第3話

ゲーム繋がりでちょっと雑談をば。

もうすぐモンハンの新作が発売されますね。

私はもう完全初見プレイを楽しみたいと思って全ての情報をシャットアウトし、ベータテストも未プレイです。

拙作は少なくともモンハン発売日までは毎日更新できるのでそれまでの暇潰しにでも楽しんで頂けたら幸いです。

では、本編どうぞ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……おはよう、藤宮くん」


 翌朝、学校に着いてすぐ、俺は聞き慣れたはずの声に思わず足を止めた。


 桜井玲奈。


 昨日、VRゲーム『Virtual Academy』で俺に「少しずつ現実でも仲良くなりたい」と言った彼女。


 でも、今日の玲奈はやっぱりいつも通りの完璧な優等生の姿だった。

 相変わらず整った表情で、クールで、どこか距離のある声。


 俺は、昨日のゲーム内での玲奈の笑顔を思い出す。


「……お、おう、おはよう」


 なぜか妙にぎこちない挨拶になってしまった。

 玲奈は俺をじっと見つめたまま、何かを言いたそうに口を開きかけたが、結局そのまま何も言わずに自分の席へと戻っていった。


(……どう接すればいいんだ、俺たち)


 昨日、「焦らなくていい」とは言ったけど、こうして改めて向き合うと戸惑いが大きい。

 ゲームでは自然に会話できるのに、リアルではちっとも自然になれない。


(リアルでも、ルナみたいに接してくれたら楽なのにな……)


 そんなことを思ってしまう時点で、俺はまだ玲奈の「現実」と「ゲーム」のギャップを受け止めきれていないのかもしれない。




「お前、今日ずっとボーッとしてるけど、なんかあった?」


 昼休み、またしても隣の席の颯真に突っ込まれる。


「……まぁ、ちょっとな」


 適当に誤魔化しながら弁当をつつく。玲奈との関係が変わったことなんて、誰にも話せるわけがない。


「悠、今日放課後ゲーセン行かね?」


「え?」


「ほら、新しい音ゲー入ったって聞いたからさ。たまには息抜きしろよー」


(……ゲーセンか)


 悪くない。考えすぎても仕方がないし、気分転換にはちょうどいいかもしれない。

 颯真も俺を元気づけようとして提案してくれたことかもしれないし。


「じゃあ、行くか」


 俺が頷くと、颯真は満足そうに笑った。


「よし、決まりな! じゃ、放課後な!」


 そんな軽いノリで約束を交わしたけど――この時の俺は知らなかった。

 まさか、そこでまた玲奈と出くわすことになるなんて。



 ▽▲▽▲▽▲



 放課後、ゲームセンターにて


「おっ、これこれ! やっぱ新しい筐体、めっちゃかっこいいな!」


 颯真と一緒に入ったゲームセンターは、学生たちで賑わっていた。俺たちは目的の音ゲーを探し、さっそく順番待ちをすることにした。


「お前、こういうの得意だっけ?」


「まぁ、そこそこ」


「俺はリズム感ないからさー、簡単な曲しかできねぇんだよな」


 そんなくだらない話をしながら待っていると、ふと、少し離れたゲーム筐体の方で見覚えのある横顔を見つけた。


(……あれ?)


 長い銀髪がさらりと揺れる。端正な横顔。クールな表情。

 そして――スッと機敏に動く指先。


(……玲奈?)


 桜井玲奈が、誰にも気づかれないようにフードを深くかぶり、格闘ゲームの筐体に向かって集中していた。

 そのプレイは――めちゃくちゃうまい。


「すげぇ……」


 思わず呟いた。まさか、玲奈がこんな場所で、しかもこんなに真剣にゲームをしているとは思わなかった。


「ん? どうした?」


 颯真が不思議そうに俺の視線を追う。俺は慌てて目を逸らした。


(いや、でも……声をかけた方がいいのか?)


 でも、玲奈がリアルでゲームをしているところなんて、絶対に知られたくないはずだ。もし俺が今声をかけたら、玲奈は嫌がるかもしれない。


(……ここは、黙っておくべきか)


 そう考えて、その場をやり過ごそうとした。


 しかし、次の瞬間。


「あっ……」


 玲奈が操作ミスをしたのか、小さく声を漏らした。


 その声を聞いた時、俺はゲーム内でルナが「負けちゃった~!」と拗ねていた時のことを思い出した。


(やっぱり……ルナと玲奈は、同じ人なんだよな)


「ちょっと待っててくれ」


「え? あ、おい!」


 颯真にそう言い残し俺は迷った末に、そっと玲奈のそばへ歩み寄った。


「……玲奈さん?」


 フードの下から、玲奈の目が驚いたように見開かれた。


「……藤宮くん?」


「その、すごいな。こんなにゲームうまいとは思わなかった」


 玲奈は少しだけ動揺した様子で、視線を逸らした。


「……ここでのことは、誰にも言わないで」


「言わないよ。っていうか、隠す必要あるのか?」


「あるわ。クラスの皆が知ったら、イメージが崩れるでしょう?」


「別に、玲奈さんがゲーム好きでもいいんじゃないか? 俺は……なんか、少し嬉しいけど」


 玲奈は少しだけ目を丸くして、それから、ほんの少しだけ口元を緩めた。


「……悠は、本当にゲームの中の時と同じようなことを言うのね」


 その言葉に、俺は少しドキリとした。

 一瞬ゲームの中の『ルナ』と目の前の『玲奈』が重なって見えた。


「……藤宮くん、今度、ゲームで対戦する?」


「え? いいのか?」


「ええ。ただし、負けたら……私の言うこと、ひとつ聞いてもらうわ」


 玲奈はクスッと笑った。

 その笑顔は、俺の知る『ルナ』のそれに、とてもよく似ていた。




 俺たちは、現実でも少しずつ近づいているのかもしれない。

 ゲームでは恋人同士。リアルではクラスメイト。

 でも、その境界線は、少しずつ曖昧になってきている気がする。

 俺の思い違いでなければいいけど……。 

 俺と玲奈の関係は、これからどうなるんだろう。


 ――そんなことを考えながら、俺はもう一度、玲奈の横顔を盗み見た。

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