第2話 荒野の出会い
カイが村を出て数日目、旅路は険しさを増していた。空は灰色に曇り、冷たい風が吹きつける荒野を一人で歩き続ける中、足取りは重く、彼の体力も限界に近づいていた。
「身体の書……本当にそんなものがあるのか?」
自問自答しながら、ふと遠くに人影を見つけた。倒れかけた荷車の脇に座り込む、一人の男。近づくと、その男はボロボロの衣服に包まれた中年の商人だった。
「……助けが必要ですか?」カイが声をかけると、男は疲れ切った顔をこちらに向け、弱々しく微笑んだ。
「助け?私にはもう、何もないんだよ。」
彼の名はギル。かつては近隣の村々を渡り歩く豪商だったという。しかし今は、商売に必要な「稼ぐ力」を失い、すべてを奪われたような状態だった。計算も交渉もできず、ただ彷徨うだけの日々。
「商売なんてな、身体で覚えるもんなんだよ。だがその身体が、金を数える感覚を、取引の勘を……全部忘れちまった。」
ギルの話を聞きながら、カイは確信した。これは村の異変と同じものだ。彼の身体の記憶が失われている。
「身体の記憶を取り戻せるかもしれない方法を探してるんです。一緒に来ませんか?」
カイの言葉に、ギルは目を見開いた。ほんの一瞬だけ、失われたはずの希望が彼の瞳に灯った。そして、彼はゆっくりと頷いた。
その翌日、二人は森の中で物音を耳にした。木々の間から現れたのは、一人の若い女性――刃を腰に下げた剣士だった。しかし、彼女の動きはぎこちなく、手にした剣も震えている。
「何をしているんだ?」カイが尋ねると、女性は荒い息をつきながら剣を地面に落とした。
「……私はアリス。この剣は、かつての私そのものだった。でも、今は何の役にも立たない。」
かつて名を馳せた剣士であったアリス。だが、戦いの「技」を失った今、彼女は剣を振るうこともできず、自分自身を見失っていた。
「剣の振り方を思い出そうとしても、身体が言うことを聞かない。頭ではわかっているのに、手が動かないんだ。」
アリスの言葉にカイは静かに頷き、彼女の目を見つめた。
「それでも、あなたの身体はまだ覚えているはずです。きっと取り戻せます。一緒に行きましょう。」
カイの言葉はどこか不思議な説得力を持っていた。その声に、アリスは剣を拾い上げ、静かに歩み寄った。
こうして、稼ぐ力を失ったギルと、戦う力を失ったアリスがカイの旅に加わった。それぞれが自分自身の失われた「記憶」を取り戻すため、そして「身体の書」を探すために手を取り合った。
彼らの身体にはまだ何かが残っている――それを信じ、カイたちは険しい道を進む。身体の声が導く先に、真実が待っていると信じて。
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