム・(ちょっとヤンチャ)から『スリリングな場所』へ誘われた。


 それがゴーストビレッジの闘技場だったのである。


 初めて試合を観たとき、

「すごい!とても、とても面白い!それでそれで、カッコいいッ!(語彙力低)」

 と、プレゼンターを務めるアビス・ダークオブダークにたちまち魅了されたミリは、その後も隠れて闘技場に通っていた。


 今日もがんばって早起きし、闘技場へやって来た!……のだが……。


 アオヤナギーのとんでもない試合を観戦、なんだか、しおしお……とした気分になっていた。


――ミリの気持ち


「う〜〜ん、なんだかもやもやする……」


 私が席で丸くなっていると、オヤツを買いに行っていたリムちゃんが戻って来た……というか、さっそく何かかじっているし、何だろ?美味しそう。


「さっき、屋台のところにお知らせがあったんだけど、この後、再試合があるらしいよ」

 

「え?再試合って、どういうこと?」


「さぁ?知らない……私もこんなこと初めてだし……でも、まぁ、いいじゃないの!だって、またアビス様が見られるんだから!」


「そ、そうだよね!ファンサービスの時間も、今日は無かったしさ、なんかもやもやしていたから、良かったよ!」


「うん、そうでしょ、私も同じーー」

 と、リムちゃんは席に座った。


 ……あれ?


 その!もう一つ持っているオヤツは私の分じゃないのかなぁ?

 あれ?お金渡したと思ったんだけどなぁ……。


「あ、あのさ、何を買って来たの?」

「これ?チュロスっていう異世界の食べ物だってさ、サクサクしているし、甘いし、美味しいよ!」


「リムちゃん!チョロス……私にもよこせ!!」

「ほい!」

「た、たしかに美味しい!」

「おっ、始まるみたいだよ!」


 私がチョロス(?)に夢中になっていた隙に! 


 アビス様が闘技場の真ん中に現れたよッ!

 不思議!素敵!


「さぁ緊急で今から試合が始めるよッ!」 

「キャー!素敵ー!」


「まずはモンスター!ダンシングオークの登場だッ!」


「ぶぅわぁーー!」


 うわぁ!びっくりした!そもそも、

「ダンシングオーク!?な、なにそれ!?」


 リムちゃんがクールに、

「素早く動けて、しかも踊れるオークだよ」

 と、一言。


「知っているのか、リムちゃん!」

「うん、聞いたことがある」


 え……?


「聞いたことがあるって……誰に?」


「闘技場のご意見番……鳥みたいな顔の人に」


「え……?」

「後で話してあげるよ。今は試合を観よう」

「う、うん」


「そして挑戦者は、本日連戦となるアオヤナギーだ!!」


 あ……!あの避けてばっかりだったおじさんだ!うわぁ!嫌だぁ!


 すると、おじさんが急に叫んだ!

「ちょっと待てぃ!」


「ど、どうしたんだいアオヤナギー?」


「ウハハハハハ!今から私は変身する!そして、ブルーリ……いや、ブルーイカリングとなるのだ!」


 ブルーイカリング?


 すると、おじさんが抱えていたマスクを、


 スポッ!


 と、かぶった!

「変身!!」


 ……!?


「ハハハッ!我が演出に付き合わせてしまって大変、申し訳なかったぞ!ウハハハハハ!」


 マスクかぶっただけ?あれ?何?

 「え……?」


 すると、リムちゃんがボソっとつぶやいた。

「さっきの試合と全然、雰囲気が違う」


「そ、そうなのリムちゃん!?」


「あぁ、あのおじさんの中で何かが変わったんだ……多分」


 うぅ、リムちゃん、いつの間にか解説者みたいに成長していたのね。



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